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いざ、舞踏会へ!
しおりを挟むしばらくしてフェリスは帰って来たが、彼女の顔は、ほんのり上気している。
「フェリス、どこに行ってたの?」
「お嬢様、騎士団の方たちに、お願いして参りましたの」
「お願い? 騎士団の方たち?」
「お嬢様のピンチですもの、情報は共有しておかないと」
「ピンチ? 大げさね」
「さっき、アリーヴの人も言ってたでしょう? わざとお嬢様にワインを掛けたみたいだって」
「そんなことあるはずないじゃない」
「見間違いならいいんですけど。とにかく、皆さんが調べて下さるそうです」
「調べるっていっても、難しそうよ。大騒ぎして、何も無かったってことになりそうだけど」
「あと、今回のパーティ、ローウェルからはお継母様とエレナ様、それに辺境伯とお嬢様の4人だけが招待されているそうです」
「今回は、王太子様の立太子即位記念と、花嫁探しのパーティーよね?」
「そうみたいです」
「ローウェル国王様ご一族は招かれていないのね。お父様も来られていない。普段は、お父様が国王代理として外交に行かれることも多いのに。もしかしたら、公式な行事ではないのかも」
そもそも、私と義姉のエレナは、2人とも花嫁候補にはなれないが。
「確かに! お嬢様はもう辺境伯夫人ですし、エレナ様はエレンザ家を相続しないといけないし。やはり、これは騎士団の皆さんに色々調べてもらわなくては!」
フェリスは大ごとにしたいみたいで、私はそんな彼女を見て苦笑してしまう。
翌日、朝から私とフェリスはそわそわしていた。美しいドレスを着るのは嬉しいことだけれど、舞踏会なんて参加するのは初めてのことなのだ。
「お嬢様、私、ダンスなんか踊れません」
「私もよ。子供の頃、手ほどきは受けたことがあるけれど、もう忘れてしまったし」
外交デビュー、初めての舞踏会。
ドレスに着替えて準備万端、緊張感でいっぱいになりながら部屋で待っていたところに、アンドレイ様が私たちを迎えに来て下さった。
正直、がっかり……。
何故なら、アンドレイ様は、いつもの灰色の頭陀袋を着ていたから。でも、仕方ない。『化物』と呼ばれるような恐ろしい姿を晒すわけにはいかない。この格好を貫き通すしかないのだ。
アンドレイ様に、内心の葛藤を知られてはいけない。微笑まなくては。
私の近くに来た彼は、私を見下ろすように突っ立っている。
「アンドレイ様?」
「……」
「アンドレイ様、どうかなさいましたか?」
「あ、いや」
彼の声は、いつもよりしわがれて出にくそうだ。
「美しい。本当に美しい」
「え?」
アンドレイ様が、私のほうにおずおずと片手を出してきた。私は、そっと彼の掌に私の手を重ねる。
あっ!
私、この手の感触を知っている!
昨日見た時と同じような、滑らかな皮膚に覆われた長い指。硬くてゴツゴツしたように見えるけれど、掌の真ん中は柔らかくて。
「リヒャルト様……?」
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