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本編

誘蛇魔人

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一方その頃。
ヤーゴと牛嶋、美紅の三人は例のルービーの邸へと来ていた。
当然、奴隷達を競売に掛ける為の移送目的である。

しかし、それは表向き。

つい三十分ほど前に戻って来たヤーゴは、打ち合わせ通りに邸へ下準備を施した。
実に八面六臂の働きぶりである。

まず邸の戸締まりを厳にした。
鍵を掛けて中からは開かない様な細工をしたのだ。
そして奴隷を一旦檻付きの馬車へと監禁して、邸から離れた所へ移動させた。
競売会場に移送する様に見せる為である。
もちろん大事な商品を傷付けない為の配慮でもある。
この後、この邸は多くの死体で埋め尽くされる事になるからだ。

アンタはしばらく馬車で商品を見張りながら時間を潰してなさい。途中で戻って来たりしたら死ぬわよ。とは美紅の弁である。

細かい事は解らないが、美紅がそう言うのであれば言われた通りにしておこうと思う。
余計な事をして作戦に支障をきたすのは、マネージャーとして最も忌むべき事案であろう。

腹をくくってからのヤーゴは、敏腕マネージャー以上の働きぶりを見せた。
気のせいか顔付きも若干違って見える程だ。
人間、モチベーションが大事だと言う良い見本である。

ヤーゴは懐中時計を取り出した。
午後六時になる所だった。

「そろそろかな……」

美紅には三十分は戻って来るなと言われていた。
なんでも『ばるさんをたく』らしい。
何の事やら解らなかったが、とにかく三十分はここで待つしかなかった。

邸では牛嶋と美紅が玄関のドアが開かない様、鍵を掛けたまま内側からドアノブをもぎ取った。
美紅はもぎ取ったドアノブを無造作に放り投げた。

「美紅。全て任せて良いのか?」

牛嶋が美紅に聞いた。

「良いわよ。邸も商品も傷付けずに奪うには、私が殺るのが適任でしょう」

美紅は牛嶋を見る事もせずそう言うと、エントランスの中央へと歩み出た。
そうしてゆっくり髪をかき上げた。
ロングヘアーが割れて美紅の目が真っ赤に光っているのが見えた。

キイイイイイイイイン……!

甲高い機械音が辺りに響き渡る。
美紅がその場でくるりとターンした。
一瞬である。
一回転して正面に戻った時には、もう美紅の姿は美紅の物では無かった。

全身燃える様な紅蓮の赤。
金属質のボディーは光沢がある。
メタリックレッドの体表面に、細かい鱗状の装甲がびっしりと並んでいた。

女性型の頭部は鼻から下は美人を思わせる造形だが、それより上はコブラをモチーフとした禍々しい形をしている。

ヤゴスの三幹部が一人。
誘蛇(ゆうじゃ)魔人。

「ウフフフ……。何も知らずに死ぬ方が恐怖を感じないだけ優しいわよね」

美紅はそう言うと、深呼吸をする様に胸を開く。

シュー……

首筋、背中、脇腹、手首から、静かに気体が噴き出す様な音が聞こえる。
誘蛇魔人の最も主たる能力、複数の化学兵器を体内で生産し自在に操る能力。
催眠ガスから催涙、笑気、青酸、VX、etc……。およそ節操無く、あらゆる毒物を操る。形もガスに限らない。
液状でも生産可能である。

他にも各種超高性能センサーとヤゴスの複数の軍事衛生ともリンクしており、解析や諜報の類いも得意とする。

格闘や対物破壊は唯桜や牛嶋ほど得意では無いが、暗殺や施設を無傷で手に入れる様な事は美紅の最も得意とする分野だった。

因みに同じ改造魔人の牛嶋と言えども、生体部分が残っている以上は美紅の毒が全く無効と言う訳にはいかない。
しかし、これには抜け穴がある。
変身して表面上の生身部分を消してしまえば良い。
腐食性のガスでも無い限り、改造魔人はこれである程度対応が可能である。
後は呼吸を止めてフィルタリングした酸素を別の吸気孔から取り入れる。
当然牛嶋も、現在そうして対応中であった。

もっとも、美紅がどの程度の種類を作り出す事が出来るかは、本人以外誰も知らない。
よって、美紅をみだりに怒らせるのは唯桜と言えども本来は危険である。

その辺を特に気にしていないのが唯桜なのであるが。
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