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本編
ウワバミ
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「実は……」
ヤーゴはそう言ってから三人の顔を見回すと続けた。
「ある儲け話が有るんだが、段取りの中で少しばかり骨の折れそうな箇所があるのよ。それをアンタらに頼みてぇ」
「儲け話ねぇ。泣く子も黙るヤゴスの大幹部が、ちんけな儲け話に誘われるたぁ……」
マグカップを握った手を震わせながら、唯桜は目頭を押さえた。
その様子を横目で見ながら、美紅はザマミロとでも言いたげな表情を浮かべている。
自分も勘定に入っている事はこの際どうでも良いらしい。
「アンタら、どこぞの組織の幹部なのか」
ヤーゴは戸惑いを見せた。
「……そりゃそうだろうな。あんだけの馬鹿力が普通の人間技じゃない事くらい想像はつく」
「やっぱりさっきの牛嶋さんの事、見てたのね」
美紅が問い詰める。
「ああ。俺はこう見えても人を見る目には自信があってね。この人達は訳アリだが俺と同じこっち側の人種だってピンと来たよ。だが、まさかよその組織の幹部だったとは……」
迂闊だったとヤーゴは頭を抱えた。
「いいぜ、乗ってやる」
「え?」
唯桜の言葉にヤーゴは思わず顔を上げた。
「どういう事だ。この話に乗るって言うのかい? 」
「ああ、乗ってやるよ」
ヤーゴは困惑した。
「いや、しかし組織の幹部を三人も抱え込んだとあっちゃ、計画自体見直さねえと……」
「なんでだよ」
「……言いにくいんだが、気を悪くしないでくれよ。儲けの取り分を大きく吹っ掛けられたら、この話はパンクしちまう。それじゃ依頼主がウンとは言わねえ」
自分から聞いておいてヤーゴの話に興味が無いのか。
唯桜は頬杖をついてマグカップの中を覗きこんだり、カップを逆さまにしたりしている。
「おい、酒がねえぞ。もっと飲ませろよ」
唯桜が絡む。
「あ、ああ。良いとも。けど解ってくれよ、俺から声を掛けといて申し訳ないとは思っている。酒ならいくら注文してくれても構わないから、この話は聞かなかった事にしてくれよ」
ヤーゴは唯桜の顔色をうかがいながら、なるべく穏便にこの場を畳もうとしていた。
「心配すんな」
唯桜はそう言ってヤーゴの肩に腕を回す。
ひいっ、とヤーゴの小さな悲鳴が聞こえた。
「お前は運が良い。普段なら絶対あり得ないことだが、俺達は今無料お試しキャンペーン中だ」
「む、むりょ……? お試しキャンペ? 一体何の事だい」
ヤーゴはすっかり警戒している。
いや、ヒビっている。
「分け前は要らねえ。 俺達はこっちへ来てまだ右も左も解らねえんだ。色々知るのに良い機会だからただでやってやる」
「ま、まさか……?」
「何だてめぇ、俺が信じられねぇってのか? あ?」
「いや、違う! 違います!」
ヤーゴは慌てた。
大人になってからこんなに慌てたのは恐らく初めてだった。
「良い返事だ。代わりと言っちゃ何だが俺達は金を持ってない。だからここの飲み代も含め、当面の飲み代もぜーんぶお前が払ってくれ。な?」
「……わ、解った。だが、アンタら無一文でこの店に入ったのかい? どうするつもりだったんだ?」
ヤーゴの質問に唯桜はニヤアと笑みを浮かべた。
「さあ。どうしたと思う?」
唯桜を見てヤーゴは震えた。
ヤーゴはそう言ってから三人の顔を見回すと続けた。
「ある儲け話が有るんだが、段取りの中で少しばかり骨の折れそうな箇所があるのよ。それをアンタらに頼みてぇ」
「儲け話ねぇ。泣く子も黙るヤゴスの大幹部が、ちんけな儲け話に誘われるたぁ……」
マグカップを握った手を震わせながら、唯桜は目頭を押さえた。
その様子を横目で見ながら、美紅はザマミロとでも言いたげな表情を浮かべている。
自分も勘定に入っている事はこの際どうでも良いらしい。
「アンタら、どこぞの組織の幹部なのか」
ヤーゴは戸惑いを見せた。
「……そりゃそうだろうな。あんだけの馬鹿力が普通の人間技じゃない事くらい想像はつく」
「やっぱりさっきの牛嶋さんの事、見てたのね」
美紅が問い詰める。
「ああ。俺はこう見えても人を見る目には自信があってね。この人達は訳アリだが俺と同じこっち側の人種だってピンと来たよ。だが、まさかよその組織の幹部だったとは……」
迂闊だったとヤーゴは頭を抱えた。
「いいぜ、乗ってやる」
「え?」
唯桜の言葉にヤーゴは思わず顔を上げた。
「どういう事だ。この話に乗るって言うのかい? 」
「ああ、乗ってやるよ」
ヤーゴは困惑した。
「いや、しかし組織の幹部を三人も抱え込んだとあっちゃ、計画自体見直さねえと……」
「なんでだよ」
「……言いにくいんだが、気を悪くしないでくれよ。儲けの取り分を大きく吹っ掛けられたら、この話はパンクしちまう。それじゃ依頼主がウンとは言わねえ」
自分から聞いておいてヤーゴの話に興味が無いのか。
唯桜は頬杖をついてマグカップの中を覗きこんだり、カップを逆さまにしたりしている。
「おい、酒がねえぞ。もっと飲ませろよ」
唯桜が絡む。
「あ、ああ。良いとも。けど解ってくれよ、俺から声を掛けといて申し訳ないとは思っている。酒ならいくら注文してくれても構わないから、この話は聞かなかった事にしてくれよ」
ヤーゴは唯桜の顔色をうかがいながら、なるべく穏便にこの場を畳もうとしていた。
「心配すんな」
唯桜はそう言ってヤーゴの肩に腕を回す。
ひいっ、とヤーゴの小さな悲鳴が聞こえた。
「お前は運が良い。普段なら絶対あり得ないことだが、俺達は今無料お試しキャンペーン中だ」
「む、むりょ……? お試しキャンペ? 一体何の事だい」
ヤーゴはすっかり警戒している。
いや、ヒビっている。
「分け前は要らねえ。 俺達はこっちへ来てまだ右も左も解らねえんだ。色々知るのに良い機会だからただでやってやる」
「ま、まさか……?」
「何だてめぇ、俺が信じられねぇってのか? あ?」
「いや、違う! 違います!」
ヤーゴは慌てた。
大人になってからこんなに慌てたのは恐らく初めてだった。
「良い返事だ。代わりと言っちゃ何だが俺達は金を持ってない。だからここの飲み代も含め、当面の飲み代もぜーんぶお前が払ってくれ。な?」
「……わ、解った。だが、アンタら無一文でこの店に入ったのかい? どうするつもりだったんだ?」
ヤーゴの質問に唯桜はニヤアと笑みを浮かべた。
「さあ。どうしたと思う?」
唯桜を見てヤーゴは震えた。
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