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第七章 それぞれの過ごす日々
本探しの結果
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およそ1時間後、皆は書庫の入口まで戻って集まっていた。情報の共有をするためだ。
「……じゃあまずはそっちから頼む」
「うん。こっちは特殊属性が龍の扱うものだとしかわからなかったよ。後は既存の応用系だとか派生系だね。……ただ」
アルフォードに促され、目線で他の3人に言われマリアは話し始めた。
「ただ?」
アルフォードの耳がピクリと動いた。
マリアが助けを求めるようにエリザベートを見た。
「……ただ、古い本は題名を読む段階でかなり難航していて、ほとんど調査が進んでいないのよ」
「そうか……」
そんなエリザベートの言葉とともにリオナとアーティスは俯いた。
「……ごめんなさい。古い言葉はどうしても辞書を引きながらになるから……」
責められると思ったのかその言葉は僅かに震えていた。
「あ~、別に責めてるわけじゃない。それに誰がやってもそうなるだろうしな」
「……うん。ありがとう」
アルフォードに優しく頭を撫でられ、リオナの気分は多少上向きになった。
「次はこちらだな。こっちもはっきりとした答えは見つからなかった」
「……そうなんだ」
次の瞬間告げられた言葉にリオナは再び沈み込んだ。
「……はっきりとはって言っただろう?諦めるのは早いかもしれないぞ」
「……えっ?」
リオナは俯けた顔を勢いよく上げてアルフォードを見た。
「ラーナさん。さっきの本を」
「はい」
先ほどまで隅に控えていたラーナが優雅に一礼してからリオナに差し出した本の革の表紙には金色の文字で『英雄譚』とだけあり、剣を構え、今まさに切りかかる寸前の金属鎧姿の青年と、その後ろに立ち弓を引き絞っている長い髪を後ろで1つに纏めた軽装の女性、フードを深く被り、顔はまったく見えないが背格好から男性であることが察せられる装飾的な身の丈ほどもある杖を持った魔術師のイラストが銀色一色で描かれていた。少し古いものなのか、全体的にページはセピア色に変色している。
「……絵本?」
そう、それはこの国の人間なら誰もが1度は聞いたことがある英雄の話。その絵本だった。
「はい。……これは少々世間で語られているものよりも詳しく書かれていますが」
訝し気に本を受け取り、開いた。リオナの額には皴が刻まれている。
「……魔術師について書かれていることをお読みください」
「魔術師?」
眉間の皴が深くなった。
「はい」
「……魔術師なんて、『強力な魔術を使いました』ってだけで終わりじゃないの?」
そう言いながらパラパラと繰られたページにはこう書かれていた。
『最後の1人は魔術師。この者の名は伝わっていない。いつもローブのフードを深く被っており、その顔を知る者もいないという。彼については残っている言葉は少ない。その中にこんな言葉がある。《異常》と。常軌を逸した魔術を操ったと。その魔術は天を割り、死の理さえも打ち破ったと。一説には彼は普通の魔術はまったく使えなかったともいう』
「……いかがです?」
リオナの視線の位置から読み終わったことを察したラーナが声をかけた。
「ほ、本当に普通の、普通の魔術が使えなかったの?」
「はい。少なくともそう伝わっております」
ラーナは深く頷いた。
「……ヒントにはなるってところかな?」
「だね」
その後も昼頃まで調査を続けたが、それ以上の成果は得られなかった。
「……リ、リオ、落ち込まないでよ。ヒントがあっただけ良いじゃない」
「……うん」
リオナはマリアの必死の慰めにも空返事だった。傍ではカーラがおろおろしていた。
「……昔のことすぎて生きている人間なんていないからな」
英雄たちの話は勇者サクラの話よりもさらに昔。建国の頃──今から1500年近く前の話だ。長命なエルフでも生きている者はいない。
「……うん」
アーティスの空気の読めない発言にその場の空気が数度下がった。
「……でも人間以外なら生きている奴がいるかもしれないぞ?」
「……うん……えっ?」
リオナは目を瞬かせた。
そんなリオナにアーティスはニヤリと笑った。
「……1000年以上経った今でも残ってるぐらい有名な話だ。天を割ったっていうのが事実なのか、それとも何かの比喩表現なのかはわからないが、人間以外の長命種が覚えている可能性は高いだろ?」
