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本編
蛇に睨まれた蛙
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続いて二回目が始まった。
さっきよりも複雑な手順でコップをシャッフルしていく。
多くの観客は早くも、もう見失い始めていた。
「さあ、玉の有りかはどこだろなっ! お選び下さい、どおぞっ!」
大道芸人が叫ぶと美紅はすぐに真ん中のコップを指差す。
あまりの速さに観客も驚いた。
「おっと! お嬢さん、もう決めちゃって良いんですか?」
大道芸人も驚きを隠せない。
もう一人の女性挑戦者も美紅と同じコップを選んでいる。
「またまた同じコップをご指名だあ! お嬢さん方、本当にこれで宜しいですか?」
大道芸人が確認する。
「構わないわ。どんどん進めて頂戴」
美紅は自信を持って答えた。
当然だろう。美紅には全て見えている。
スピードだけで美紅の目を誤魔化すのは無理だ。
ハイスピードカメラ以上の鮮明さで見えている。
赤外線による暗視も出来るし、X線による透視も出来る。
サーモグラフィで表面温度まで見えてしまう女の目から、一体何が欺けると言うのか。
イカサマをしているのは今のところ美紅の方である。
この何でも見透かす感じも、唯桜が美紅を何となく苦手にしている理由でもある。
男と言うものは。
特に唯桜の様なタイプは、女の真実を追求しようとする目に苦手意識を持ちがちだ。
痛くもない腹を探られる感じ。
何も悪い事をしてもいないのに、警官がいると意識してしまう感じ。
そう言う感覚と似ていなくも無い。
こと感覚器を用いた活動では美紅の右に出る者はいない。
唯桜も牛嶋も、この点に関しては美紅には遠く及ばない。
まさしく蛇だ。誘蛇魔人の本領発揮である。
唯桜は、恐ろしい女だ、と一人ごちた。
三回目、四回目と何の危なげもなく、美紅は正解を連発した。
同時挑戦の女も全く同じに勝ち残っている。
流石に大道芸人の表情にも動揺が現れ始めた。
このままでは二人同時に、一番良い賞品から持っていかれてしまう。
何とかしなくては。
そんな気持ちが看て取れた。
仕掛けてくるならこの辺りか。
唯桜はそろそろだと踏んでいた。
しかしあの女性挑戦者も気になる。
ここまで美紅と同じく生き残ってきているが果たして偶然なのか。
五回目の挑戦が始まった。
大道芸人は何としてもここで不正解を出させたい。
勝負は七番勝負だ。ここで正解されると、いよいよ後がない。
大道芸人的には、もう結構本気で負かしに来ていた。
本気の本気とは行かないまでも、普通はこの辺りでもう挑戦者の目を引っかけて、不正解に導いている筈だ。
大道芸人の額に汗が滲んだ。
「さああああああっ! お嬢さん方! 当てれるもんなら当ててみなあああああっ!」
五回目が始まった。大道芸人も必死だ。
口上からも切羽詰まった感じが出ている。
最早隠そうともしていなかった。
観客達は予想外の展開に、そして大道芸人の切れっぷりにも盛り上がっていた。
こんな出し物でここまで盛り上がるのも珍しい。
唯桜も苦笑いで成り行きを見守った。
今度は初めて女性挑戦者が先にコップを指名した。
一番右端のコップである。
美紅も同じコップを指名した。
二人はまたしても一致した。
大道芸人は憤死寸前である。
観客達は恐らく正解であろう、回答を待った。
「くっそおあああああああっ! 正解ですあああああっ!!」
大道芸人が正解を叫ぶと観客達は大いに沸いた。
「あーあ可哀想に。こりゃ大幅赤字だなアイツ」
唯桜は大道芸人に同情した。
昔ならこの辺で、恐いお兄さんが出てきたりもしたもんだが、相手が美紅ではどうにもならない。
美紅は隣に立つ女性挑戦者の横顔を見た。
彼女も美紅を見ていた。
目が合う。
普通の人間だなと美紅は思った。
どうも自分と同じコップを選んでいるだけかと思ったが、さっきの回答を見る限りそれは違った様だ。
