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初詣の帰り道②

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「あけましておめでとうございます。……文子さま、その後いかが?」
 頼子さんは、ご家族から離れて私に近づくと、顔を寄せてきた。

「その後?」
 もしかして婚礼のこと?

学級クラスの皆様、心配してらしたわ。私は『そっとしておいてあげたら』って言っておきましたけど、人の口に戸は立てられないものですからね」

 頼子さんは、嫌味なく直截ちょくせつに言う。
 彼女とは特に仲良しというのではなかったが、級友たちの中でも人気のある、さわやかな気質の人である。

「皆様に、『ご心配なく』ってお伝えして下さいませね。確かに嫌な経験でしたけど、結婚しなくて本当によかったと思っています」

「そうなの! お元気そうだし、安心しましてよ。皆様にも伝えておきます」

 頼子さんは、ご家族のほうを振り返り微笑んだ。
「ごめんなさい、今から家族と初詣に行きますの。またね」

 後ろで、私たちを笑顔で見守っていた頼子さんのご両親にご挨拶して別れた後、律子が心配そうに言った。

「人の口に戸は立てられない、ってどういう意味なのかしら。既に、お姉様の悪い噂が何か出回っているのかしら」

「さあ? 多少は何か言われてるでしょうね。でも気にしない」
「お姉様って強いわね」

 律子は感心したように言った。
 私は自分でも何故こんなに強気なのか不思議に思うが、同時にその理由の一端はわかっている。

「なんとなく、だけど」
「なに?」
「公威様が居て下さるから、心配しなくていい気がしてるの」
「公威様? 公威様がご家族にとりなしてくだすったのは知ってるけど」

 律子は、彼が私と千代を助けてくれた時のことをよく知らないから不思議そうである。
 でも、私はあの時のことを思い出すと、未だに胸がときめいてくるのだ。

 私の下敷きになり、『いてて』と言って顔をしかめて笑った姿。
 私達のために、俥屋さんに一所懸命お願いしてくれた姿。

 彼を “私達のお味方” と決めつけるのは、早計であろうか。

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