見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
799 / 826

七九八

しおりを挟む
「プロテクション」

 がきいん!

 男は更にプロテクションを張った。
俺はまた壁に突撃を阻まれた。
二重にプロテクションだと。
そんな使い方見た事が無いぞ。

「何者か知らんがその形、人間か。何故透明なんだ。魔法か、魔導具か?」

 男が俺を問い詰める。

「言葉は通じるのか。それともただの人型モンスターなのか?だとしたらそんなモンスターは聞いた事も無いが」

 あっちはあっちで俺の正体を見破りかねている。

 スクリューシェイブクロウ。

 俺は手首を高速回転させる。
これでプロテクションを破壊する。
もう何度もやった事だ。

「プロテクション」

 男は更にプロテクションを重ねて唱える。
いったい何枚プロテクションを重ねられる。
こんなに連発するには、相当な魔力量を誇っていなければ不安が残る。
いざと言う時に魔力が枯渇しては元も子もないからだ。

 こいつ、魔法職なのか。
考えようとするが、プラヴァケーションの効果で暴力衝動が抑えられない。
挑発の効果は、相手の思考力低下も効果に含んでいる。

 俺は再び真っ直ぐに男へと飛び掛かる。
猪突猛進が今の俺にはピッタリだろう。

 男は易々と俺をいなした。
プラヴァケーションは行動が猪突猛進になってしまうが故に、掛かった相手の行動を単純化しやすい。
見えない敵を相手にするには打って付けだ。

 戦力としてはたいした事は無いが、戦い慣れている事は明白だった。
こう言うタイプが実は一番怖いのだ。

「ウオオオオオオオオッ!」

 俺は遂に雄叫びまで上げてしまった。
もう、透明化の意味も無い。
俺は透明化の維持を解いた。

 俺の姿がぼんやりと現れる。
月明かりに照らされて俺のグロテスクな風貌は、より一層恐ろしく見えているに違い無かった。

「な、なんだ……貴様は……!」

 男がさすがに面食らう。
動揺が見て取れる。

「オオッ!」

 俺は更に突っ込むと、プロテクションを次々に破壊する。

 バキイイイン!
バリイインッ!

 砕け散ったプロテクションが、キラキラと光を反射しながら消えていく。

「くそ、プロテクションをこんなにあっさりと……!」

 シンプルな暴力は何よりも脅威だ。 
俺の改造人間としてのパワーは、男の対応力を上回っていた。
男が劣勢にあえぐ。

「おい!居たぞ!あそこだ!」

 背後から複数の声が迫ってくる。
仲間か。
男の顔に安堵の表情が浮かぶ。

「こいつだ。見た事も無い化け物だ!」

 男が仲間に向けて声を張り上げる。

 馬鹿め。

 物の数十名の仲間など、いったい何の役に立つのか。
改造人間がどう言う存在か、教えてやる。

 俺は衝動に突き動かされるまま、男を執拗に攻撃する。

「くっ!プロテクション!」

 男はまだプロテクションを唱えた。
しかし、次第に表情に苦しさが滲み出る。
さすがに唱えすぎだ。
現役の魔法職でもそろそろ厳しい筈だ。

「うおお!くたばれ化け物!」

 背後から別の男たちが、手に手に武器を俺に振り下ろす。

 ガシッ!
ばきっ!
どかっ!
どかっ!

 だが、何の痛みも無い。
蚊が刺すほどのダメージも無い。
棍棒は砕け、剣は欠け、槍は折れた。

 ヒュッ!
ヒュッ!

 カキン!
キン!

 そしてボウガンの矢さえも弾き返す。
これだけやられても、俺は目の前の耳飾りの男にしか敵意が向かない。
挑発の魔法とは、こう言う物なのだ。

 だからプラヴァケーションは、絶対の防御力を誇る衛士の専売特許なのである。
他の職種が使うと、自分を守り切れずに自滅してしまう可能性があるのだ。

「うわああ!」

 耳飾りの男が恐怖に声を上げた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

穢れた救世主は復讐する

大沢 雅紀
ファンタジー
吾平正志はクラスメイトたちから虐められ、家族からも無視されていた。追い詰められた彼は自殺を計るが、死の寸前に現れた大魔王サタンと契約を結び、新人類となる。復活した正志は仲間を増やし、家族、学校、そして社会全体を破壊していく。すべては人類の救済のために

余命宣告を受けた僕が、異世界の記憶を持つ人達に救われるまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
剣と魔法の世界にて。余命宣告を受けたリインは、幼馴染に突き放され、仲間には裏切られて自暴自棄になりかけていたが、心優しい老婆と不思議な男に出会い、自らの余命と向き合う。リインの幼馴染はリインの病を治すために、己の全てを駆使して異世界の記憶を持つものたちを集めていた。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

組長様のお嫁さん

ヨモギ丸
BL
いい所出身の外に憧れを抱くオメガのお坊ちゃん 雨宮 優 は家出をする。 持ち物に強めの薬を持っていたのだが、うっかりバックごと全ロスしてしまった。 公園のベンチで死にかけていた優を助けたのはたまたまお散歩していた世界規模の組を締め上げる組長 一ノ瀬 拓真 猫を飼う感覚で優を飼うことにした拓真だったが、だんだんその感情が恋愛感情に変化していく。 『へ?拓真さん俺でいいの?』

ある王妃の末路

どら焼き
ホラー
要望が多かったホラーの試作品です。怖くないかもしれません。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【完結】契約結婚は閃きの宝庫

つくも茄子
恋愛
アリックス・リードは二十三歳になる子爵令嬢。若い頃、婚約に失敗して行き遅れになった彼女は、王妃付きの女官をしていた。結婚願望ゼロの彼女にとある人物との結婚話が舞い込む。そのお相手とは、社交界きっての貴公子であるオエル・ブリトニー伯爵。両親を早くに亡くし、爵位を若くして継いだ彼は、超有望物件。ただし遊び人として有名だった。だからと言う訳ではないが伯爵は未だに独身。結婚する気配すらなかった。それもそのはず、伯爵本人が結婚する気が全くないのだから。 そんな伯爵との結婚に疑問を感じるアリックス。実はこの結婚は彼女の兄が持ってきたもの。実は、兄と伯爵は学友。色々な思惑アリの結婚話。一見、アリックスには全くメリットのない結婚と思われた。だが、彼女はこの結婚を承諾する。契約結婚として・・・。 何故、彼女は契約結婚を承諾したのか?

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...