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本編

正体

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一服タイムは終了した。
唯桜とワーウルフの間に、目に見えない高い圧力が生まれる。
例えて言うならそれは、殺気やプレッシャーの様な物だった。
常人なら到底耐えられまい。

先に動きを見せたのはワーウルフだった。
足を開いて大きく構えると、全身に力を漲らせた。
大木の様な腕や脚を、凄まじく緊張させている。
胸の筋肉も。腹筋も。肩も背中も何処もかしこも、鋼の如く硬度が増す。

「オオオオオオオオオンッ!」

一際大きな雄叫びを上げるとワーウルフの体が、一回り、二回りと肥大化していく。
唯桜はその様子をじっと見ていた。
不意を突く気は微塵も無い。

「アオオオオオオオオオオンッ!」

ワーウルフが更に大きく吼えた時、その変化は完成した。
完全体とでも呼ぶべきか。
それとも本性を現したと言うべきか。
ワーウルフは更に凶悪に変貌を遂げた。
元々、二メートルに迫る身長は更に大きくなった。
最早、唯桜がアッパーを放っても、やっと拳の先が顎に触れる程度では威力など望めまい。
腕だけで唯桜のウエスト程の太さである。
何もかもが規格外だった。

「……なるほどねえ。単にデカクなったって訳じゃ無さそうだな。ウエイトも筋量も遥かに増してやがる」

唯桜はそう言ってワーウルフの体をじっと見ていた。
筋肉だけが肥大化した訳では無い。
信じられない事に、骨格も大きくなっている。
骨自体が太く長く、そして硬くなっていた。
爪や牙は言うに及ばず、体毛も密度と硬度を増している。

「ふふふ。中々迫力あるじゃねえか」

唯桜が低い声で言った。

「だが、所詮はマイナーチェンジだな」

唯桜はニヤッと笑うと、いつも以上に気合いを入れた。

キイイイイイイイイイイイイイイイイン……ッ!

甲高いモーターの駆動音の様な物が辺りに響いた。
ワーウルフは顔をしかめる。

「へっ。悪いな、耳障りだったかよ」

そう言って笑う唯桜の目が、ピンク色に光った。
ワーウルフが唯桜を凝視する。
いや、周囲にいた者は全て凝視している。
キバも、男達も、ショーコも、ナイーダも、衛兵も、全員が我を忘れて凝視していた。

「一体何が始まるんだ……!?」

キバが呟いた。
と、同時に唯桜がクルリと一回転した。
普段よりも力の籠った、鋭いターンだった。

その場にいた全員が我が目を疑った。
さっきまでの唯桜はいない。
代わりに見た事も無い、新たな化け物がそこに居た。
多くの者がパニックに陥った。キバもそうだ。
もう何が何だか解らない。
メタリックなボディーに狼の頭が付いている。
どう見ても狼男だ。

「……た、大将」

キバも流石に度肝を抜かれた。
まさかこっちも狼男だったとは。

「へっ。じゃあ第二ラウンド始めるぜ」

唯桜は首をコキコキッと振って鳴らした。
ワーウルフも体をブルブルッと震わせる。

かくして、アルティメットワーウルフ対メカニカルワーウルフの戦いの火蓋が切られた。
先に唯桜が疾風の如く駆け出した。
素早く反応して、ワーウルフもほぼ同時に駆け出した。
両者は中央でガッシとお互いの手を組んだ。
力比べの形である。
それだけで辺りには、目に見えない殺気が突風の如く吹き荒れた。
堪えられない者は、そのプレッシャーだけでひっくり返った。

ワーウルフがグルルルルと唸れば、唯桜もオオオオッと声が漏れた。
突然ワーウルフが肩口に噛み付いた。
並大抵の攻撃では傷一つ付けられない筈の唯桜の装甲に、牙がミシミシと食い込んでいく。

「……チッ。これがてめえらのセオリーって訳か」

最初に戦ったワーウルフも、同じく膠着状態から肩口に噛み付いてきた。
唯桜ら改造魔人の装甲は自己修復性を持っている。
だが魔法の様に、たちまち傷が塞がると言う様な性質の物では無い。

生物と同じく再生には時間とエネルギーを要する。
メンテナンスフリーと高い防御性能を兼ね備えた、特殊な生体合金だ。
至近距離からのマシンガン連射にも耐える性能だが、その装甲にワーウルフの牙は通用していた。

「ふ……ふふふ。……うひゃひゃひゃ」

唯桜が突然笑いだす。

「ひゃひゃひゃ。こんなのはスイフト以来だぜ。燃えてくらあああ!」

叫びながら唯桜は強引に力で押し返す。
ワーウルフの手を唯桜が渾身の力で握り締めた。

メキメキッと音をたてて、ワーウルフの手の骨が軋んだ。
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