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本編
鬼の目にも涙
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グオアアアアアアアアッ!
凄まじい咆哮が轟いた。
それは表で待機する琢磨翁の元にまで響いた。
「……始まったか」
琢磨翁は祈る様な気持ちで二人を待つ。
チャコの絶叫に反応する様に、鬼もまた咆哮した。
身体を打つような音の衝撃が塊となって押し寄せる。
ジンは咄嗟に手にした松明を、鬼の瞳目掛けて投げつけた。
松明は鬼の眼球に当たった。
叫び声をあげて鬼は穴から遠ざかった。
「今だ! 来い!」
ジンはチャコを掴まえると、通路から中へと飛び込んだ。
中は広い空間だった。
何の為の部屋なのか皆目見当もつかない。
机や腰掛けが乱雑に散らばり、沢山の本や書類が散乱している。
かつて人が居た事は間違いない。
ジンは辺りを一瞥すると、部屋の大きさを把握した。
特に何もない、散らかった部屋と言う印象だ。
ただし、この部屋は広い。
その部屋の中央で、巨大な裸の男がうずくまっている。
鬼だ。
チャコは腰が抜けそうになる。
その鬼の首の後ろ辺り。
何か棒の様な物が飛び出ていた。
チャコは松明を掲げた。
刀だった。
「ジンさん、あれ。首の後ろ」
チャコが指差した先をジンが目で追う。
「あった。本当にあったぞ……、鬼殺し」
鬼の首の後ろ辺りに、日本刀の様な物が刺さっていた。
あれこそが、霊剣『鬼殺し』に違いなかった。
うずくまって目を押さえていた鬼が、ゆっくりとこちらを振り向いた。
何色の肌なのか良く解らない。
薄汚れて黒っぽく見える。
狂暴さを物語る大きく血走った目が、二人を見据えた。
松明の明かりに照らされて、鬼の巨大な影が壁にゆらゆらと映し出されている。
それにしても大きい。
完全に巨人である。
大柄な男程度の物を想像していたチャコは、心底度肝を抜かれていた。
立ち上がれば五メートル弱は有るだろう。
陸橋よりもわずかに大きい。
あまりに予想外過ぎて、こんなの有りかとチャコは半笑いになった。
壁も床かも天井も、全て同じ材質の金属で造られている。
どうやら、こいつをここに閉じ込めておく事は想定されて造られたと言う事らしい。
ジンは自分が投げた松明を拾った。
会得した極意の成果が出ているのか、チャコに比べてジンはずっと冷静だ。
左手で松明を持ったまま、右手で腰の刀を抜いた。
チャコも背中から自前の鉄棒を引き抜いた。
ビビってばかりでは無い。
足を引っ張りに来た訳では無いのだ。
チャコはジンから遠ざかるように、反対方向へと回る。
鬼に向かって左にジンが、右にチャコが、それぞれ距離を保って武器を構えた。
チャコは松明を床に置いた。
ジンは対照的に、松明と刀の二刀流の構えをみせた。
先に動いたのは鬼だ。
短く、ガッ! と声を発して足元を踏みつけてきた。
バアンッ! と大きな足音がした。
軽く部屋が震えた。
ジンとチャコは少し後ろへ飛び退いた。
鬼の攻撃の隙を突いて、チャコが脱兎の如く駆け出す。
床を踏みつけた鬼の脛を目掛けて、鉄棒を渾身の力で薙ぎ払った。
肉を打つ鈍い音がした。
しかし、鬼は少しも怯まない。
「このくらいではダメージにもならないのか……」
チャコは一人ごちる。
続けて鬼が足元のチャコを掴まえに行く。
右の掌がチャコに迫る。
慌ててチャコは飛び退いた。
ショベルカーの様な手が、チャコをかすめる。
「掴まったら一発で終わるな、こりゃ」
チャコは改めて背筋に冷たいものが走った。
今度はジンが駆け出す。
チャコを掴まえ損ねた鬼の右腕を、刀で切り落としに掛かった。
「チェストオオオオッ!」
気合い一閃。
綺麗な弧を描いてジンの白刃が鬼の右腕を捉えた。
「……ムッ!」
三分の一ほど刀が通った所で、止まってしまった。
大木をも真っ二つにするジンの剛剣である。
これには流石にジンも驚いた。
鬼が絶叫する。
しかし斬られた傷口からは大して出血は無かった。
「……血が出ない。浅かったのか?」
ジンは呟いたが、それでも三分の一は通ったのである。
出血はもう少しあっても不思議では無い筈だ。
次の手は考えていない。
相手の出方次第か。
ジンはチャコから注意を逸らさせる為に、チャコとは反対に歩を進めた。
凄まじい咆哮が轟いた。
