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本編
どうぞお構い無く
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「はっ、この不届き者が勝手に中へ入ろうとするもので、これを制していた所です」
門番は槍の穂先を唯桜に突き付けたまま、女の問いに答えた。
他の門番は直立不動の姿勢である。
唯桜は自分の胸に突き付けられた穂先の事など微塵も気にする事無く、女を値踏みする様に上から下まで舐め廻す様に眺めた。
これは皇太女辺りのお出ましか、と唯桜は内心考えていた。
それに相応しい物腰と度胸である。
こんな揉めてる真っ最中に、堂々と割って入ってくる所など肝が座っている。
「アンタ、ここの偉い人か?」
唯桜がぶっきらぼうに尋ねた。
門番がいきり立つ。
「貴様! ナイーダ様にその様な口の利き方を!」
唯桜の胸に穂先が食い込んだ。
しかし唯桜は全く気にせず、邪魔な荷物でも退かす様に、片手で門番を突き放した。
たたらを踏んで門番がひっくり返る。
ナイーダ様と呼ばれた女は、微動だにせず唯桜を見据えていた。
「そうです。父の次に権限を持つのは私です」
ナイーダがハッキリした力強い口調で答えた。
唯桜は、ふふんと鼻で笑った。
「そうかい。気の強いのは結構なこった」
そう言って上着の内ポケットから、くしゃくしゃになった紙を取り出してナイーダに見せた。
「これ、化け物退治をしたら諸々報酬が貰えるってのは本当なんだろうな。後で色々理由を付けて渋ったりしねえだろうな」
ナイーダはキッと唯桜を睨み付けた。
「我がブラン家が、その様な詐欺紛いをすると思っているのですか」
どうやらプライドを傷付けた様だ。
唯桜はそう思ったが、特に気にせず紙をポケットにしまった。
「んな事、解らねえから聞いてるんじゃねえか。約束さえ守ってもらえりゃ特に文句はねえよ」
唯桜は再び両手をポケットに突っ込む。
そして後ろでやり取りを見守っている、その他大勢を顎で示してナイーダに言った。
「こんだけ人間を集めておいて、自分は優雅に登場してる場合じゃねえぞ」
唯桜はそれだけ言うと、踵を返して城を後にしようとした。
「待ちなさい。貴方はその様な格好で化け物を退治しに行くつもりですか」
ナイーダが唯桜に質問を投げ掛けた。
「そうだけど?」
唯桜が少しだけ振り向いて答える。
「貴方、死にますよ。化け物退治をただの噂話だと思って甘く見ているなら」
ナイーダは敢えて冷淡な口調で言った。
やはり唯桜の人を食った態度が、内心気に障っていたのかも知れない。
「大丈夫だ、問題無い。あ、それからよ。退治したらどうすりゃ良いんだ? ここへ死体でも持ってくりゃ良いのか?」
唯桜は、買い物次いでに用事を思い出した程度の感覚で、ナイーダに質問をした。
「……そうですね。では出来るならそうなさって下さい」
ナイーダが少し刺のある言い方をした。
唯桜はへへっ、と笑う。
「何が可笑しいのです」
「いや、別に。すぐにアンタの驚く顔が見られるのかと思うと、嬉しいだけさ」
唯桜はそう言って階段を数歩降りると、また人垣を掻き分けて城を出て行く。
ショーコが慌てて唯桜に駆け寄った。
「あ、あの大神社長」
「何だよ。おめえまで社長って呼ぶのかよ」
唯桜は顔をしかめた。
「え、あの、……サラが社長と呼べと。それとマネージャーも呼び方に困ったらそう呼べと」
唯桜はため息をついた。
「……まあ、好きに呼べば良いけどよ。唯桜さんとかで良いんじゃねえか?」
少し考えて、唯桜がそう提案した。
「唯桜……さん……。 そんな! 駄目です、社長をさん付けで呼ぶなんて、絶体駄目です!」
ショーコは突然声を荒らげた。
唯桜はギョッとした。
「……何でだよ。俺が良いって言ってんだから良いじゃねえかよ」
「駄目です。こんなに良くして戴いて、とてもさん付けなんて出来ません」
ショーコは頑なだった。
「最初から社長って呼ぶしか選択肢が無いのかよ。……良いよ、じゃあ社長で」
ショーコは、はい有り難うございます、と嬉しそうに言った。
「あの……社長。私はどうしましょうか」
ショーコが尋ねた。
「ああ、そうだな。外をほっつき歩くと女は危ねえんだろ。敷地内に居られるならそうしてろ。どうせすぐ帰ってくる」
唯桜は何気無く答えると、じゃあ行ってくらあと言ってそのまま山狩りに向かった。
「……流石は社長。化け物退治を、すぐ帰ってくるだなんて。解りました、私ちゃんと待ってます」
ショーコは唯桜の後ろ姿に一人ごちると、馬車の従者席に乗り込み背筋を伸ばす。
そして、それっきり微動だにしなかった。
どうやらこのままの姿勢で唯桜を待つつもりらしい。
広場に居た大勢の志願者達は、唯桜を見送ったものの主催者の正式な発表を聞こうとその場に留まった。
「……コイツらは駄目だな」
その他大勢の中に居た一人の男は、周りを見渡してそう言った。
そして唯桜の後ろ姿をじっと見つめる。
