上 下
88 / 141
本編

プラズマカノン

しおりを挟む
バチッ!  バチバチッ!

唯桜の右腕、その掌に球体状の光が生成されている。
青白い、または青紫色のその光はユラユラと幻想的に見えた。
時折放電現象が起きる。
小さな稲妻が発生し、バチバチッと音をたてた。

美しい。実に美しい光景である。
その場にいた唯桜以外の全ての者は、少なくとも美しいと感じていた。
しかし見とれていても良い物ではない。
非常に危険な物だからだ。

発光したプラズマは球体を形作っていたが、その球体の中心には危険の芯とも言うべき物が存在した。

直径にして約二センチ程のその黒い芯は、あまり目立つ事無く中心に浮いていた。
だがこれがこの派手な放電現象の主であるとは誰も知らない。
実は唯桜も知らない。
最先端科学の粋を結集して作られた改造魔人だが、本人に科学の知識が有る訳では無い。

何も知らなくても、武器が有れば人は殺せる。
唯桜もまさに同じであった。
ただ、自分の体をいじり回している内に、こんな裏技を発見したと言うだけの事である。
総統が知ったら何と言うだろうか。
唯桜も考えなくは無かったが、なるべく考えない様にした。
人生は出来得る限り心配事とは無縁の方が良いに決まっている。

ワーウルフは全神経を集中させた。
戦いのタイミングを計っていた。
唯桜が今だ!  と思う瞬間。その百分の一秒先に飛び込む。
早過ぎては仕損じる。
遅過ぎては餌食になる。
ワーウルフの全身全霊を、命の全てを、今この瞬間に凝縮する。

ワーウルフの四肢が地面を掴んだ。
爪が地面にめり込んでいる。
筋肉は隆起し、微細に震えていた。
骨は皮膚を突き破らんと、限界まで肥大化していた。
究極形態の更に限界ギリギリ、最大フルパワーを維持している。
こちらもこの状態は長くは持たない。

突然その時がやって来た。

唯桜の発する微妙な殺気を感じた。
ワーウルフは脳で考えず、脊髄反射で弾丸の如く飛び出した。

唯桜は薄れる意識の中で、ほぼ無心に発射を念じた。
ここまで来れば後はもう、当たるも八卦当たらぬも八卦である。

エネルギーを暴走させた、プラズマカノンが発射された。
プラズマカノンとは聞こえが良いが、唯桜が適当に命名しただけで名前など無い。
裏技的にエネルギーを暴走させてブッ放すだけの、非常に危険な技とも呼べない技である。

より正確には、プラズマ暴発とでもした方が良い類いの物であった。

発射されたプラズマ光球は、唯桜の手を離れた瞬間から巨大化した。
掌の上でせいぜい三十センチ程度しか無かった直径は、発射された瞬間に十倍の大きさになった。

直径約三メートルの光球が真っ直ぐワーウルフへと向かう。
青白い放電を伴って、ここから先は人間の目には一瞬以下の短い時間の話である。

先に飛び出したワーウルフは、確実に唯桜の殺気を読み切っていた。
これ以上無いと言うタイミングでスタートを切った。
距離にして十メートル弱。
瞬きするよりも短い時間で、ワーウルフの爪は唯桜にもうすぐ届くと言う所まで来ていた。

ワーウルフも勝利を確信した。
さっき唯桜を殺った時以上の手応えを感じる。
今度こそ俺の勝ちだと思っていた。

遅れて唯桜のプラズマカノンが発射されている。
遅れてとは言うがほぼ同時と言って良い。
しかしそれはワーウルフの想像を凌駕した物だった。

もう爪が唯桜を真っ二つにする。
その直前に光球の直径が十倍程度に極大化した。
ワーウルフの爪は、腕は、光の中に呑み込まれた。
何の音もしない。
ジュッ!  ともバチッ!  とも言わない。

呑み込まれた部分は無くなった。
焼けたのではない。溶けたのでも、爆発したのでも無い。
消えて無くなった。
何処かへ転送された様にも見える。
しかし、ただ単純に消滅したのである。

そして。

それは人間が認知出来ない程の、極々短い時間の中での話だった。

腕を失ったワーウルフは、そのまま光の中へと突っ込んでいった。
そして、消えて無くなった。
痛みも恐怖も驚きも、ましてや後悔する時間も無く、何も感じず消えて無くなった。

まさに全てを無に還す。
硬度も何もかも無視して、ただただ無に還る。
正真正銘、唯桜の切り札であった。

「……へっ……悪いな、俺の……勝ち……だ」

唯桜は呟いた。
意識も無いままに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...