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第五章 エイセルの街

アーティス&アルフォードの場合(3)

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「今更だが1つ訊いても良いですかい?」
「何だ?」

 ジャンは受け取った魔道具のペンダントをアリアの首に掛け、アリアの顔色が大分良くなったのを見て、ホッと息を吐くとそう言った。

「第四王子のアルデヒド様と言えば病弱で、それこそ表舞台には数える程しか出たことがないと聞いていますが、随分とお元気そうですね」
「……何も噂が全て本当とは限らない」
「だが表に殆ど出て来ないというのは本当のことだろ?」
「まぁな」

 アルフォードは歯切れ悪く答えた。

「誰にも言わねぇ。ホントのとこを教えてはくれないか?」

 その言葉にアルフォードは苦笑した。

「僕を邪魔者だと思っている奴がいるってことだ。それ以上は言えない」
「いや、それが聞けただけで十分だ」

 ジャンは満足気に頷いた。最初の緊張は影も形も見当たらない。

(第二王子のランフォードって奴が表に出れないようにしていたってことか)

 ジャンの予想は当たらずとも遠からずだった。実のところ、ランフォードがアルデヒドが表舞台に出ないように制限していたのは確かだった。だがそれは、国王の前では何の効力も発揮しない。詰まる所、国王の一言でアルデヒドは表舞台に出ることは簡単にできた。
 だが国王がそうしなかったのには1つの思惑があった。即ち、私利私欲を満たすことにしか能がない馬鹿貴族たちを政治の表舞台から追放すること。
 国王は自分の息子たちを使うことを考えついた。第一王子のリオンは幼い頃から病弱だった。これでは満足に生きることすらも困難だろうと、国王は計画を見送った。
 第二王子のランフォードは己の欲を満たすことしか考えなかった。その裏には上級貴族たちの策謀が見え隠れしていた。
 第三王子ジョージアの時には前回の反省を生かし、世話をする者の家柄は勿論のこと、人格までも丹念に調べ上げた。だが如何せん頭が良いとは決して言えなかった。
 国王は第四王子のアルデヒドが生まれる頃には半分諦めていた。
 アルデヒドは誰よりも早く言葉を喋ることができるほど聡明だった。そして何よりも、千人に一人とも一万人に一人とも言われる魔眼を生まれながらにして持っていた。
 アルデヒドが3歳になる頃には、国王は密かに自分の手でアルデヒドの教育をしていた。アルデヒドが病弱だと噂され始めたのはこの頃からだ。
 6歳になる頃にはアルデヒドは一通りの学問を修め終わっていた。通常の貴族の子弟が学び始めるのが7歳になった頃なのを考えれば、これは驚異的なことと言える。そしてアルデヒドは城から出され、国王の信頼できる数少ない貴族であり、王族の遠縁のエルダー男爵家でアルフォード・エルダーとして育った。万全を期すため、田舎貴族の子弟として社交界に出ることは殆どなく、王子として出ることなど皆無と言って良いほどだった。
 その後12歳になった頃から領地を与えられ、この地を治めてきた。それと並行して密かに貴族たちの内情を調べていた。そして極普通の年齢になり、王立魔術学園に入学し今に至る。
 これは極僅かな人々──それこそ宰相を始めとした腹心のみが知っている話である。
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