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利晴様

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 二日後の朝食の時、母から直截ちょくさいに尋ねられた。
「文子さん、合原様のことをどう思った?」

 私は、味噌汁おみおつけに口をつけていたので、あやうく吐き出しそうになり咳き込んだ。
「あらあら、ごめんなさい。実はね。急だけれど、お見合いの席を設けたって、おじ様からご連絡があったのよ」
 母は私に近寄り、背中をさすってくれながら言う。

「お見合いですか?」
「ええ、明日。場所は口利きして下さった方のご紹介で、特別に藤田男爵様の別邸の一部屋をお貸ししてくださることになりましたよ」

「明日!藤田様の別邸!」
 私が言うより先に、律子が叫んだ。
「りっちゃん」
 母がメッと律子を睨む仕草をする。

「先に言っておくけれど、お相手の利晴様は、とてもあなたのことを気に入ってくれているそうなの。文子さんさえよければすぐにでも、とまで仰っているのよ」
「えっ!」
 私は驚いた。そんな性急な。
 
「年明けには学校を卒業することだし、丁度いいんじゃないかしら」
 丁度いい、それはそうかもしれない。同級生の中には、もう婚約が決まった人は何人もいるのだし。

 卒業生の大方が軍人に嫁がれるのだが、私はこの家の総領娘であるし、ゆくゆくは、どなたかのご紹介で商家からお婿さんに来てもらうことになるのだろう、と漠然と考えていた。

 合原家は三井財閥に連なるお家柄らしく、手広く商売をされている。うちと同じ運送業、それも近年海運業に力を入れており、大戦でかなりの財を蓄えられたという。
 そんな立派なお家から、うちに来て下さるだろうか。

「利晴様があれだとかではないのだから、私はこれ以上ない良いご縁談おはなしだと思うのよ」
 母は含みのある物言いをした。
「奥様ったら、あれだなんて」
 婆やが、私の湯呑みにお茶を注いでくれながら笑う。

「色男で学もあり、お商売のほうも遣り手やりてだとか。早くにご両親を亡くされたとかで、こんなことを言うのは失礼でしょうが、そのほうがお嬢様にとっては気楽ですしね。ちょっとお年が離れていらっしゃるかもしれませんけれど、それでも一回りしか違いませんから」
 婆やは利晴様を褒めちぎった。

「とにかく明日、お会いできるのが楽しみですよ」
 母は、ふうふうとお茶を冷ましてから、ひとくち飲み、一仕事終えた後のように、ほっとした顔をした。
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