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本編
飛び入り参加
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「少し迎えを見てこよう」
牛嶋が唯桜に言った。
「んあ? ああ解った。頼む」
唯桜はそう言って牛嶋を見送った。
「牛嶋さん、なんて?」
美紅が尋ねる。
「迎えを見てくるってよ」
「ふーん」
牛嶋の後ろ姿をチラッと見て、美紅はまた大道芸人を見ていた。
旦那は人混みがあまり好きではないからなあ、と唯桜は呟いた。
まさかこんな催しがされているとは。
知っていたら旦那は付いては来なかったかも知れない。
唯桜はそんな事を思いながら、何気なく美紅を見た。
相変わらずアホな顔をして大道芸人を見ているなと、しげしげと美紅の顔を眺めた。
何がそんなに面白いのか。
唯桜には全く理解できなかった。
「さあさあ! 最後まで玉の有りかを見逃さなかった人には、豪華賞品があるよおっ! 参加は一人たったの一銭だ!」
大道芸人が声を張り上げて参加者を募集する。
「なんでえ、金取るのかよ」
唯桜がボヤいた。
それほどの芸でも無かろうにと言わんばかりだ。
一銭と言えば、俺達の感覚で確か千円だったはず。
ぼったくりも良いところだが、お祭り価格ならこんなもんか。
やたら景品が充実してるのも経費が掛かっているのだろう。
もっともこの参加費と景品のラインナップでは、そうそう当りは出ない様になっているはずだ。
唯桜はそんな事を考えながら、ぼんやりと牛嶋を待った。
かつて唯桜も祭りで出店を仕切った事があった。
もちろんヤクザの仕事としてだが、その時の事を思い出しながら儲けの内訳を計算していた。
「まあ、一人で全部やってんならそこそこ儲かるか」
唯桜はそう一人ごちた。
牛嶋は当分戻っては来なさそうだし、美紅はアホ面で出店を見てるし、俺はどうすっかなあ、などと考えていると突然ざわめきが起きた。
唯桜が何気なくざわめきの方に目をやる。
そこには手を上げて前に出ていく美紅の姿があった。
「……また何をやってんだアイツは」
美紅がそんな事をするとは予想外だった唯桜は、呆気にとられてその光景を眺めていた。
「やあ、これは美人の登場だ! お嬢さん、是非挑戦してみて頂戴な! お代は一銭だよ」
大道芸人がそう言って客を煽る。
美紅は革の巾着袋から一銭を取り出して男に渡した。
「これ当てたら本当に好きな賞品を選んでも良いのね?」
美紅が念を押した。
「もちろん! 正解数に応じて好きな物を選んでって下さいな! 全問正解なら全ての中から選び放題だよ!」
大道芸人はより射幸心を煽る様に、抑揚の効いた声で盛り上げる。
「ワタシも……」
もう一人参加者が現れた。
頭から布をかぶった小柄な女性だ。
「毎度ありいっ! またしても女性の挑戦者だ! 男性はいらっしゃらないか?」
大道芸人が呼び掛ける間に、女性客は一銭硬貨を取り出して渡した。
美紅が横目で女性客を見る。
顔は包帯で巻かれていて確認する事が出来ない。
まるで透明人間か、ミイラである。
それを隠す為に、布をベールの様に被っているのか。
「それでは、いよいよ始めますよお!」
大道芸人が開始を宣言した。
唯桜は興味無さそうに事の成り行きを見守る。
大道芸人が五つのコップを手際良く入れ替えていく。
デモンストレーションで見せた動きよりも、若干速かった。
やはり本気は隠していたか、と唯桜は思った。
「さあ、ここまでです! 玉の有りかはどこでしょお?」
混ぜ終わった大道芸人が二人に尋ねる。
見ていた観客達は右だ、いや左だと、それなりに盛り上がっていた。
美紅は左から二番目のコップを指差した。
それと同時にもう一人の女性挑戦者も、同じコップを指差す。
大道芸人が大きな声で驚いてみせる。
「おおっと! お二方とも同じコップをご指名だ! はてさて正解はあ……!」
大道芸人が端から順にコップを開いていく。
「お見事! 大正解ー!」
観客から歓声が上がる。
二人の指名したコップには、ちゃんと玉が入っていた。
唯桜は鼻で笑った。
最初は盛り上げなきゃ話にならない、とばかりに煽りに煽ってくる大道芸人を唯桜はじっと見つめた。
