上 下
54 / 141
本編

君達にはガッカリだ

しおりを挟む
ジン、チャコ、千代之助の三人は取り敢えず西に向かった。
西にはジンが若かりし頃に修行したコウフと言う町がある。
剣術が盛んな町で、ジンはそこにあるコウフ剣風会と言う私塾で剣を学んだ。
塾長の柳生 琢磨(やぎゅう たくま)は蔓新陰流と言う剣の使い手であり、古流剣術の宗家から分派した五代目だと言う。
勿論、苗字がある事からも解るように生粋の日本人である。

ジンはそこでもう一度修行したいと言った。

バイヤン会の五枚看板の一人であり、その中でもリーダー格のジンが、今更古巣で練習相手になる人物が居るとは、到底チャコには思えなかった。

途中、馬を休める為に適当な所で休憩を挟んだ。
ジンは愛馬のポピーに水をやった。
チャコは千代之助に包帯を取り替えて貰っていた。

「おいジン、次はお前も包帯を取り替えるぞ」

千代之助がジンに声を掛けた。
ジンは、はい解りましたと返事をした。

「やれやれ、こんな事ならもっと沢山包帯を持ってくるべきだったわい」

チャコの背中に薬を塗ってから、新しい包帯を巻いた。
包帯を巻きながら千代之助がぼやく。

「コウフに着いたら薬も大幅に買い足しましょう」

チャコが両手を上げながら言った。
後ろから千代之助がチャコの身体に包帯を巻いているからだ。

「そうじゃな、そうして貰えるとありがたいのう。チャコ、お前さんは若いせいか傷の治りが早いわい」

包帯を巻き終えて千代之助が言った。

「いやあ、先生の腕が良いからでしょ」

チャコが笑う。

「若いくせに世辞は言わんでいい」

まんざらでも無さそうに千代之助は笑いながら言った。
ふとジンが二人の側へやって来た。

「なんじゃジン。別にお前さんが若くないと言っとる訳じゃないぞ」

千代之助がジンに言った。

「違いますよ。千代之助先生、ちょっと物騒な事になりそうなんで、しばらく馬車の中に閉じ籠もっていて下さい」

千代之助が神妙な顔付きになった。

「なに?」

辺りを見回した瞬間、すぐさま視界に怪しい奴等が入った。
千代之助は邪魔にならぬ様に、言われた通り馬車の中に閉じ籠もった。

「ジンさん、俺も」

チャコが馬車から降りようとする。

「いやいい、この程度なら一人で十分だ。お前は千代之助先生を頼む」

ジンはそう言うとマントの前を割って大きく後ろへ払った。
バサアッとマントが風を孕む。
中からたくましい肉体が現れた。
包帯でぐるぐるに巻かれていても、厚い胸板や太い腕は誰の目にも一目瞭然だった。

ジンは腰から刀を抜いた。
銘は入っていない。無銘の刀だ。
だがその見事な刃文が刀の出来を物語っていた。

ざっと見渡す限り八人。
だが近くにあと三人は隠れている。
気配も殺せんで良く野盗が務まるなとジンは苦笑いした。

「うへへへへ、よお兄ちゃんこんな所で休憩かい。感心しねえなあ、不用心だぜ」

どうして野盗の類いってのは無駄にガタイが良いのだろうか。
こんな恵まれた体に産んで貰って、ちゃんと母親に感謝してるんだろうか。
大体セリフがどいつも同じなのは何なんだろうか。
ジンはそんな事を考えながら、野盗の事を見ていた。

「おい、聞いてんのか、兄ちゃん!」
「びびって聞こえて無いってよ。ひゃひゃひゃひゃ」

下卑た笑い声が響く。
刀抜いてるのに何言ってるんだコイツら、とジンは苦笑いを通り越して頭が痛くなってきた。

「駄目だ、ガタイばっか立派でお前ら雑魚過ぎる」

折角格好つけて刀まで抜いたのに、ジンはガッカリして納刀した。

「なんだと!  てめえ、調子に乗るんじゃねえぞ!」
「ひゃひゃひゃひゃ!  ハラワタ引きずり出して縄跳びしてやるぜ!」

野盗どもの奇声にジンが答えた。

「ほお、そりゃあ楽しそうだ。俺にもどうやるのか教えてくれよ」

ジンは笑っていたが、目にはもう全員を叩きのめした映像が見えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

番を辞めますさようなら

京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら… 愛されなかった番 すれ違いエンド ざまぁ ゆるゆる設定

私があなたを虐めた?はぁ?なんで私がそんなことをしないといけないんですか?

