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本編
お前邪魔だ
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間も無く陽が暮れる。
あと三十分もすれば太陽は地平線から完全に消えるだろう。
影は長くなり、辺りは夕闇に染まる。
昼間から酒盛りしたせいか今は皆大人しい。
横になって休んでいる者もいる。
キバはワーウルフは必ず報復に来ると言った。
それも日を改めてなどと生温い事は絶対にしないのだと言う。
今晩来るとハッキリ明言した。
基本的にワーウルフは夜行性だと言う。
暗くなってからが奴らの時間と言う訳だ。
城の方はと言うと、報酬の贈与式や簡単な宴が催されている事だろう。
唯桜には良く解らなかったが、キバがそう言うのなら、そうなのだろう。
別段興味も無い。
単に暴れる事が好きな性分でもあるが、こう言うイベント感も唯桜は好きだった。
小さな時から祭りが好きだった。
もっとも、祭りで起きる喧嘩はもっと好きだったが。
ゆっくりと辺りは夜へと姿を変える。
焚き火の炎が一層明るくなった。
そろそろか。
唯桜は血が騒ぐのを抑えきれない。
キバも流石にソワソワしだした。
他の奴らはともかく、実際にワーウルフを知っているキバには相当な覚悟があっただろう。
ショーコは邪魔になるとの理由で、馬車のキャビンに引っ込んでいろと唯桜に言われていた。
言い付けを守ってしっかりキャビンに閉じ籠っている。
城門に人の気配がした。
一行が振り返ると、衛兵を従えてナイーダとコスタバが出てきた所であった。
「へっ、何も知らずに幸せなこって」
キバは軽口を叩いた。
緊張をほぐそうとしているのか。
向こうもこちらに気付いた様子だった。
ナイーダとコスタバがやって来る。
その後から衛兵もゾロゾロ着いて来る。
唯桜は興味無さそうに一瞥すると、一同に声を掛けた。
「おいてめえら、そろそろ起きろ。体を目覚めさせておけ」
唯桜の声で全員がパッと起きた。
まるで数年間も唯桜の下で訓練を重ねた軍隊の様である。
各々装備をチェックすると、身に付け始めた。
ある者達は唯桜の言い付け通り、手持ちの剣や斧を布で手に巻き付けた。
そこへナイーダとコスタバがやって来た。
「城門前で何をしているのです」
ナイーダが唯桜に尋ねた。相変わらず口調がキツイ。
唯桜は面倒くさそうに顎でキバに合図をした。
仕方無くキバが説明する。
「……何ですって! それは本当ですか!」
説明を受けてナイーダは激しく動揺した。
化け物など、つい先程まで見た事も無かった。
初めて死体を目にしただけである。
その禍々しい見た目に内心震え上がっていた。
それがまた押し寄せて来ると言う。しかも今度は群で。
コスタバは鼻で笑った。
「例えそうでも、この私の銃に掛かればワーウルフなどただの野犬も同じです。ご心配は無用です」
コスタバはそう言ってナイーダに微笑んだ。
キバはコスタバの無知をせせら笑った。
唯桜はやっぱりどうでも良かった。
コスタバ達の事は完全に無視である。
ナイーダはコスタバの言葉にいくらか安堵した。
確かに銃さえあればどんな相手であろうと倒せるに違いない。
しかもコスタバは既に一体仕留めている。
ナイーダにはそんな気持ちもあっただろう。
唯桜は懐から煙草を取りだした。
くわえて火を着ける。唯桜の好きな煙草の香りが辺りに広がった。
紫煙を鼻から吐き出し、立ち上る煙に目を細めた。
「アンタ……煙草なんか吸うのか?」
キバが意外そうに尋ねた。
唯桜は、ああと返事をしてから、てめえも吸うかと聞いた。
「いや……俺はいい」
キバが遠慮がちに断る。
唯桜は、そうかと言って煙草をしまった。
その様子をナイーダは、わなわなと震えながら見ていた。
「貴方と言う人は……! 煙草は指定禁止薬物の筈、衛兵! この男を捕らえなさい!」
ナイーダが叫ぶ。
が、衛兵達は昼間、唯桜の怪力ぶりを目の当たりにしていた。
とてもじゃ無いが、唯桜を取り抑えるには相当の勇気がいる。
衛兵達は躊躇した。
