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ゲストルームにて
しおりを挟む「そろそろ失礼させてもらいます」
ふたりの毒気に当てられ、一気に疲れが出てしまった私は、継母と義姉にお辞儀して告げた。
「また後で」
継母がバカにしたように含み笑いをしていたが、私は軽く頷いて、案内人の方と客室に向かう。
「こちらでございます」
指示された部屋は、カザールでの私たちの部屋と同じくらいの広さだろうか。2部屋に分かれた豪奢なスペースは、白壁に金銀の装飾が施され、床に敷かれた絨毯はフカフカで足が沈み込むほど。
が、先に来ているはずのアンドレイ様のお姿が見えない。
フェリスがバスルームも見に行ったが、誰もいなかった。
彼女は、私のところに戻って来ると真面目な顔で言った。
「ねえ、お嬢様。今夜は、辺境伯様と同じ部屋で過ごされることになるのですね」
私も同じことを心配していた。心配というのも変な話だけれど。
「一応、お部屋は2つに分かれていますけど、今夜はどうしたらいいのでしょう」
フェリスはうっすらと赤くなっている。彼女が聞きたい事は、つまり。
アンドレイ様と私が同じ部屋で、同じベッドを使う?
私は狼狽えて、「こ、こ、こ、困るわ!」と叫んでしまった。
その時、「失礼いたします」と、外で声がして入って来たのはジョシュアさんだった。
「侯爵様から、ご伝言です。奥方様とフェリス様、このあと一休みされましたら、大広間にてお食事会がありますので、後でまた迎えに伺います、とのことです」
「わかりました。ありがとうございます。あっ……あの」
「なんでしょう?」
出て行こうとしたジョシュアさんを呼び止めた。
「アンドレイ様は、先にここに来られていると聞いたのですけど、今はどこに?」
「侯爵様なら、我々と同じ『騎士の間』でお過ごしですよ」
「騎士の間?」
騎士の間、というのは各国のお付きの方々の客間らしい。そこにいらっしゃるということは。
「でも、今夜は、こちらで過ごされるのですね?」
私の問いに、ジョシュアさんはきょとんとした表情で、「へ? そうなんですか?」なんて答えたのだ。
「侯爵様は、アリーヴ滞在中は常時、我々と行動を共にされるはずですが。はて?」
「そうなんですか?」
「侯爵様は、我々騎士団を率いているわけですからね。いつも一緒です」
ジョシュアさんは首を傾げて答えるが、領主の行動って、そんなものだろうか。型破りな気もするけど。
「では、また後ほど」
そう言ってジョシュアさんは部屋を退出するが、その際に彼がフェリスに小さく手を振った。フェリスも嬉しそうに手を振っている。
「あなたたち、いつの間に仲良くなったの?」
「え? 特に仲良くもしてないですけど。ジョシュアさんは、夜の宴にもずっと参加していらしたし。私たちって、仲良しなんですかね?」
逆にフェリスに聞かれる始末。
私とアンドレイ様の仲は、一向に進展する気配はないけれど(それを望んでいない私であるが)、それ以外の点では、確実に私たちはカザールに根を張りつつあると信じたい。
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