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閑話

国王の頑張り(前編)

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 それはマリアたちが王都を旅立った日に遡る。

 その日はいつものように朝早くから政務をこなしていた。そこへ宰相が駆け込んできた。

「大変です!」
「どうしたのだ?そんなに慌てて……」
「先ほどアル様から連絡が御座いまして……」
「あいつは今日から王都から出ているはずだぞ?」

 国王は首を捻った。

「それが……南門で通行料を取られたと……」
「なんだと!?通行料など取っていないはずだ」
「どうやら南門の兵士全体で甘い蜜を啜っているようで……」

 国王は数秒間考えた末、結論を降した。

「エルマン、自分の目で確かめに行く。留守を頼む」
「お待ち下さい。それでしたら私もご一緒します」
「……わかった」

 2人は手早くお忍びの準備を始めた。イメージは少し裕福な行商人だ。

「これで尻尾を出してくれると良いが……」
「また仕事が増えますね……」

 現在の貴族社会において、優秀な者で一定以上の身分を持っている者は少ない。そのしわ寄せが来ているのがこの2人だった。
 普段だったらある程度はアルフォード──アルデヒドに頼むのだが、今日からしばらくは王都にはいない。

「せめてこういった確認だけでも他の者に任せられれば良いんですけど……」
「そうもいかないからな」

 支度が終わると2人は密かに城を抜けだした。

◇◆◇

「……黒だな」
「ですね」

 お金を出すのを渋るとある貴族家の名を出してきた。

「エルマン、南門の兵士たちの名簿を押さえておけ。私は先ほどの話の裏取りをしてくる」
「かしこまりました」

 国王は行く場所を告げずに執務室から出ていった。

「……リンリーはいるか?」

 国王は城の片隅の隠し部屋に入ると、虚空に呼びかけた。

「……お呼びでしょうか?」

 すると何もない空間から侍女のお仕着せに身を包んだ中年の女性が現れた。茶髪に茶色の目と、特に目立つ特徴はない。

「……レオポルド男爵家を洗え。どんな手を使っても構わん。できるだけ早急に頼む」
「かしこまりました」

 短く返答すると、再び姿を消した。

 彼女はリンリー・エルダー。エルダー男爵の妻であり、王家諜報部のトップだった。……ついでにアルフォードの母親ということにもなっている。

「……ベルジュラック公爵家、今日こそは尻尾を掴んでやる」

 エルマンからもいつまで一族で要職を占めていると、遠回しに役職を譲るように言われたと報告を受けていた。……なんで役職が回ってこないのかわかっていない愚か者とも。

「親子3代の悲願、必ずや私の代で叶えて見せる」
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