美紅は賞品と同じくらい彼女も気になり始めていた。
さっきよりも複雑な手順でコップをシャッフルしていく。
多くの観客は早くも、もう見失い始めていた。
「さあ、玉の有りかはどこだろなっ! お選び下さい、どおぞっ!」
大道芸人が叫ぶと美紅はすぐに真ん中のコップを指差す。
あまりの速さに観客も驚いた。
「おっと! お嬢さん、もう決めちゃって良いんですか?」
大道芸人も驚きを隠せない。
もう一人の女性挑戦者も美紅と同じコップを選んでいる。
「またまた同じコップをご指名だあ! お嬢さん方、本当にこれで宜しいですか?」
大道芸人が確認する。
「構わないわ。どんどん進めて頂戴」
美紅は自信を持って答えた。
当然だろう。美紅には全て見えている。
スピードだけで美紅の目を誤魔化すのは無理だ。
ハイスピードカメラ以上の鮮明さで見えている。
赤外線による暗視も出来るし、X線による透視も出来る。
サーモグラフィで表面温度まで見えてしまう女の目から、一体何が欺けると言うのか。
イカサマをしているのは今のところ美紅の方である。
この何でも見透かす感じも、唯桜が美紅を何となく苦手にしている理由でもある。
男と言うものは。
特に唯桜の様なタイプは、女の真実を追求しようとする目に苦手意識を持ちがちだ。
痛くもない腹を探られる感じ。
何も悪い事をしてもいないのに、警官がいると意識してしまう感じ。
そう言う感覚と似ていなくも無い。
こと感覚器を用いた活動では美紅の右に出る者はいない。
唯桜も牛嶋も、この点に関しては美紅には遠く及ばない。
まさしく蛇だ。誘蛇魔人の本領発揮である。
唯桜は、恐ろしい女だ、と一人ごちた。
三回目、四回目と何の危なげもなく、美紅は正解を連発した。
同時挑戦の女も全く同じに勝ち残っている。
流石に大道芸人の表情にも動揺が現れ始めた。
このままでは二人同時に、一番良い賞品から持っていかれてしまう。
何とかしなくては。
そんな気持ちが看て取れた。
仕掛けてくるならこの辺りか。
唯桜はそろそろだと踏んでいた。
しかしあの女性挑戦者も気になる。
ここまで美紅と同じく生き残ってきているが果たして偶然なのか。
五回目の挑戦が始まった。
大道芸人は何としてもここで不正解を出させたい。
勝負は七番勝負だ。ここで正解されると、いよいよ後がない。
大道芸人的には、もう結構本気で負かしに来ていた。
本気の本気とは行かないまでも、普通はこの辺りでもう挑戦者の目を引っかけて、不正解に導いている筈だ。
大道芸人の額に汗が滲んだ。
「さああああああっ! お嬢さん方! 当てれるもんなら当ててみなあああああっ!」
五回目が始まった。大道芸人も必死だ。
口上からも切羽詰まった感じが出ている。
最早隠そうともしていなかった。
観客達は予想外の展開に、そして大道芸人の切れっぷりにも盛り上がっていた。
こんな出し物でここまで盛り上がるのも珍しい。
唯桜も苦笑いで成り行きを見守った。
今度は初めて女性挑戦者が先にコップを指名した。
一番右端のコップである。
美紅も同じコップを指名した。
二人はまたしても一致した。
大道芸人は憤死寸前である。
観客達は恐らく正解であろう、回答を待った。
「くっそおあああああああっ! 正解ですあああああっ!!」
大道芸人が正解を叫ぶと観客達は大いに沸いた。
「あーあ可哀想に。こりゃ大幅赤字だなアイツ」
唯桜は大道芸人に同情した。
昔ならこの辺で、恐いお兄さんが出てきたりもしたもんだが、相手が美紅ではどうにもならない。
美紅は隣に立つ女性挑戦者の横顔を見た。
彼女も美紅を見ていた。
目が合う。
普通の人間だなと美紅は思った。
どうも自分と同じコップを選んでいるだけかと思ったが、さっきの回答を見る限りそれは違った様だ。
美紅は賞品と同じくらい彼女も気になり始めていた。
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