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運命の相手

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「あ、あの。お湯が沸いております」
 姫は宰相君に、半分抱きとめられた格好のままで言った。
 姫の言葉を聞いた宰相君の体がびくっと震える。

「そ、そうか。……すまぬが、私の背中を流してくれぬか?」
「え⁉︎」
「もう夜も遅い、誰もいない。遠慮せずとも、一緒に湯殿に入って流してほしい」

 言うが早いか、宰相君は湯殿に入り、するすると着物を脱いだ。
 姫は大いに戸惑っていた。かつて生家では、背中を流してもらったこともあったけれど、他人の背中を流したことなど無い。ましてや、若い男性の……!

 宰相君のほうはと言えば、自分の感情をどうしたらいいか分からず、本能の赴くまま姫を湯殿に誘ってしまったのだ。
 姫の美しい声を聞いた彼は、その声にうっとりと聞き惚れ、更には不恰好な鉢の下に隠れている顔が見えた気がして、頭に血が上ったのである。

(私にははっきりと見えた、この方の花のかんばせが。
 吉野の里で咲き乱れる桜のように華やかな美しさ、あでやかな可愛らしさ。
 ……そうか、この方はきっと、私が前世で契った方に違いない)

 姫は高鳴る胸を押さえ、湯殿に入った。
「失礼いたします」
 瞬間、宰相君にきつく抱きしめられ、囁かれる。
「怖がらないで。どうぞ、私の狼藉をお許し下さい」

 姫は無意識のうちに、宰相君に体を預けていた。彼は姫の体を優しく愛し始めたが、急に「ははっ」と小声で笑った。
「さっきは下人を叱りつけておきながら、私は奴と同じことをしている」

 そう言われれば、そうかもしれない。
 しかし、目の前の若い男性の美しい顔、贅肉ひとつない体を見た姫は、少しも嫌な気がしなかったのだ。

 宰相君は恥ずかしそうに言う。
「私は女性と契ったことはもちろん、まともに話もしたことがないのです」
 姫は「え?」と声を上げた。

(本当かしら。こんな素敵な方が? 宮中で評判の物語に出てくる “ 光君ひかるきみ ” とは、宰相君さまのような方を言うのではないかしら?)

 
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