「……うん!」
1つの希望を示され、リオナの濃い紫の瞳は強く輝いていた。
「……じゃあまずはそっちから頼む」
「うん。こっちは特殊属性が龍の扱うものだとしかわからなかったよ。後は既存の応用系だとか派生系だね。……ただ」
アルフォードに促され、目線で他の3人に言われマリアは話し始めた。
「ただ?」
アルフォードの耳がピクリと動いた。
マリアが助けを求めるようにエリザベートを見た。
「……ただ、古い本は題名を読む段階でかなり難航していて、ほとんど調査が進んでいないのよ」
「そうか……」
そんなエリザベートの言葉とともにリオナとアーティスは俯いた。
「……ごめんなさい。古い言葉はどうしても辞書を引きながらになるから……」
責められると思ったのかその言葉は僅かに震えていた。
「あ~、別に責めてるわけじゃない。それに誰がやってもそうなるだろうしな」
「……うん。ありがとう」
アルフォードに優しく頭を撫でられ、リオナの気分は多少上向きになった。
「次はこちらだな。こっちもはっきりとした答えは見つからなかった」
「……そうなんだ」
次の瞬間告げられた言葉にリオナは再び沈み込んだ。
「……はっきりとはって言っただろう?諦めるのは早いかもしれないぞ」
「……えっ?」
リオナは俯けた顔を勢いよく上げてアルフォードを見た。
「ラーナさん。さっきの本を」
「はい」
先ほどまで隅に控えていたラーナが優雅に一礼してからリオナに差し出した本の革の表紙には金色の文字で『英雄譚』とだけあり、剣を構え、今まさに切りかかる寸前の金属鎧姿の青年と、その後ろに立ち弓を引き絞っている長い髪を後ろで1つに纏めた軽装の女性、フードを深く被り、顔はまったく見えないが背格好から男性であることが察せられる装飾的な身の丈ほどもある杖を持った魔術師のイラストが銀色一色で描かれていた。少し古いものなのか、全体的にページはセピア色に変色している。
「……絵本?」
そう、それはこの国の人間なら誰もが1度は聞いたことがある英雄の話。その絵本だった。
「はい。……これは少々世間で語られているものよりも詳しく書かれていますが」
訝し気に本を受け取り、開いた。リオナの額には皴が刻まれている。
「……魔術師について書かれていることをお読みください」
「魔術師?」
眉間の皴が深くなった。
「はい」
「……魔術師なんて、『強力な魔術を使いました』ってだけで終わりじゃないの?」
そう言いながらパラパラと繰られたページにはこう書かれていた。
『最後の1人は魔術師。この者の名は伝わっていない。いつもローブのフードを深く被っており、その顔を知る者もいないという。彼については残っている言葉は少ない。その中にこんな言葉がある。《異常》と。常軌を逸した魔術を操ったと。その魔術は天を割り、死の理さえも打ち破ったと。一説には彼は普通の魔術はまったく使えなかったともいう』
「……いかがです?」
リオナの視線の位置から読み終わったことを察したラーナが声をかけた。
「ほ、本当に普通の、普通の魔術が使えなかったの?」
「はい。少なくともそう伝わっております」
ラーナは深く頷いた。
「……ヒントにはなるってところかな?」
「だね」
その後も昼頃まで調査を続けたが、それ以上の成果は得られなかった。
「……リ、リオ、落ち込まないでよ。ヒントがあっただけ良いじゃない」
「……うん」
リオナはマリアの必死の慰めにも空返事だった。傍ではカーラがおろおろしていた。
「……昔のことすぎて生きている人間なんていないからな」
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「……うん」
アーティスの空気の読めない発言にその場の空気が数度下がった。
「……でも人間以外なら生きている奴がいるかもしれないぞ?」
「……うん……えっ?」
リオナは目を瞬かせた。
そんなリオナにアーティスはニヤリと笑った。
「……1000年以上経った今でも残ってるぐらい有名な話だ。天を割ったっていうのが事実なのか、それとも何かの比喩表現なのかはわからないが、人間以外の長命種が覚えている可能性は高いだろ?」
「……うん!」
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