見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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八〇一

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「おかしな術を使いやがって。魔法戦士か?それともその鎧の魔法効果か?」

 耳飾りの男が俺を、頭の先からつま先まで観察する。
どっちでも無いが、答えてやる義理も無い。

 ツカツカツカツカ

 俺は男に無防備に近付いた。

「おっと!動くなと言った筈だぜ。聞こえなかったのか。それとも貴様こそ鶏か?」

 しかし俺はそんな言葉は無視して男に接近する。

「おい!聞こえねぇのか!このガキを殺すと言ったんだぜ!」

 男が少年の首を掴まえて持ち上げた。

「い……痛いよ……ヒック」

 俺の怒りは更に増した。

「おい!止まれ!本当に殺すぞ!」

 そんな事で俺が止まるとでも思っているのか。
馬鹿め。

「……ち!お前たち!ヤツをぶっ殺せ!」

 堪らず男はモンスターたちに俺を殺せと命令する。

 ギャアアアアアアゴ!

 モンスターたちは待ってましたと一斉に襲い来る。
コボルト、オーク、ゴブリン。
この辺りは中級冒険者のパーティーならたいした脅威でも無い。

 ホブゴブリン、オーガはそれよりも数段上のレベルだ。

 そしてリザードマンが数体。
ここがおそらく最強戦力か。

 なんらたいした事は無い。
魔法を得意とするモンスターも居ない。
まるで話にならんな。

 グアアアアアアッ!

 コボルトとオーク、ゴブリンの混成部隊が襲い掛かる。

「サフィリナックスブレード」

 俺は両腕を光の刃に変えると、敵の武器ごと真っ二つにする。
あっと言う間に甲板は血だまりとなった。

 オオオオオオオオオオッ!

 ホブゴブリンとオーガが左右から圧力を掛けて来る。

 ぶうんっ!

 オーガの鉄棒が振り下ろされた。

 がしっ

 それを容易く受け止める。

「何の冗談だ」

 俺はそれをそのまま持ち上げると、先を掴まえていたオーガごと吊り上げる。

「オオッ!?ゴギャアアアアッ!」

 オーガが叫ぶ。

「うるさい」

 ぶうんっ

 俺はそれを更に薙ぎ払い、ホブゴブリンにぶつける。

 どかっ!

「グガッ!?」

 すっぽ抜けたオーガが飛んでいって、ホブゴブリンに当たった。
そのまま甲板から海へと落ちていく。
手間が省けたな。

「キシャアアアアア!」

 リザードマンたちが足を止めた。
遠巻きにして中々近付いて来ない。
さすがは知能が高くて戦闘力も高いと言われるリザードマンだ。
考え無しには襲って来ない。
強力な魔法無しには、今の俺はどうにも出来んぜ。

 上級冒険者パーティーのライバルと言えば、タイタンやジャイアントなどの巨人族やミノタウロスやワイバーンなどだろう。
この中でもワイバーンは頭一つ抜けている。
ジン、イフリートなどの精霊魔神は上級冒険者でも全滅の可能性すらある。

 最低でもこの辺りで無ければ勝負にもならない。
俺は向かって来ないリザードマンをジリジリと追い詰める。

「どうした!掛かれ!殺せと言っているんだ!」

 耳飾りの男が声を張り上げた。

 判らんか。
このレベル差が。

 俺はだっ、と駆け出すと、たちまちリザードマンを全員一刀両断にした。

「グギイイイイイ!」

 リザードマンの断末魔を聞いて、船員たちは完全に戦意を喪失していた。

「後はお前だけだぞ」

 俺は耳飾りの男を見た。

「く……」

 男は少年を持ち上げると盾にするかの如く、自分の前に晒した。

「ゴミめ……!」

 俺の怒りは既に頂点に達している。

「サフィリナックスミラージュ」

 俺はサフィリナックスミラージュを使った。
俺の視界に数字が表示され、カウントダウンが始まる。

「六〇」

 六〇から始まった。

 伸びている。

 約一分近く使えるようになっている。
俺の基礎的な力が成長したから、機能の上限が開放されたのか。

 ひゅっ!

 俺は一瞬のそのまた半分の時間で男へ接近した。

 ザンッ!

 そして一連の動作の中で男の腕を切断し、子供を取り返す。

「五九」

 そこでサフィリナックスミラージュを停止した。

「あ!?あああああああ!」

 男は一瞬、何があったのか理解できなかった。
しかし、次の瞬間には無くなった自分の腕を見て絶叫した。

「この船の行き先を言え。言わなければ次は頭から真っ二つだ」

 俺は子供を胸に抱きながら言った。
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