見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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八〇七

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「ブモオオオオゥ!」

 ミノタウロスが渾身の力で斧を振り下ろす。
城内で武器まで持たせるとは、ミノタウロスの制御に絶対の自信を持っているのか。
それとも考え無しか。

 いや、モンスターをずっと制御しているのを見てきた。
こいつもおそらくは。

 ドゴオオオッ!
バキバキバキメキ!

 床が砕けた。
巨大な斧の刃が床にめり込んでいる。
兵士たちも宰相も喜びの表情を見せた。

 ワアアアアア!

 歓声が湧き上がる。
ウロコフネタマイトの姿は無い。
おそらく斧の下敷きだろう。
つまり、床の下だ。

「化け物め!思い知ったかッ!」

 宰相が口走る。
ケンの顔には絶望の表情が張り付いている。

「そ……そんな!令子さん!」

 令子さん?
いつの間にそんな仲に。
まあ、それはともかく。
鳴り止まない歓声の中、ケンが一人拳を振るわせる。

「よくも……よくも!」

 ケンが怒りを爆発させた。
その時。

 グググ……メキメキ……ガラガラ

 ミノタウロスの斧が床から押し返される。
まだ誰も気が付いていない。
ミノタウロスだけがそれに気付いた。

 ボコオ

 床下からウロコフネタマイトが現れる。
片手で斧の刃を掴まえている。
兵士たちの歓声が、ピタリと止んだ。
こんなにピタッと止まる事なんてあるのか。
初めて見た。

「せっかく湧いていたのに、ご免なさいね」

 ウロコフネタマイトはそう言うと、静かに『ふふふ』と笑う。
俺の背筋に冷たいモノが走る。
恐ろしい。
改めてそう思った。
敵じゃなくて本当に良かったと心から思う。

「ルロロロロロロロオオッ!」

 ガンッ!ガンッ!ガンッ!
ドカドカドカドカ!

 ミノタウロスが狂ったように斧を振った。
何度も何度もウロコフネタマイトを打つ。
微塵切りにでもするつもりか。
その切り方では跡形も残らないぞ。

 だが。

「んもう、乱暴ねぇ。所詮、頭はただの牛なのかしら」

 ウロコフネタマイトは歯牙にも掛けない。
全くの平然だった。
蚊が刺した程にも気にしていない。

 俺は呆れた。
いくら何でもここまでノーダメージなのか。
どうやってダメージを与えれば良いのか。
俺にさえ思い付かない。

「な、ななななな何だとお!」

 宰相が目を白黒させる。
心臓が止まるんじゃ無いのか。
俺は余計な心配をする。
兵士たちもあんなに湧き上がっていたのに、今はシーンと静まり返っていた。

「もう良いかしら?良いわよね」

 ウロコフネタマイトはそう言って、床の穴から完全に出て来た。

 ガラガラガラガラ

 手で体を払う。
砂埃を気にしているのか。

「令子さん……!」

 ケンの顔がパッと明るくなった。

 ツカツカツカツカ

 ウロコフネタマイトが躊躇無くミノタウロスに歩み寄る。

 ぶうん!

 ミノタウロスが自らの拳でウロコフネタマイトを潰しに掛かる。
しかし、それを簡単にかわしながらウロコフネタマイトはミノタウロスの腕へと飛び付く。

 たん、たん、たん

 軽々と腕から肩へ、そして頭へと登っていく。
ミノタウロスはそれを払おうと手でウロコフネタマイトを追う。
だが、全く捕まえられなかった。

「牛肉……よね?」

 ウロコフネタマイトはそんな事を呟いて、頭の上で胸と腹から消化液を分泌した。
ダラダラと透明な粘液がウロコフネタマイトの体の前面から滲み出る。
装甲の隙間から垂れ流す超強力な消化液が、ミノタウロスの頭に掛かった。

 じゅううううぅぅぅ

 ミノタウロスの頭から白煙が上がる。

「ブモオオオオ!ブモオオオオゥ!」

 ミノタウロスが悲鳴を上げる。

 バンッ!バンッ!バシッ!

 狂ったように自分の頭を叩く。
いや、頭上のウロコフネタマイトを叩いているのだ。

 しかし、当然ながらウロコフネタマイトはビクともしていない。
ミノタウロスにしがみ付くようにして、体を押し付けていた。

 じゅううううぅぅぅ

「ブモオオオオゥ!」

 その光景に全員が凍り付く。
ケンでさえ立ち尽くしてその様子を見上げていた。
そりゃ、そうだよな。
この光景を見れば令子への印象も相当変わる。

 勝負あったな。
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