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本編
君達にはガッカリだ
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ジン、チャコ、千代之助の三人は取り敢えず西に向かった。
西にはジンが若かりし頃に修行したコウフと言う町がある。
剣術が盛んな町で、ジンはそこにあるコウフ剣風会と言う私塾で剣を学んだ。
塾長の柳生 琢磨(やぎゅう たくま)は蔓新陰流と言う剣の使い手であり、古流剣術の宗家から分派した五代目だと言う。
勿論、苗字がある事からも解るように生粋の日本人である。
ジンはそこでもう一度修行したいと言った。
バイヤン会の五枚看板の一人であり、その中でもリーダー格のジンが、今更古巣で練習相手になる人物が居るとは、到底チャコには思えなかった。
途中、馬を休める為に適当な所で休憩を挟んだ。
ジンは愛馬のポピーに水をやった。
チャコは千代之助に包帯を取り替えて貰っていた。
「おいジン、次はお前も包帯を取り替えるぞ」
千代之助がジンに声を掛けた。
ジンは、はい解りましたと返事をした。
「やれやれ、こんな事ならもっと沢山包帯を持ってくるべきだったわい」
チャコの背中に薬を塗ってから、新しい包帯を巻いた。
包帯を巻きながら千代之助がぼやく。
「コウフに着いたら薬も大幅に買い足しましょう」
チャコが両手を上げながら言った。
後ろから千代之助がチャコの身体に包帯を巻いているからだ。
「そうじゃな、そうして貰えるとありがたいのう。チャコ、お前さんは若いせいか傷の治りが早いわい」
包帯を巻き終えて千代之助が言った。
「いやあ、先生の腕が良いからでしょ」
チャコが笑う。
「若いくせに世辞は言わんでいい」
まんざらでも無さそうに千代之助は笑いながら言った。
ふとジンが二人の側へやって来た。
「なんじゃジン。別にお前さんが若くないと言っとる訳じゃないぞ」
千代之助がジンに言った。
「違いますよ。千代之助先生、ちょっと物騒な事になりそうなんで、しばらく馬車の中に閉じ籠もっていて下さい」
千代之助が神妙な顔付きになった。
「なに?」
辺りを見回した瞬間、すぐさま視界に怪しい奴等が入った。
千代之助は邪魔にならぬ様に、言われた通り馬車の中に閉じ籠もった。
「ジンさん、俺も」
チャコが馬車から降りようとする。
「いやいい、この程度なら一人で十分だ。お前は千代之助先生を頼む」
ジンはそう言うとマントの前を割って大きく後ろへ払った。
バサアッとマントが風を孕む。
中からたくましい肉体が現れた。
包帯でぐるぐるに巻かれていても、厚い胸板や太い腕は誰の目にも一目瞭然だった。
ジンは腰から刀を抜いた。
銘は入っていない。無銘の刀だ。
だがその見事な刃文が刀の出来を物語っていた。
ざっと見渡す限り八人。
だが近くにあと三人は隠れている。
気配も殺せんで良く野盗が務まるなとジンは苦笑いした。
「うへへへへ、よお兄ちゃんこんな所で休憩かい。感心しねえなあ、不用心だぜ」
どうして野盗の類いってのは無駄にガタイが良いのだろうか。
こんな恵まれた体に産んで貰って、ちゃんと母親に感謝してるんだろうか。
大体セリフがどいつも同じなのは何なんだろうか。
ジンはそんな事を考えながら、野盗の事を見ていた。
「おい、聞いてんのか、兄ちゃん!」
「びびって聞こえて無いってよ。ひゃひゃひゃひゃ」
下卑た笑い声が響く。
刀抜いてるのに何言ってるんだコイツら、とジンは苦笑いを通り越して頭が痛くなってきた。
「駄目だ、ガタイばっか立派でお前ら雑魚過ぎる」
折角格好つけて刀まで抜いたのに、ジンはガッカリして納刀した。
「なんだと! てめえ、調子に乗るんじゃねえぞ!」
「ひゃひゃひゃひゃ! ハラワタ引きずり出して縄跳びしてやるぜ!」
野盗どもの奇声にジンが答えた。
「ほお、そりゃあ楽しそうだ。俺にもどうやるのか教えてくれよ」