それは表で待機する琢磨翁の元にまで響いた。
「……始まったか」
琢磨翁は祈る様な気持ちで二人を待つ。
チャコの絶叫に反応する様に、鬼もまた咆哮した。
身体を打つような音の衝撃が塊となって押し寄せる。
ジンは咄嗟に手にした松明を、鬼の瞳目掛けて投げつけた。
松明は鬼の眼球に当たった。
叫び声をあげて鬼は穴から遠ざかった。
「今だ! 来い!」
ジンはチャコを掴まえると、通路から中へと飛び込んだ。
中は広い空間だった。
何の為の部屋なのか皆目見当もつかない。
机や腰掛けが乱雑に散らばり、沢山の本や書類が散乱している。
かつて人が居た事は間違いない。
ジンは辺りを一瞥すると、部屋の大きさを把握した。
特に何もない、散らかった部屋と言う印象だ。
ただし、この部屋は広い。
その部屋の中央で、巨大な裸の男がうずくまっている。
鬼だ。
チャコは腰が抜けそうになる。
その鬼の首の後ろ辺り。
何か棒の様な物が飛び出ていた。
チャコは松明を掲げた。
刀だった。
「ジンさん、あれ。首の後ろ」
チャコが指差した先をジンが目で追う。
「あった。本当にあったぞ……、鬼殺し」
鬼の首の後ろ辺りに、日本刀の様な物が刺さっていた。
あれこそが、霊剣『鬼殺し』に違いなかった。
うずくまって目を押さえていた鬼が、ゆっくりとこちらを振り向いた。
何色の肌なのか良く解らない。
薄汚れて黒っぽく見える。
狂暴さを物語る大きく血走った目が、二人を見据えた。
松明の明かりに照らされて、鬼の巨大な影が壁にゆらゆらと映し出されている。
それにしても大きい。
完全に巨人である。
大柄な男程度の物を想像していたチャコは、心底度肝を抜かれていた。
立ち上がれば五メートル弱は有るだろう。
陸橋よりもわずかに大きい。
あまりに予想外過ぎて、こんなの有りかとチャコは半笑いになった。
壁も床かも天井も、全て同じ材質の金属で造られている。
どうやら、こいつをここに閉じ込めておく事は想定されて造られたと言う事らしい。
ジンは自分が投げた松明を拾った。
会得した極意の成果が出ているのか、チャコに比べてジンはずっと冷静だ。
左手で松明を持ったまま、右手で腰の刀を抜いた。
チャコも背中から自前の鉄棒を引き抜いた。
ビビってばかりでは無い。
足を引っ張りに来た訳では無いのだ。
チャコはジンから遠ざかるように、反対方向へと回る。
鬼に向かって左にジンが、右にチャコが、それぞれ距離を保って武器を構えた。
チャコは松明を床に置いた。
ジンは対照的に、松明と刀の二刀流の構えをみせた。
先に動いたのは鬼だ。
短く、ガッ! と声を発して足元を踏みつけてきた。
バアンッ! と大きな足音がした。
軽く部屋が震えた。
ジンとチャコは少し後ろへ飛び退いた。
鬼の攻撃の隙を突いて、チャコが脱兎の如く駆け出す。
床を踏みつけた鬼の脛を目掛けて、鉄棒を渾身の力で薙ぎ払った。
肉を打つ鈍い音がした。
しかし、鬼は少しも怯まない。
「このくらいではダメージにもならないのか……」
チャコは一人ごちる。
続けて鬼が足元のチャコを掴まえに行く。
右の掌がチャコに迫る。
慌ててチャコは飛び退いた。
ショベルカーの様な手が、チャコをかすめる。
「掴まったら一発で終わるな、こりゃ」
チャコは改めて背筋に冷たいものが走った。
今度はジンが駆け出す。
チャコを掴まえ損ねた鬼の右腕を、刀で切り落としに掛かった。
「チェストオオオオッ!」
気合い一閃。
綺麗な弧を描いてジンの白刃が鬼の右腕を捉えた。
「……ムッ!」
三分の一ほど刀が通った所で、止まってしまった。
大木をも真っ二つにするジンの剛剣である。
これには流石にジンも驚いた。
鬼が絶叫する。
しかし斬られた傷口からは大して出血は無かった。
「……血が出ない。浅かったのか?」
ジンは呟いたが、それでも三分の一は通ったのである。
出血はもう少しあっても不思議では無い筈だ。
次の手は考えていない。
相手の出方次第か。
ジンはチャコから注意を逸らさせる為に、チャコとは反対に歩を進めた。
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→2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)
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