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本編
行けばいいんだろ
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結局、唯桜が行く羽目になった。
駄々をこねて飲みにも行けなくなったら目も当てられない。
「おい、せめて誰か付けろよ。右も左も解らねえんじゃ途方に暮れちまわあ」
唯桜がぼやいた。
「そうだなあ。作業場の女連中に聞いてみるよ。誰か道に詳しいのが居るかも知れねえ」
ヤーゴはそう言うと、馬車で待っててくれよと言って出ていった。
唯桜は気乗りしないながらもノロノロと立ち上がると、アクビを噛み締めながら馬車へと向かう。
キャビンでだらけていると、やがて誰かがやって来た。
十六、七だろうか。またしても若い。
「ブラン領まで行きたいと伺ったのですが」
黒く長い髪を一つに束ねている。畑仕事がしやすい様にか。
「行きたいっつーか、行かにゃならんと言うか。まあ、取り敢えずそうだ」
唯桜はやる気無さそうに答えた。
「私、ブラン領には何回か行った事がありますので」
「あ、そ。んじゃ頼むわ」
唯桜の返事を聞いて少女は従者席に乗り込んだ。馬車はすぐに走り出した。
「……なあ。この辺じゃ女は皆馬車を操れるのか?」
唯桜が何となく尋ねた。
ラナも馬車を操っていた。でもアイツは異国から来たと言っていたな、と思い返す。
「そう言う訳じゃありませんけど、私達みたいな奴隷に出される様な女は、貧しくて家の手伝いか店の仕事で覚えさせられる事が多いんだと思います」
少女は静かに答えた。
唯桜は、ふーんと言った。
「……あの」
「ん?」
少女がおずおずと言う。
「……私達、本当にただ普通に働いて、その上お金も頂いてて良いんですか」
少女が、どこか遠慮がちに質問した。
「良いんじゃねえの。俺としては売っ払っちまった方が金になって良いと思ったんだがな」
少女は、えっ? と言った。
「ヤーゴの野郎が、ちゃんと働かせた方が組織としては利益になるっつーからよ。損して得取れだ。ま、気にすんな」
「そ、そうなんですか……」
少女は恐々納得した。
聞いちゃいけなかっただろうかと思い、少し慌てた。
「あの……私、ショーコって言います」
少女が名乗った。
「おめえ、日本人か?」
「はい。解りますか?」
「そりゃあ、おめえ黒髪でショーコっつったら日本人かと思うだろうよ」
「え? そ、そうなんですか? 知りませんでした……」
唯桜はショーコを見た。
中々整った顔をしている。日本人の上にこの見てくれじゃあ、売れば相当な値が付いただろう。
何処と無く妹にも似ている様な気がした。
結婚して幸せな家庭を築いていた筈だが、あの地獄の中じゃあくたばっちまっただろう。
ショーコの後ろ髪を眺めながら、唯桜はそんな事を思った。
「……まあ、おめえらの事はヤーゴの野郎が全部仕切ってるからよ。何かあれば奴に相談するんだな。悪い様にはしねえ筈だ」
唯桜はそう言ってショーコから窓の外へと視線を移した。
「はい、有り難うございます」
ショーコは嬉しそうにお礼を言った。
「まあ、売買目的だしな。若いのばっかりなのも当然か……」
唯桜は一人ごちるとまたアクビを噛み殺した。
駄々をこねて飲みにも行けなくなったら目も当てられない。
「おい、せめて誰か付けろよ。右も左も解らねえんじゃ途方に暮れちまわあ」
唯桜がぼやいた。
「そうだなあ。作業場の女連中に聞いてみるよ。誰か道に詳しいのが居るかも知れねえ」
ヤーゴはそう言うと、馬車で待っててくれよと言って出ていった。
唯桜は気乗りしないながらもノロノロと立ち上がると、アクビを噛み締めながら馬車へと向かう。
キャビンでだらけていると、やがて誰かがやって来た。
十六、七だろうか。またしても若い。
「ブラン領まで行きたいと伺ったのですが」
黒く長い髪を一つに束ねている。畑仕事がしやすい様にか。
「行きたいっつーか、行かにゃならんと言うか。まあ、取り敢えずそうだ」
唯桜はやる気無さそうに答えた。
「私、ブラン領には何回か行った事がありますので」
「あ、そ。んじゃ頼むわ」
唯桜の返事を聞いて少女は従者席に乗り込んだ。馬車はすぐに走り出した。
「……なあ。この辺じゃ女は皆馬車を操れるのか?」
唯桜が何となく尋ねた。
ラナも馬車を操っていた。でもアイツは異国から来たと言っていたな、と思い返す。
「そう言う訳じゃありませんけど、私達みたいな奴隷に出される様な女は、貧しくて家の手伝いか店の仕事で覚えさせられる事が多いんだと思います」
少女は静かに答えた。
唯桜は、ふーんと言った。
「……あの」
「ん?」
少女がおずおずと言う。
「……私達、本当にただ普通に働いて、その上お金も頂いてて良いんですか」
少女が、どこか遠慮がちに質問した。
「良いんじゃねえの。俺としては売っ払っちまった方が金になって良いと思ったんだがな」
少女は、えっ? と言った。
「ヤーゴの野郎が、ちゃんと働かせた方が組織としては利益になるっつーからよ。損して得取れだ。ま、気にすんな」
「そ、そうなんですか……」
少女は恐々納得した。
聞いちゃいけなかっただろうかと思い、少し慌てた。
「あの……私、ショーコって言います」
少女が名乗った。
「おめえ、日本人か?」
「はい。解りますか?」
「そりゃあ、おめえ黒髪でショーコっつったら日本人かと思うだろうよ」
「え? そ、そうなんですか? 知りませんでした……」
唯桜はショーコを見た。
中々整った顔をしている。日本人の上にこの見てくれじゃあ、売れば相当な値が付いただろう。
何処と無く妹にも似ている様な気がした。
結婚して幸せな家庭を築いていた筈だが、あの地獄の中じゃあくたばっちまっただろう。
ショーコの後ろ髪を眺めながら、唯桜はそんな事を思った。
「……まあ、おめえらの事はヤーゴの野郎が全部仕切ってるからよ。何かあれば奴に相談するんだな。悪い様にはしねえ筈だ」
唯桜はそう言ってショーコから窓の外へと視線を移した。
「はい、有り難うございます」
ショーコは嬉しそうにお礼を言った。
「まあ、売買目的だしな。若いのばっかりなのも当然か……」
唯桜は一人ごちるとまたアクビを噛み殺した。
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