「さて、掴みはオッケーってか。どの辺りから渋くなってくるのか見物だな」
牛嶋が唯桜に言った。
「んあ? ああ解った。頼む」
唯桜はそう言って牛嶋を見送った。
「牛嶋さん、なんて?」
美紅が尋ねる。
「迎えを見てくるってよ」
「ふーん」
牛嶋の後ろ姿をチラッと見て、美紅はまた大道芸人を見ていた。
旦那は人混みがあまり好きではないからなあ、と唯桜は呟いた。
まさかこんな催しがされているとは。
知っていたら旦那は付いては来なかったかも知れない。
唯桜はそんな事を思いながら、何気なく美紅を見た。
相変わらずアホな顔をして大道芸人を見ているなと、しげしげと美紅の顔を眺めた。
何がそんなに面白いのか。
唯桜には全く理解できなかった。
「さあさあ! 最後まで玉の有りかを見逃さなかった人には、豪華賞品があるよおっ! 参加は一人たったの一銭だ!」
大道芸人が声を張り上げて参加者を募集する。
「なんでえ、金取るのかよ」
唯桜がボヤいた。
それほどの芸でも無かろうにと言わんばかりだ。
一銭と言えば、俺達の感覚で確か千円だったはず。
ぼったくりも良いところだが、お祭り価格ならこんなもんか。
やたら景品が充実してるのも経費が掛かっているのだろう。
もっともこの参加費と景品のラインナップでは、そうそう当りは出ない様になっているはずだ。
唯桜はそんな事を考えながら、ぼんやりと牛嶋を待った。
かつて唯桜も祭りで出店を仕切った事があった。
もちろんヤクザの仕事としてだが、その時の事を思い出しながら儲けの内訳を計算していた。
「まあ、一人で全部やってんならそこそこ儲かるか」
唯桜はそう一人ごちた。
牛嶋は当分戻っては来なさそうだし、美紅はアホ面で出店を見てるし、俺はどうすっかなあ、などと考えていると突然ざわめきが起きた。
唯桜が何気なくざわめきの方に目をやる。
そこには手を上げて前に出ていく美紅の姿があった。
「……また何をやってんだアイツは」
美紅がそんな事をするとは予想外だった唯桜は、呆気にとられてその光景を眺めていた。
「やあ、これは美人の登場だ! お嬢さん、是非挑戦してみて頂戴な! お代は一銭だよ」
大道芸人がそう言って客を煽る。
美紅は革の巾着袋から一銭を取り出して男に渡した。
「これ当てたら本当に好きな賞品を選んでも良いのね?」
美紅が念を押した。
「もちろん! 正解数に応じて好きな物を選んでって下さいな! 全問正解なら全ての中から選び放題だよ!」
大道芸人はより射幸心を煽る様に、抑揚の効いた声で盛り上げる。
「ワタシも……」
もう一人参加者が現れた。
頭から布をかぶった小柄な女性だ。
「毎度ありいっ! またしても女性の挑戦者だ! 男性はいらっしゃらないか?」
大道芸人が呼び掛ける間に、女性客は一銭硬貨を取り出して渡した。
美紅が横目で女性客を見る。
顔は包帯で巻かれていて確認する事が出来ない。
まるで透明人間か、ミイラである。
それを隠す為に、布をベールの様に被っているのか。
「それでは、いよいよ始めますよお!」
大道芸人が開始を宣言した。
唯桜は興味無さそうに事の成り行きを見守る。
大道芸人が五つのコップを手際良く入れ替えていく。
デモンストレーションで見せた動きよりも、若干速かった。
やはり本気は隠していたか、と唯桜は思った。
「さあ、ここまでです! 玉の有りかはどこでしょお?」
混ぜ終わった大道芸人が二人に尋ねる。
見ていた観客達は右だ、いや左だと、それなりに盛り上がっていた。
美紅は左から二番目のコップを指差した。
それと同時にもう一人の女性挑戦者も、同じコップを指差す。
大道芸人が大きな声で驚いてみせる。
「おおっと! お二方とも同じコップをご指名だ! はてさて正解はあ……!」
大道芸人が端から順にコップを開いていく。
「お見事! 大正解ー!」
観客から歓声が上がる。
二人の指名したコップには、ちゃんと玉が入っていた。
唯桜は鼻で笑った。
最初は盛り上げなきゃ話にならない、とばかりに煽りに煽ってくる大道芸人を唯桜はじっと見つめた。
「さて、掴みはオッケーってか。どの辺りから渋くなってくるのか見物だな」
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