水垣するめ
恋愛
「フィオナ・ハワース! お前との婚約を破棄する!」 フィオナの婚約者の王子であるレイ・マルクスはいきなりわたしに婚約破棄を叩きつけた。 「なぜでしょう?」 「お前が妹のフローラ・ハワースに壮絶な虐めを行い、フローラのことを傷つけたからだ!」 「えぇ……」 「今日という今日はもう許さんぞ! フィオナ! お前をハワース家から追放する!」 フィオナの父であるアーノルドもフィオナに向かって怒鳴りつける。 「レイ様! お父様! うっ……! 私なんかのために、ありがとうございます……!」 妹のフローラはわざとらしく目元の涙を拭い、レイと父に感謝している。 そしてちらりとフィオナを見ると、いつも私にする意地悪な笑顔を浮かべた。 全ては妹のフローラが仕組んだことだった。 いつもフィオナのものを奪ったり、私に嫌がらせをしたりしていたが、ついに家から追放するつもりらしい。 フローラは昔から人身掌握に長けていた。 そうしてこんな風に取り巻きや味方を作ってフィオナに嫌がらせばかりしていた。 エスカレートしたフィオナへの虐めはついにここまで来たらしい。 フィオナはため息をついた。 もうフローラの嘘に翻弄されるのはうんざりだった。 だからフィオナは決意する。 今までフローラに虐められていた分、今度はこちらからやり返そうと。 「今まで散々私のことを虐めてきたんですから、今度はこちらからやり返しても問題ないですよね?」

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

継母の心得 〜 番外編 〜

トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。 【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】

浮気をした王太子が、真実を見つけた後の十日間

田尾風香
恋愛
婚姻式の当日に出会った侍女を、俺は側に置いていた。浮気と言われても仕方がない。ズレてしまった何かを、どう戻していいかが分からない。声には出せず「助けてくれ」と願う日々。 そんな中、風邪を引いたことがきっかけで、俺は自分が掴むべき手を見つけた。その掴むべき手……王太子妃であり妻であるマルティエナに、謝罪をした俺に許す条件として突きつけられたのは「十日間、マルティエナの好きなものを贈ること」だった。

私を侮辱する婚約者は早急に婚約破棄をしましょう。

しげむろ ゆうき
恋愛
私の婚約者は編入してきた男爵令嬢とあっという間に仲良くなり、私を侮辱しはじめたのだ。 だから、私は両親に相談して婚約を解消しようとしたのだが……。

怒れるおせっかい奥様

asamurasaki
恋愛
ベレッタ・サウスカールトンは出産時に前世の記憶を思い出した。 可愛い男の子を産んだその瞬間にベレッタは前世の記憶が怒涛のことく甦った。 日本人ので三人の子持ちで孫もいた60代女性だった記憶だ。 そして今までのベレッタの人生も一緒に思い出した。 コローラル子爵家第一女として生まれたけど、実の母はベレッタが4歳の時に急な病で亡くなった。 そして母の喪が明けてすぐに父が愛人とその子を連れて帰ってきた。 それからベレッタは継母と同い年の義妹に虐げられてきた。 父も一緒になって虐げてくるクズ。 そしてベレッタは18歳でこの国の貴族なら通うことが義務付けられてるアカデミーを卒業してすぐに父の持ってきた縁談で結婚して厄介払いされた。 相手はフィンレル・サウスカールトン侯爵22歳。 子爵令嬢か侯爵と結婚なんて…恵まれているはずがない! あのクズが持ってきた縁談だ、資金援助を条件に訳あり侯爵に嫁がされた。 そのベレッタは結婚してからも侯爵家で夫には見向きもされず、使用人には冷遇されている。 白い結婚でなかったのは侯爵がどうしても後継ぎを必要としていたからだ。 良かったのか悪かったのか、初夜のたったの一度でベレッタは妊娠して子を生んだ。 前世60代だった私が転生して19歳の少女になった訳よね? ゲームの世界に転生ってやつかしら?でも私の20代後半の娘は恋愛ゲームやそういう異世界転生とかの小説が好きで私によく話していたけど、私はあまり知らないから娘が話してたことしかわからないから、当然どこの世界なのかわからないのよ。 どうして転生したのが私だったのかしら? でもそんなこと言ってる場合じゃないわ! あの私に無関心な夫とよく似ている息子とはいえ、私がお腹を痛めて生んだ愛しい我が子よ! 子供がいないなら離縁して平民になり生きていってもいいけど、子供がいるなら話は別。 私は自分の息子の為、そして私の為に離縁などしないわ! 無関心夫なんて宛にせず私が息子を立派な侯爵になるようにしてみせるわ! 前世60代女性だった孫にばぁばと言われていたベレッタが立ち上がる! 無関心夫の愛なんて求めてないけど夫にも事情があり夫にはガツンガツン言葉で責めて凹ませますが、夫へのざまあはありません。 他の人たちのざまあはアリ。 ユルユル設定です。 ご了承下さい。

処理中です...