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震えが止まらなくて

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 控えの間の襖を開けると、女衆さんがおひとり、火鉢の準備をしてくれていた。十能じゅうのうから火鉢に、赤く燃える炭を手際よく移していく。
 部屋は身が凍えるような寒さだった。

「お寒うございますね。どうぞ、火鉢のそばへ」
 その人は優しく言うと、その後すぐに軽くお辞儀して出て行った。

 私は普段着に着替えるために、振袖を脱ぎ始める。
 中綿入りの暖かい肌襦袢を着ているが、それでも寒くて体はぶるぶる震える。

 もしかしたら。
 体の震えは、この結婚への嫌悪感から起きているのかもしれない、と思ったりもする。

 着替えは、嫁ぐにあたって、母がいろいろ揃えてくれた中から、薄紅色の定小紋さだめこもんを選んでいた。
 千代が帯を結ぶのを手伝ってくれたので、とても早く着替えを終えることができたが、体の震えはおさまりそうもない。

「差し出がましいようですけど、どこかお体の具合が悪いのではないですか?」
 千代は私を心配そうに見ている。

「ううん、大丈夫。寒いだけ」
 そう答えたものの、本当は寒いだけじゃなくて気分も悪かったのだ。

「そうね。本当は具合が良くないのかもしれない」
「お嬢様」

「千代、私ね、今とっても気分が悪いの。嫌なの。こんな気持ちで、お嫁さんになんかなれるかな」
 涙が込み上げてきた。

「逃げましょう。お嬢様」
「えっ?」
「とにかく、ここから逃げましょう」
「千代、何を言い出すの」
「お嬢様がお可哀想で、千代も嫌なんです。このまま、この家に残るなんてできない!」

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