ジンは笑っていたが、目にはもう全員を叩きのめした映像が見えていた。
西にはジンが若かりし頃に修行したコウフと言う町がある。
剣術が盛んな町で、ジンはそこにあるコウフ剣風会と言う私塾で剣を学んだ。
塾長の柳生 琢磨(やぎゅう たくま)は蔓新陰流と言う剣の使い手であり、古流剣術の宗家から分派した五代目だと言う。
勿論、苗字がある事からも解るように生粋の日本人である。
ジンはそこでもう一度修行したいと言った。
バイヤン会の五枚看板の一人であり、その中でもリーダー格のジンが、今更古巣で練習相手になる人物が居るとは、到底チャコには思えなかった。
途中、馬を休める為に適当な所で休憩を挟んだ。
ジンは愛馬のポピーに水をやった。
チャコは千代之助に包帯を取り替えて貰っていた。
「おいジン、次はお前も包帯を取り替えるぞ」
千代之助がジンに声を掛けた。
ジンは、はい解りましたと返事をした。
「やれやれ、こんな事ならもっと沢山包帯を持ってくるべきだったわい」
チャコの背中に薬を塗ってから、新しい包帯を巻いた。
包帯を巻きながら千代之助がぼやく。
「コウフに着いたら薬も大幅に買い足しましょう」
チャコが両手を上げながら言った。
後ろから千代之助がチャコの身体に包帯を巻いているからだ。
「そうじゃな、そうして貰えるとありがたいのう。チャコ、お前さんは若いせいか傷の治りが早いわい」
包帯を巻き終えて千代之助が言った。
「いやあ、先生の腕が良いからでしょ」
チャコが笑う。
「若いくせに世辞は言わんでいい」
まんざらでも無さそうに千代之助は笑いながら言った。
ふとジンが二人の側へやって来た。
「なんじゃジン。別にお前さんが若くないと言っとる訳じゃないぞ」
千代之助がジンに言った。
「違いますよ。千代之助先生、ちょっと物騒な事になりそうなんで、しばらく馬車の中に閉じ籠もっていて下さい」
千代之助が神妙な顔付きになった。
「なに?」
辺りを見回した瞬間、すぐさま視界に怪しい奴等が入った。
千代之助は邪魔にならぬ様に、言われた通り馬車の中に閉じ籠もった。
「ジンさん、俺も」
チャコが馬車から降りようとする。
「いやいい、この程度なら一人で十分だ。お前は千代之助先生を頼む」
ジンはそう言うとマントの前を割って大きく後ろへ払った。
バサアッとマントが風を孕む。
中からたくましい肉体が現れた。
包帯でぐるぐるに巻かれていても、厚い胸板や太い腕は誰の目にも一目瞭然だった。
ジンは腰から刀を抜いた。
銘は入っていない。無銘の刀だ。
だがその見事な刃文が刀の出来を物語っていた。
ざっと見渡す限り八人。
だが近くにあと三人は隠れている。
気配も殺せんで良く野盗が務まるなとジンは苦笑いした。
「うへへへへ、よお兄ちゃんこんな所で休憩かい。感心しねえなあ、不用心だぜ」
どうして野盗の類いってのは無駄にガタイが良いのだろうか。
こんな恵まれた体に産んで貰って、ちゃんと母親に感謝してるんだろうか。
大体セリフがどいつも同じなのは何なんだろうか。
ジンはそんな事を考えながら、野盗の事を見ていた。
「おい、聞いてんのか、兄ちゃん!」
「びびって聞こえて無いってよ。ひゃひゃひゃひゃ」
下卑た笑い声が響く。
刀抜いてるのに何言ってるんだコイツら、とジンは苦笑いを通り越して頭が痛くなってきた。
「駄目だ、ガタイばっか立派でお前ら雑魚過ぎる」
折角格好つけて刀まで抜いたのに、ジンはガッカリして納刀した。
「なんだと! てめえ、調子に乗るんじゃねえぞ!」
「ひゃひゃひゃひゃ! ハラワタ引きずり出して縄跳びしてやるぜ!」
野盗どもの奇声にジンが答えた。
「ほお、そりゃあ楽しそうだ。俺にもどうやるのか教えてくれよ」
ジンは笑っていたが、目にはもう全員を叩きのめした映像が見えていた。
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