見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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八一八

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「レオ」

 アニーの声が聞こえる。

「今、その辺りに不思議な空間の歪みを感知しているわ」

 不思議な空間の歪み?
なんだそれは。

「良く判らないの。ただ『管理人』は、『時間』の流れが不規則だと言っているわ」


 管理人。
やっぱり居るのか。
もうずいぶん声を聞いていない。

 それはともかく。

 時間の流れが不規則と言うのは、王の力『クロノスのギフト』の事に違いなかった。

「今、交戦中だ。敵のスキルが時間を伸ばす事によって世の中全てをスローモーションにするスキルらしい。馬鹿馬鹿しいがそのスキルのせいだろう」

「時間に干渉するスキルがあるなんて……」

 アニーが言葉に詰まる。
スローモーションになっている間、誰もその事を自覚出来ない。
アニーもそんな事が起きている事を認識出来ないのだから驚くのも無理は無かった。

「管理人が言うには、『時間』を操るならそれに関する様々な事が可能かもしれないと言っているわ」

 関する様々な事?

「例えば、時をスローに出来るなら速くも出来るし、止めたり巻き戻したりも出来るかもしれないですって」

 そんな事が出来るなら無敵ではないか。
王が絶対に勝てないと言ったのはこの事か。

 俺は優勢なのにもかかわらず、追い詰められた気持ちになった。 
そんな相手にどうやって勝つと言うのだ。
そもそも、時間が操られている事を認識する事さえ出来ないのだ。
時が止まっても、止まっている事を認識出来ない。
自分にとっては別に何も起こっていないように感じるだろう。

 どうする。

 俺は戦いながらも考える。
俺は再び王を観察する。

「はあ、はあ」

 王がわずかに肩で息をしている。
さすがの王も少しは息が上がっているか。

 俺ははたと気が付いた。
さっきまで、ああも激しく戦っていたのに王は息一つ乱れていなかった。
それはレベル三〇〇からくる身体能力故だと思っていた。
それなのに、今は息が上がっている。

 何故だ。
考えられる事はただ一つ。
スキルを使っているからか。
これだけ途方も無いスキルだ。
全くのノーリスクと言う事は無いだろう。
あれだけの動きでも上がらない息が上がる程の消耗だとしても、なんら不思議は無い。
むしろ、平然としている方がおかしい。

 と言う事は、やはりスキルを無限に使う事は出来ない筈だ。
他に時間を止めたりなんて大それた事は、もっとリスクを伴うと見て良いだろう。

 時を止められたらヤバいな。
俺はそう考えていた。
もし、本当に管理人の言う通りなら時間に関するあらゆる行動、例えば『時を止めてくる』可能性は十分にある。

 その代償も王にはある筈だが。

 そこまで考えて、俺は突然王がさっき自殺しようとした事を、思い出した。

「そうか!」

 俺は何かが自分の中で繫がったのを感じた。

 発動条件。

 何かしらリスクを伴う最大の代償は何か。
それは命を失う事だ。
つまり死ぬ事によって発動する。
もしかして王は何度かこの戦闘中に死んだのでは無いか?
そして、それを俺たちは感知出来ない。
それなら序盤の『王がサフィリナックスカタラクトをかわした』事も説明が付く。

 王は食らって死んだのだ。
そして、それを『無かった事』にしてやり直している。
だから初見の技を知っていたのか。
その辺の違和感を、ウロコフネタマイトは認識出来ないながらもボンヤリと感じていたのかもしれない。

 まさか時間を『やり直せる』能力だとは誰も気が付かない。
恐ろしい能力だ。

 だとすれば、時を止めてくる事はほぼ無いだろう。
何故なら、やり直す為に死ななければならないのだ。
時を止める為に死んでしまっては、動き出した時に元も子も無いだろう。
あるいは、そのまま二度と動き出さないか。
その場合は、世界は永久に止まったまま。
止まっている事を誰も認識出来ないのだから、永遠に止まったままでも問題ないと言えば問題ないが。

 そうで無かったとしても、それに準ずる代償はある筈だ。
この状況で今、王に支払える代償があるようには俺には見えなかった。
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