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本編

第百十話 コーベ領の実体

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美紅が風呂から戻ると唯桜と牛嶋、そしてヤーゴの三人は既に大量の酒を消費していた。

「おう、どうだった?」

唯桜が美紅を見付けて問い掛ける。

「この時代にしては中々良いんじゃない。多分、元々あった温泉を利用しているんでしょうけど」

美紅はそう言うとヤーゴの向かいに座る。
四角いテーブルをそれぞれが囲んだ。
そこへ女将と女中が、追加の酒と料理を運んで来た。
その後ろから料理人と思われる男衆が、酒樽を担いで現れる。
入り口の脇にドンッと酒樽を並べて、男衆は退席した。
女中も退がり最後に女将も退がろうとした時、ヤーゴが質問した。

「女将」
「なんでしょう」

女将がヤーゴを見る。

「ここへ来る途中何回か見かけたんだが、随分と街の雰囲気が荒れてるな」

女将の顔が曇る。

「……ご覧になりましたか。昔はこうではなかったのですが」

何故か女将は申し訳無さそうに言った。

「七年前に現領主のお父上が崩御なされましてから、すっかり治世が変わってしまいました」

ヤーゴが、ははあんと言って頷く。

「良くある跡継ぎがやりたい放題ってパターンか」

ヤーゴの言葉に女将は頷いた。

「元々乱暴なご気性であられたのですが、ご領主に即位なされてから益々拍車が掛かりまして。私どもも火の粉が降りかからない様にジッとしているのが精一杯なのでございます」

そう言って女将は肩を落とした。
美紅は、ふうんと頷いてから私にジュース持ってきてと言った。
少しも興味が無いのは明らかだった。

「その今の領主ってのは乱暴って言ったって、一応政治はしているんだろ?  兵隊が民衆を痛め付けるのはどう言うことだ?」

ヤーゴは昼間の光景が気になった。
美紅はそんな事に興味が有るのかと、意外そうにヤーゴを見た。
自分だって奴隷売買に手を染めていた筈である。

「……ご領主は血を見るのがお好きなんでございましょう。何でも興奮するとかで、ご自分達が平民に暴力を奮うのは合法なのです。もちろん、民衆が兵士を含めた城の方々に反抗するのは死刑なのですが」

あまりにも露骨な非道振りである。
悪名の高い支配者と言うものは、いつの時代にも居るものだが、ここまで露骨な暴君と言うのは中々珍しい。
いっそ清々しいほどの暴君である。

「ま、ごくごく普通のワガママ男が権力を手にしちゃったって訳ね」

美紅がそう言って料理に手を伸ばす。
ヤーゴはなるほどねえ、と呟いてから女将にありがとよ、と言った。
女将は失礼します、すぐにお飲み物をお持ち致します、と言って部屋を出て行った。

「何でえ、おめえこんな辛気臭え話に興味あんのかよ」

唯桜がコップで酒をあおるとヤーゴに聞いた。
そしてテーブル上の酒が空になると、入り口の脇に並べられた酒樽に手を伸ばして一つを引き寄せる。

「いやあ、中々旨そうな話が転がっている街だなってね」

ヤーゴは、ふふんと鼻を鳴らす。
そして空になったコップを差し出した。
唯桜はヤーゴのコップにも酒を注いでやった。

「旨そうな話?」

美紅が初めて興味を持って返事をした。

「だってこれだけ大きな問題が露骨に転がってる。そんな街は他に無いよ」

確かにそうだ。

「リッチが出没し、領主は暴君。人々は金を払ってでも何とかしたい筈だ」

唯桜はまだピンときていない。
と言うよりも興味が無いから、ピンとしようも無い。
牛嶋は理解はしている様だったが、やはり興味は無いのだろう。
黙って酒を飲むだけであった。

「領主には討伐報酬を吹っ掛ける。そしてそれを頂いたら」

ヤーゴが声のトーンを一段下げた。

「今度は民衆に領主討伐を持ちかける。もちろん報酬有りきでね」
「でも民衆に報酬なんて払えるかしら。大体みんな領主には恐怖心から逆らえないんじゃない?  密告されて失敗するのがオチだわ」

美紅はヤーゴの意見に興味を示している。
だからこそ、問題点をどうクリアするのかをぶつけてくるのだ。
そこはヤーゴもぬかり無い。

「だからこそ、その前のリッチ討伐さ。順番が逆では駄目だ。しかもなるべく派手に討伐する方が良い。コイツらならやれるんじゃないか、そう言う期待感を持たせなきゃ駄目だ」

ヤーゴはそう言って頭の中で算盤を弾いていた。
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