上 下
427 / 464
第九章 夏季休業

王都到着

しおりを挟む
 メアリーの言葉通り、1時間もしないうちにエーデル王国王都、アストラプスィテの入り口である港に到着した。

「こうして見ると船での移動が当たり前なんだね」

 王都へ入る手続きの順番を待ちながら、マリアは改めて実感したとでも言うように呟いた。

「そうだな」

 街道を歩く者はほとんどなく、船の姿が数え切れない程見える、幅の広い水路とは対象的だった。

 時間の問題か、10分もしないうちにマリアたちの番がやってきた。

「姫様、王太子殿下が捜しておいででしたよ。もう3日程前から」
「わかったの。ありがとうなの」

 エーアリアスの姿を目に捉え、どこかホッとしたような笑みを浮かべた若い兵士に、エーアリアスは礼を言いながら自身の身分証を手渡す。

「だいぶ怒っておられたようですが、今度は何をやられたんです?」

 いつものことなのか、だいぶ気安い口調でそう尋ねる。

「特にこれといって何もしてないの。それに出かけることはお父様には伝えてあるの」
「殿下には?」
「……忘れたの」

 エーアリアスはしまったと手で口元を覆った。

「どこに行っておられたのかは知りませんが、おとなしく怒られた方が良いと思いますよ」
「そうするの……」

 身分証を仕舞うエーアリアスの腕は重かった。

「そちらの方々は? 珍しいですね、姫様がメアリーさん以外の人を連れているなんて」

 そこでようやく兵士はエーアリアスの背後のマリアたちに気づいた。

「出かけた先で仲良くなったの。それにお父様に会わせなければいけない理由ができたの」
「姫様が……仲良くですか……?」

 信じられないという表情の兵士の言葉にエーアリアスが膨れる。

「そんなに驚くようなことじゃないの」
「……いやでも姫様は、歳の近い子どもとまともに話したことすらないじゃないですか」
「し、失礼なの。会話はしたことあるの。私は別にぼっちとかじゃなくて、話が合わないだけなの」
「はいはい。そういうことにしておいて差し上げます」

 マリアは苦笑いしながら全員分のギルドカードを手渡した。

「リアは不器用だから」
「そ、そんなことはないの!」

 兵士は微笑まし気に笑うと、確認が終わったギルドカードを返しながらにこやかに言った。

「エーアリアス姫様はこんな性格だけど、悪い方ではないんだ。仲良くしてやってくれ」
「わかってます」
「でも珍しいな。姫様の身分を知っても物怖じしないなんて」
「えっ?」

 マリアは不思議そうに首を傾げた。

「別にだからといってリアがリアであることは変わらないですから」
「そう言えるだけで、十分すごいと思うよ」
しおりを挟む
感想 131

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので、論破して旅に出させて頂きます!

桜アリス
ファンタジー
婚約破棄された公爵令嬢。 令嬢の名はローザリン・ダリア・フォールトア。 婚約破棄をした男は、この国の第一王子である、アレクサンドル・ピアニー・サラティア。 なんでも好きな人ができ、その人を私がいじめたのだという。 はぁ?何をふざけたことをおっしゃられますの? たたき潰してさしあげますわ! そして、その後は冒険者になっていろんな国へ旅に出させて頂きます! ※恋愛要素、ざまぁ?、冒険要素あります。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 文章力が、無いのでくどくて、おかしいところが多いかもしれません( ̄▽ ̄;) ご注意ください。m(_ _)m

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】徒花の王妃

つくも茄子
ファンタジー
その日、王妃は王都を去った。 何故か勝手についてきた宰相と共に。今は亡き、王国の最後の王女。そして今また滅びゆく国の最後の王妃となった彼女の胸の内は誰にも分からない。亡命した先で名前と身分を変えたテレジア王女。テレサとなった彼女を知る数少ない宰相。国のために生きた王妃の物語が今始まる。 「婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?」の王妃の物語。単体で読めます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

トリエステ王国の第三王女によるお転婆物語

ノン・タロー
ファンタジー
あたし、「ステラ・ムーン・トリエステ」はトリエステ王国の第三王女にして四人兄妹の末っ子として産まれた。  そんなあたしは、食事やダンスの作法や練習よりも騎士たちに混じって剣の稽古をするのが好きな自他ともに認めるお転婆姫だった。  そのためか、上の二人の姉のように隣国へ政略結婚に出される訳でもなく、この国の跡取りも兄がいるため、生まれてからこの18年、あたしは割と自由奔放にお城で過ごしていた。  しかし、不自由は無いけど、逆に無さすぎで退屈な日々……。城から外を見ると、仲間と街を楽しそうに話しながら歩いている冒険者の人々が見えた。  そうだ!あたしも冒険者になろうっ!  しかし、仮にも一国の王女が、しかも冒険者をしていると言うのがバレるのは流石にマズイ。  そうだ!変装をしようっ!  名案とばかりに思いついたあたしは変装をし、「ルーナ・ランカスター」と偽名まで使い、街へと繰り出そうとする。  しかし、運悪く、あたしの幼馴染でお目付け役である騎士の「クロト・ローランド」とその妹で専属メイドの「アリア・ローランド」に見つかってしまう。  そうだ、こうなったら二人も連れて行こう!あたしはクロト達を巻き込むと城下街である「トリスタ」へと繰り出す!  こうしてあたし、「ルーナ」と「クロト」、「アリア」との物語が幕を開くのであったっ!

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

処理中です...