「付いていくならアッチだな」
男は人垣を脱出すると、目立たない様に唯桜の後を静かに追った。
門番は槍の穂先を唯桜に突き付けたまま、女の問いに答えた。
他の門番は直立不動の姿勢である。
唯桜は自分の胸に突き付けられた穂先の事など微塵も気にする事無く、女を値踏みする様に上から下まで舐め廻す様に眺めた。
これは皇太女辺りのお出ましか、と唯桜は内心考えていた。
それに相応しい物腰と度胸である。
こんな揉めてる真っ最中に、堂々と割って入ってくる所など肝が座っている。
「アンタ、ここの偉い人か?」
唯桜がぶっきらぼうに尋ねた。
門番がいきり立つ。
「貴様! ナイーダ様にその様な口の利き方を!」
唯桜の胸に穂先が食い込んだ。
しかし唯桜は全く気にせず、邪魔な荷物でも退かす様に、片手で門番を突き放した。
たたらを踏んで門番がひっくり返る。
ナイーダ様と呼ばれた女は、微動だにせず唯桜を見据えていた。
「そうです。父の次に権限を持つのは私です」
ナイーダがハッキリした力強い口調で答えた。
唯桜は、ふふんと鼻で笑った。
「そうかい。気の強いのは結構なこった」
そう言って上着の内ポケットから、くしゃくしゃになった紙を取り出してナイーダに見せた。
「これ、化け物退治をしたら諸々報酬が貰えるってのは本当なんだろうな。後で色々理由を付けて渋ったりしねえだろうな」
ナイーダはキッと唯桜を睨み付けた。
「我がブラン家が、その様な詐欺紛いをすると思っているのですか」
どうやらプライドを傷付けた様だ。
唯桜はそう思ったが、特に気にせず紙をポケットにしまった。
「んな事、解らねえから聞いてるんじゃねえか。約束さえ守ってもらえりゃ特に文句はねえよ」
唯桜は再び両手をポケットに突っ込む。
そして後ろでやり取りを見守っている、その他大勢を顎で示してナイーダに言った。
「こんだけ人間を集めておいて、自分は優雅に登場してる場合じゃねえぞ」
唯桜はそれだけ言うと、踵を返して城を後にしようとした。
「待ちなさい。貴方はその様な格好で化け物を退治しに行くつもりですか」
ナイーダが唯桜に質問を投げ掛けた。
「そうだけど?」
唯桜が少しだけ振り向いて答える。
「貴方、死にますよ。化け物退治をただの噂話だと思って甘く見ているなら」
ナイーダは敢えて冷淡な口調で言った。
やはり唯桜の人を食った態度が、内心気に障っていたのかも知れない。
「大丈夫だ、問題無い。あ、それからよ。退治したらどうすりゃ良いんだ? ここへ死体でも持ってくりゃ良いのか?」
唯桜は、買い物次いでに用事を思い出した程度の感覚で、ナイーダに質問をした。
「……そうですね。では出来るならそうなさって下さい」
ナイーダが少し刺のある言い方をした。
唯桜はへへっ、と笑う。
「何が可笑しいのです」
「いや、別に。すぐにアンタの驚く顔が見られるのかと思うと、嬉しいだけさ」
唯桜はそう言って階段を数歩降りると、また人垣を掻き分けて城を出て行く。
ショーコが慌てて唯桜に駆け寄った。
「あ、あの大神社長」
「何だよ。おめえまで社長って呼ぶのかよ」
唯桜は顔をしかめた。
「え、あの、……サラが社長と呼べと。それとマネージャーも呼び方に困ったらそう呼べと」
唯桜はため息をついた。
「……まあ、好きに呼べば良いけどよ。唯桜さんとかで良いんじゃねえか?」
少し考えて、唯桜がそう提案した。
「唯桜……さん……。 そんな! 駄目です、社長をさん付けで呼ぶなんて、絶体駄目です!」
ショーコは突然声を荒らげた。
唯桜はギョッとした。
「……何でだよ。俺が良いって言ってんだから良いじゃねえかよ」
「駄目です。こんなに良くして戴いて、とてもさん付けなんて出来ません」
ショーコは頑なだった。
「最初から社長って呼ぶしか選択肢が無いのかよ。……良いよ、じゃあ社長で」
ショーコは、はい有り難うございます、と嬉しそうに言った。
「あの……社長。私はどうしましょうか」
ショーコが尋ねた。
「ああ、そうだな。外をほっつき歩くと女は危ねえんだろ。敷地内に居られるならそうしてろ。どうせすぐ帰ってくる」
唯桜は何気無く答えると、じゃあ行ってくらあと言ってそのまま山狩りに向かった。
「……流石は社長。化け物退治を、すぐ帰ってくるだなんて。解りました、私ちゃんと待ってます」
ショーコは唯桜の後ろ姿に一人ごちると、馬車の従者席に乗り込み背筋を伸ばす。
そして、それっきり微動だにしなかった。
どうやらこのままの姿勢で唯桜を待つつもりらしい。
広場に居た大勢の志願者達は、唯桜を見送ったものの主催者の正式な発表を聞こうとその場に留まった。
「……コイツらは駄目だな」
その他大勢の中に居た一人の男は、周りを見渡してそう言った。
そして唯桜の後ろ姿をじっと見つめる。
「付いていくならアッチだな」
男は人垣を脱出すると、目立たない様に唯桜の後を静かに追った。
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