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第九章 夏季休業

ギルガルドの行方

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「……どこだ?ここ」

 ギルガルドは呆然と呟いた。
 周りは一面の緑。木の葉が風にそよいでいる。
 少しの間気を失っていたようで、背中が地面の僅かな水分吸い、冷たく湿っていた。

(落ち着け、俺。……さっきまで牢の中にいたはずだ)

 必死に気を鎮め、記憶を遡る。

「ブルッ、ブルルル。ブル、ブルル!《あっ、気がついた。長様、気がつきましたよ!》」

 嬉しそうな少年の声が頭の中に響き、ギルガルドは周囲を見回しながら身を起こした。

「……ユニコーン?」

 ギルガルドが見たのは標準よりも一回り小さい小さいユニコーンとゆっくりとした足取りで近づいてくる年老いたユニコーンの姿だった。周囲が明暗の差異はあれど緑が覆っている中で純白のその体はひどく目立った。

「……ブルル?ブル《……気分はどうだ?客人よ》」
「えっ?この声はあなたが?」

 思わず尋ねる言葉も丁寧なものになる。

「ブルルッ?《他に誰がいるというのだ?》」

 ギルガルドにユニコーンの表情はわからないが、その声の調子から笑われていることはわかった。

「……なにぶん不勉強でユニコーンが喋れるとは知らなかったもので」
「……ブルルルル。ブルル《……我々も滅多に人里に近づくことはない。知らなくても仕方ないことだ》」

 そう言って笑ったことを謝罪した。

「ブル、ブルルル?ブルルルル《して、なぜこのような人里離れた我らの集落にいるのだ?報告ではいきなり現れたと聞いておるが》」
「……さあ?私にはここがどこに位置するのかもわからないぐらいです」

 ギルガルドはユニコーンたち以上に現状を理解できていなかった。

「……ブルル。ブルルルル。ブルル……ブルルッ?《……若い者たちがマリアという人間と共にいるのを見たと言っておった。そこに寝かせておいたのもその証言があったからこそだ。本来ならばとうに蹴り殺しておる。……彼の者たちは無実の罪で拘束されたとも聞いたが誠か?》」
「……はい」
「ブルッ。ブルルル。ブルルッ《嘆かわしいことだ。彼の者たちの中には王家の血に連なる者も存在するというのに。人間は敬うということを知らないとみた》」
「……王家の血、ですか?」

 ギルガルドは尋ね返しながらも、レリオンのことだと勝手に自己解決させていた。

「ブル。ブルル。ブルルル。ブルルッ《うむ。初代女王の係累だ。だが今はそのようなことなど関係がない。若い者たちが殺気立っておる》」
「……はい?」

 ギルガルドは突然の話題の変更についていけない。

「ブルルッ。ブルルル。ブルルルル。ブルルルッ?《私も止めきることはできなくてな。あいにく私はここを長時間空けることはできぬ。すまぬがちょっと私の代わりに行ってもらえぬか?》」

 お願いの体裁を保ってはいるが、長の口調は脅迫に限りなく近い。

「ブル、ブルル《なに、ちょっと国王に文句を言いに行くのに付いていってもらうだけで良い》」

 長はそう言って笑った。
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