161 / 464
第五章 エイセルの街
アーティス&アルフォードの場合(3)
しおりを挟む
「今更だが1つ訊いても良いですかい?」
「何だ?」
ジャンは受け取った魔道具のペンダントをアリアの首に掛け、アリアの顔色が大分良くなったのを見て、ホッと息を吐くとそう言った。
「第四王子のアルデヒド様と言えば病弱で、それこそ表舞台には数える程しか出たことがないと聞いていますが、随分とお元気そうですね」
「……何も噂が全て本当とは限らない」
「だが表に殆ど出て来ないというのは本当のことだろ?」
「まぁな」
アルフォードは歯切れ悪く答えた。
「誰にも言わねぇ。ホントのとこを教えてはくれないか?」
その言葉にアルフォードは苦笑した。
「僕を邪魔者だと思っている奴がいるってことだ。それ以上は言えない」
「いや、それが聞けただけで十分だ」
ジャンは満足気に頷いた。最初の緊張は影も形も見当たらない。
(第二王子のランフォードって奴が表に出れないようにしていたってことか)
ジャンの予想は当たらずとも遠からずだった。実のところ、ランフォードがアルデヒドが表舞台に出ないように制限していたのは確かだった。だがそれは、国王の前では何の効力も発揮しない。詰まる所、国王の一言でアルデヒドは表舞台に出ることは簡単にできた。
だが国王がそうしなかったのには1つの思惑があった。即ち、私利私欲を満たすことにしか能がない馬鹿貴族たちを政治の表舞台から追放すること。
国王は自分の息子たちを使うことを考えついた。第一王子のリオンは幼い頃から病弱だった。これでは満足に生きることすらも困難だろうと、国王は計画を見送った。
第二王子のランフォードは己の欲を満たすことしか考えなかった。その裏には上級貴族たちの策謀が見え隠れしていた。
第三王子ジョージアの時には前回の反省を生かし、世話をする者の家柄は勿論のこと、人格までも丹念に調べ上げた。だが如何せん頭が良いとは決して言えなかった。
国王は第四王子のアルデヒドが生まれる頃には半分諦めていた。
アルデヒドは誰よりも早く言葉を喋ることができるほど聡明だった。そして何よりも、千人に一人とも一万人に一人とも言われる魔眼を生まれながらにして持っていた。
アルデヒドが3歳になる頃には、国王は密かに自分の手でアルデヒドの教育をしていた。アルデヒドが病弱だと噂され始めたのはこの頃からだ。
6歳になる頃にはアルデヒドは一通りの学問を修め終わっていた。通常の貴族の子弟が学び始めるのが7歳になった頃なのを考えれば、これは驚異的なことと言える。そしてアルデヒドは城から出され、国王の信頼できる数少ない貴族であり、王族の遠縁のエルダー男爵家でアルフォード・エルダーとして育った。万全を期すため、田舎貴族の子弟として社交界に出ることは殆どなく、王子として出ることなど皆無と言って良いほどだった。
その後12歳になった頃から領地を与えられ、この地を治めてきた。それと並行して密かに貴族たちの内情を調べていた。そして極普通の年齢になり、王立魔術学園に入学し今に至る。
これは極僅かな人々──それこそ宰相を始めとした腹心のみが知っている話である。
「何だ?」
ジャンは受け取った魔道具のペンダントをアリアの首に掛け、アリアの顔色が大分良くなったのを見て、ホッと息を吐くとそう言った。
「第四王子のアルデヒド様と言えば病弱で、それこそ表舞台には数える程しか出たことがないと聞いていますが、随分とお元気そうですね」
「……何も噂が全て本当とは限らない」
「だが表に殆ど出て来ないというのは本当のことだろ?」
「まぁな」
アルフォードは歯切れ悪く答えた。
「誰にも言わねぇ。ホントのとこを教えてはくれないか?」
その言葉にアルフォードは苦笑した。
「僕を邪魔者だと思っている奴がいるってことだ。それ以上は言えない」
「いや、それが聞けただけで十分だ」
ジャンは満足気に頷いた。最初の緊張は影も形も見当たらない。
(第二王子のランフォードって奴が表に出れないようにしていたってことか)
ジャンの予想は当たらずとも遠からずだった。実のところ、ランフォードがアルデヒドが表舞台に出ないように制限していたのは確かだった。だがそれは、国王の前では何の効力も発揮しない。詰まる所、国王の一言でアルデヒドは表舞台に出ることは簡単にできた。
だが国王がそうしなかったのには1つの思惑があった。即ち、私利私欲を満たすことにしか能がない馬鹿貴族たちを政治の表舞台から追放すること。
国王は自分の息子たちを使うことを考えついた。第一王子のリオンは幼い頃から病弱だった。これでは満足に生きることすらも困難だろうと、国王は計画を見送った。
第二王子のランフォードは己の欲を満たすことしか考えなかった。その裏には上級貴族たちの策謀が見え隠れしていた。
第三王子ジョージアの時には前回の反省を生かし、世話をする者の家柄は勿論のこと、人格までも丹念に調べ上げた。だが如何せん頭が良いとは決して言えなかった。
国王は第四王子のアルデヒドが生まれる頃には半分諦めていた。
アルデヒドは誰よりも早く言葉を喋ることができるほど聡明だった。そして何よりも、千人に一人とも一万人に一人とも言われる魔眼を生まれながらにして持っていた。
アルデヒドが3歳になる頃には、国王は密かに自分の手でアルデヒドの教育をしていた。アルデヒドが病弱だと噂され始めたのはこの頃からだ。
6歳になる頃にはアルデヒドは一通りの学問を修め終わっていた。通常の貴族の子弟が学び始めるのが7歳になった頃なのを考えれば、これは驚異的なことと言える。そしてアルデヒドは城から出され、国王の信頼できる数少ない貴族であり、王族の遠縁のエルダー男爵家でアルフォード・エルダーとして育った。万全を期すため、田舎貴族の子弟として社交界に出ることは殆どなく、王子として出ることなど皆無と言って良いほどだった。
その後12歳になった頃から領地を与えられ、この地を治めてきた。それと並行して密かに貴族たちの内情を調べていた。そして極普通の年齢になり、王立魔術学園に入学し今に至る。
これは極僅かな人々──それこそ宰相を始めとした腹心のみが知っている話である。
0
お気に入りに追加
857
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。
前回は断頭台で首を落とされましたが、今回はお父様と協力して貴方達を断頭台に招待します。
夢見 歩
ファンタジー
長年、義母と義弟に虐げられた末に無実の罪で断頭台に立たされたステラ。
陛下は父親に「同じ子を持つ親としての最後の温情だ」と断頭台の刃を落とす合図を出すように命令を下した。
「お父様!助けてください!
私は決してネヴィルの名に恥じるような事はしておりません!
お父様ッ!!!!!」
ステラが断頭台の上でいくら泣き叫び、手を必死で伸ばしながら助けを求めても父親がステラを見ることは無かった。
ステラは断頭台の窪みに首を押さえつけられ、ステラの父親の上げた手が勢いよく振り下ろされると同時に頭上から鋭い刃によって首がはねられた。
しかし死んだはずのステラが目を開けると十歳まで時間が巻き戻っていて…?
娘と父親による人生のやり直しという名の復讐劇が今ここに始まる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
全力で執筆中です!お気に入り登録して頂けるとやる気に繋がりますのでぜひよろしくお願いします( * ॑꒳ ॑*)
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる