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第九章 夏季休業
それはなんの変哲もない日々の記憶(8)
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「落ちるといけないからしっかり掴まっていろよ」
「う、うん」
マリアを龍の背中に乗せてやると、アランもその後ろによじ登った。
「ホランドの上空まで頼む」
『承知した』
返事をするや否や、龍は翼を広げると一直線に空を駆け上がった。
「たっか~い。まちゅがちいしゃいの」
「そうだな」
はしゃぐマリアの姿にアランは目を細めた。
「マリュアも、おっきくなったらこんにゃドラゴンしゃんがほしいの」
その言葉にアランは慌てる。
『ドラゴン、だと? 私をあのような下等生物と一緒にするな』
苛立ちを隠そうともしない声音に、マリアは恐怖で顔を強張らせた。
「ご、ごめんなしゃい」
『娘よ、よく覚えておけ。私は高貴なる龍だ。二度とドラゴンなどと戯言を言うな』
アランは慰めるようにマリアの頭を優しく撫でる。
「龍は変にプライドが高いのが多いからな。次から気をつければ良いさ。それに龍にだって意思はあるんだ。物みたいに言っては駄目だ」
「……うん」
それにと、アランは言葉を続ける。
「何が出るかは運次第だからな。龍以外が出る確率の方が遥かに高いぞ」
「マリュアも、りゅうしゃんとかをよべりゅの?」
「ああ。でも専用の道具がないと無理だからなぁ。道具自体は今用意させてるから、マリアが大きくなったら教えてやるよ」
「うん、やくしょく!」
マリアはその約束が守られると信じて疑わなかった。
「ああ。だけどな、今日見たこと、聞いたことは母さんにも内緒だぞ」
「えっ? どうしゅて?」
マリアが不思議そうに後ろを見上げれば、アランは苦いものでも口に含んだような表情をしていた。
「色々と理由はあるが、一番の理由は父さんが母さんとの約束を破っちゃったからだな」
「おかあしゃん、おこりゅとこわいの」
わかったとマリアは大きく頷いた。
「マリュアとおとうしゃんの、ふたりだけにょひみちゅなにょ」
満面の笑顔にアランは思わず頬を緩める。
『……水を注すのは悪いが、私もいるということを忘れておらぬか?』
たちまちアランの顔がしかめっ面になる。
「お前は俺が喚ばなければ出てこられないだろうが。最初からカウント外だ」
『……今日は私に対する当たりがやけに強くないか?』
「……気のせいだ」
アランの返答の声は少し小さかった。
「ねぇ、りゅうしゃん」
『……何だ?』
「りゅうしゃんのおなまえって、にゃあに?」
『やけに静かだと思えば、そのようなことを考えていたのか』
その声からは呆れの色がにじみ出ていた。
『私はアクア。古くからお前の父親の一族を時には遠くから、時にはすぐ傍で見守り続ける者のうちの1人だ』
「うちのひちょり?」
『私のような存在は他にいくつもいる。それこそ両手両足の指の数では足りぬ程のな』
「へぇ~」
マリアの瞳は好奇心で輝いている。
『気になるのだったら、後でそいつに聞け』
「うん。ありゅがとう、アクアしゃん」
『さんはいらぬ』
その言葉は少し照れているようでもあった。
「う、うん」
マリアを龍の背中に乗せてやると、アランもその後ろによじ登った。
「ホランドの上空まで頼む」
『承知した』
返事をするや否や、龍は翼を広げると一直線に空を駆け上がった。
「たっか~い。まちゅがちいしゃいの」
「そうだな」
はしゃぐマリアの姿にアランは目を細めた。
「マリュアも、おっきくなったらこんにゃドラゴンしゃんがほしいの」
その言葉にアランは慌てる。
『ドラゴン、だと? 私をあのような下等生物と一緒にするな』
苛立ちを隠そうともしない声音に、マリアは恐怖で顔を強張らせた。
「ご、ごめんなしゃい」
『娘よ、よく覚えておけ。私は高貴なる龍だ。二度とドラゴンなどと戯言を言うな』
アランは慰めるようにマリアの頭を優しく撫でる。
「龍は変にプライドが高いのが多いからな。次から気をつければ良いさ。それに龍にだって意思はあるんだ。物みたいに言っては駄目だ」
「……うん」
それにと、アランは言葉を続ける。
「何が出るかは運次第だからな。龍以外が出る確率の方が遥かに高いぞ」
「マリュアも、りゅうしゃんとかをよべりゅの?」
「ああ。でも専用の道具がないと無理だからなぁ。道具自体は今用意させてるから、マリアが大きくなったら教えてやるよ」
「うん、やくしょく!」
マリアはその約束が守られると信じて疑わなかった。
「ああ。だけどな、今日見たこと、聞いたことは母さんにも内緒だぞ」
「えっ? どうしゅて?」
マリアが不思議そうに後ろを見上げれば、アランは苦いものでも口に含んだような表情をしていた。
「色々と理由はあるが、一番の理由は父さんが母さんとの約束を破っちゃったからだな」
「おかあしゃん、おこりゅとこわいの」
わかったとマリアは大きく頷いた。
「マリュアとおとうしゃんの、ふたりだけにょひみちゅなにょ」
満面の笑顔にアランは思わず頬を緩める。
『……水を注すのは悪いが、私もいるということを忘れておらぬか?』
たちまちアランの顔がしかめっ面になる。
「お前は俺が喚ばなければ出てこられないだろうが。最初からカウント外だ」
『……今日は私に対する当たりがやけに強くないか?』
「……気のせいだ」
アランの返答の声は少し小さかった。
「ねぇ、りゅうしゃん」
『……何だ?』
「りゅうしゃんのおなまえって、にゃあに?」
『やけに静かだと思えば、そのようなことを考えていたのか』
その声からは呆れの色がにじみ出ていた。
『私はアクア。古くからお前の父親の一族を時には遠くから、時にはすぐ傍で見守り続ける者のうちの1人だ』
「うちのひちょり?」
『私のような存在は他にいくつもいる。それこそ両手両足の指の数では足りぬ程のな』
「へぇ~」
マリアの瞳は好奇心で輝いている。
『気になるのだったら、後でそいつに聞け』
「うん。ありゅがとう、アクアしゃん」
『さんはいらぬ』
その言葉は少し照れているようでもあった。
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