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第九章 夏季休業

料理(2)

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 エーアリアスを気遣いながらも手は止めず、マリアは5分とかからずに野菜を切り終わった。

「リア、切れたよ」
「……じゃあ冷蔵庫の中の挽肉出しておいて。それからクミンを一振りして野菜を炒めるの。ある程度火が通ったらお肉も入れていいの」
「冷蔵庫? クミンって?」
「冷蔵庫も知らないの」

 エーアリアスは虚を突かれたように固まると、勝ち誇ったように笑った。

「だって、私の身近にはなかったんだもん。知らなくて当然じゃない。笑わなくても良いでしょ、もう」

 少し期限が悪くなったマリアは頬を膨らませた。

「ごめんなさいなの。でも知らないことが意外だったの。冷蔵庫は大きなその箱、クミンはそこの戸棚の中なの。ラベルが貼ってあるからわかるはずなの」
「もう……」

 マリアはまだ言いたいことがあったが、お腹が空腹を訴えていたために、それ以上は口にせず、料理に戻る。

「油は?」
「コンロの下の戸棚に入ってるの」

 エルドラント王国とは比べものにならない性能のコンロに感心しながら、手馴れた動作で大鍋で炒めていく。

「次は?」
「タミタを軽く手で潰しながら入れるの。味付けは私がやるから、しばらく焦げないように混ぜとくの」

 マリアが木べらでゆっくりとかき混ぜながらエーアリアスの方を窺うと、エーアリアスはせっせと何かの生地を伸していた。

「それは?」
「できてからのお楽しみなの」

 エーアリアスは悪戯っぽく笑う。

「それじゃあそもそも、私はいったい何を作ってるの?」
「それも後のお楽しみなの」

 エーアリアスは生地を全て伸し終えると、小皿とスプーン、それに大量の小瓶を手にマリアの方にやって来た。

「ん~、もうちょっと辛くてもいいの」

 味見をしながら小瓶の中身を無造作に鍋の中に振り入れるのを、マリアはハラハラと見ていた。

「よし、こんなものなの。水気がなくなるまでそのまま煮詰めて欲しいの」

 エーアリアスは納得したのか大きく頷くと、今火が着いているのとは別のコンロに円形の鉄板を置いた。

「面白いものを見せてあげるの」

 鉄板で生地を焼きながら、エーアリアスは不敵に笑う。

「えっ?」

 エーアリアスは両面を焼き終えると、何も置いていないコンロにも火を着け、それを直火で焼こうとする。

「何やってるの!?」

 エーアリアスを慌てて止めようとするが、それが火に炙られる方が先だった。

「えっ?」

 あっという間に生地が膨れていくのを呆然と見る。

「ねっ? 見てて面白いの」

 数秒ほどでトングで火から下ろすと、そう言ってエーアリアスは笑った。

「私はリアが何やってるんだとしか思ってなかったよ」

 気でも狂ったのかと思ったと、マリアは苦笑いを浮かべる。

「それは悪かったの。……あっ、できあがったら人数分のお皿を適当に出してよそっておいて欲しいの」
「わかった。もうできるし、もう皆呼んじゃうね」
「えっ?」

 エーアリアスは首を傾げるが、マリアはそっと呪文を唱える。

「『風よ、我の声を届けよ、《伝達》』」
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