見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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八二〇

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 ザッ

 俺は宰相の前に立つ。

「ひ!」 

「どこへ行く」

「あ……いや、その」

 宰相が口ごもる。

「どこへ行くのかと聞いているんだ」

 俺は更に宰相に迫った。

「私はこの国の宰相だから……忙しいから……やる事が山積みなので……やらないといけないので……」

 何だか訳の判らない事をごにょごにょと言っている。

「そんな事は聞いていない。どこへ行くのかと聞いている」

「あ……あ……ああ」

 口をぱくぱくさせるばかりで、言葉になっていない。

「お前、さっき偉そうになんか言っていたな?もう一度言って見ろ」

 俺は宰相に迫った。

「そ、それは……そ、そうだ!お前この国の近衛隊長に任命してやろう!これからは王とこの国を宜しく頼むぞ」

 は?

 どんな脳味噌してるんだ。
現実逃避が始まっているのか。

「期待しているからな。では私は行かなければ……」

 ザッ

 俺は宰相の行く手を塞ぐ。

「お前、この状況で良くも自分の下に俺が付くと思えるな。ある意味感心するぜ。聞け、ゴミクズ。お前の下に女子供が集められているだろう。それをどうした」

「は?し、知らん!何を言うかと思えばそんな事。だいたい私は宰相だぞ!犯罪など私が関知する訳無いだろう!」

 ほう。
この期に及んでまだしらを切るつもりか。

「お前、甘えてるんじゃねえぞ。今、自分の命が掛かっている事に気付けよ。ふざけた答えで乗り切れるような状況じゃないぞ?法も権力も関係無い。生殺与奪の権は俺が握っているのだ」

「な、何を馬鹿な……!私は……」

 宰相が唾を飛ばして反論する。

「この国の宰相だと言うのだろ?もう良い。お前は言葉で言っても判らんからな。体に聞く事にしよう」

 我ながらオオムカデンダルのような言い回しに笑いそうになった。

「な、何をする……!」

「お前、国王があの状態なのに自分はお咎め無しだとでも思うのか?」

 宰相の手を取る。

「ひ……」

 そのまま指を曲げて関節技を掛ける。

「ぎゃあああー!」

 まだたいして力を込めていないのに大袈裟なヤツだ。

「いたたたたたた!痛いー!だ、誰ぞ、誰ぞ居らんかあー!」

「誰も来ないぞ。甘ったれるな。自分で頑張れ」

 玉座の間を多くの兵士が取り巻いて様子を見守っている。
だが、誰一人として助けに来ようとする者は居なかった。

「き、貴様ら!何を見ているか!早く何とかせえー!」

「お前の痛みを肩代わり出来る者は居ない。自分の痛みは自分が耐えるしか無いのだ」

 更にギリギリと締めあげる。

「ぎゃあああー!」

 ホンの少し力を加えただけなのに情け無い。

「拐われ殺された者の苦しみはこんな物では無い。その万分の一でも味わえ」

「ぎゃあああー!し、知らん!本当に知らんのだ!止めてくれー!」

「まだ、しらを切るか。良いだろう。指は二〇本あるからな。何本かは折れても問題ない。お前が何本目に白状するか試してみよう」

 兵士たちが生唾をゴクリと呑み込む音が、ここまで聞こえた。
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