「……お前。うるさいから向こうへ行ってろ」
唯桜はくわえ煙草でナイーダをジロリと見た。
ナイーダは絶句した。
あと三十分もすれば太陽は地平線から完全に消えるだろう。
影は長くなり、辺りは夕闇に染まる。
昼間から酒盛りしたせいか今は皆大人しい。
横になって休んでいる者もいる。
キバはワーウルフは必ず報復に来ると言った。
それも日を改めてなどと生温い事は絶対にしないのだと言う。
今晩来るとハッキリ明言した。
基本的にワーウルフは夜行性だと言う。
暗くなってからが奴らの時間と言う訳だ。
城の方はと言うと、報酬の贈与式や簡単な宴が催されている事だろう。
唯桜には良く解らなかったが、キバがそう言うのなら、そうなのだろう。
別段興味も無い。
単に暴れる事が好きな性分でもあるが、こう言うイベント感も唯桜は好きだった。
小さな時から祭りが好きだった。
もっとも、祭りで起きる喧嘩はもっと好きだったが。
ゆっくりと辺りは夜へと姿を変える。
焚き火の炎が一層明るくなった。
そろそろか。
唯桜は血が騒ぐのを抑えきれない。
キバも流石にソワソワしだした。
他の奴らはともかく、実際にワーウルフを知っているキバには相当な覚悟があっただろう。
ショーコは邪魔になるとの理由で、馬車のキャビンに引っ込んでいろと唯桜に言われていた。
言い付けを守ってしっかりキャビンに閉じ籠っている。
城門に人の気配がした。
一行が振り返ると、衛兵を従えてナイーダとコスタバが出てきた所であった。
「へっ、何も知らずに幸せなこって」
キバは軽口を叩いた。
緊張をほぐそうとしているのか。
向こうもこちらに気付いた様子だった。
ナイーダとコスタバがやって来る。
その後から衛兵もゾロゾロ着いて来る。
唯桜は興味無さそうに一瞥すると、一同に声を掛けた。
「おいてめえら、そろそろ起きろ。体を目覚めさせておけ」
唯桜の声で全員がパッと起きた。
まるで数年間も唯桜の下で訓練を重ねた軍隊の様である。
各々装備をチェックすると、身に付け始めた。
ある者達は唯桜の言い付け通り、手持ちの剣や斧を布で手に巻き付けた。
そこへナイーダとコスタバがやって来た。
「城門前で何をしているのです」
ナイーダが唯桜に尋ねた。相変わらず口調がキツイ。
唯桜は面倒くさそうに顎でキバに合図をした。
仕方無くキバが説明する。
「……何ですって! それは本当ですか!」
説明を受けてナイーダは激しく動揺した。
化け物など、つい先程まで見た事も無かった。
初めて死体を目にしただけである。
その禍々しい見た目に内心震え上がっていた。
それがまた押し寄せて来ると言う。しかも今度は群で。
コスタバは鼻で笑った。
「例えそうでも、この私の銃に掛かればワーウルフなどただの野犬も同じです。ご心配は無用です」
コスタバはそう言ってナイーダに微笑んだ。
キバはコスタバの無知をせせら笑った。
唯桜はやっぱりどうでも良かった。
コスタバ達の事は完全に無視である。
ナイーダはコスタバの言葉にいくらか安堵した。
確かに銃さえあればどんな相手であろうと倒せるに違いない。
しかもコスタバは既に一体仕留めている。
ナイーダにはそんな気持ちもあっただろう。
唯桜は懐から煙草を取りだした。
くわえて火を着ける。唯桜の好きな煙草の香りが辺りに広がった。
紫煙を鼻から吐き出し、立ち上る煙に目を細めた。
「アンタ……煙草なんか吸うのか?」
キバが意外そうに尋ねた。
唯桜は、ああと返事をしてから、てめえも吸うかと聞いた。
「いや……俺はいい」
キバが遠慮がちに断る。
唯桜は、そうかと言って煙草をしまった。
その様子をナイーダは、わなわなと震えながら見ていた。
「貴方と言う人は……! 煙草は指定禁止薬物の筈、衛兵! この男を捕らえなさい!」
ナイーダが叫ぶ。
が、衛兵達は昼間、唯桜の怪力ぶりを目の当たりにしていた。
とてもじゃ無いが、唯桜を取り抑えるには相当の勇気がいる。
衛兵達は躊躇した。
「……お前。うるさいから向こうへ行ってろ」
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