見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七九六

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「血だ!」

「なんだ。鮫か?」

「判らん。鮫だとしたら獲物はなんだ?」

「ケルピーも、まだ戻って来てないぞ」

 ざわざわと色んな声が上から聞こえてくる。
ここからは上がれない。
やはり船尾に回るか。
俺は血に紛れてゆっくりと後ろへ回った。

 触手を伸ばすと船の柱へと巻き付ける。
俺はそれを頼りに船の上へと上がった。

 さて。
姿は消したままの方が良いだろう。
俺は透明化を保ったまま、船首へと向かう。

 交易船と言うよりも、貨物船のようだった。
大きく広く、様々な大きさの木箱が積み上げられてロープで固定してある。

 鉄の檻はどこだ。
必ずある筈だ。
俺は慎重に積み荷を調べて回る。

「おい。もう予定を一時間も過ぎてるぞ。どうしてケルピーは来ないんだ。今回ガキどもはあれだけしか居ないのか」

「そんな事はあるまい。ただ、何かあったのかもしれねぇな。俺達は下手に動けねえ。もう少しジッとしてろ」

 船員同士でそんな事を話していた。
これ以上の積み荷は船の中か。
表には積んでいなかった。

 とにかく船内に入らなければ。

「おい!これ以上はここに居られない。出発するぞ」

「待てよ。まだ積み荷が来てねえ!」

「知るかよ。長居は無用だ。来ない方が悪い。長生きしたけりゃ危ない橋は渡るな」

 リーダー格の男が言った。
それに合わせて船員たちは出発の用意に取り掛かる。
出向されると、ますます子供たちを帰しにくいが。
この船の行き先も突き止めたいし、どうするべきか。

「アニー。現在位置は掴んでるか?」

 俺はアニーを呼び出した。

「ええ。ハッキリ判るわ。それからさっきの場所には、令子さんが行くそうよ」

 令子が。
あまり動かないのに珍しいな。
そんなに退屈だったのか。

「子供たちを救出するのに、女性が良いだろうって」

 確かに。
カルタスやガイ辺りだと、子供たちが余計泣く。
ここは女性が正解か。
だとすると、行けと命じたのはオオムカデンダルか。
いや、アイツにそんな配慮は無理だな。
じゃあ蜻蛉洲か。

「俺はこのままアジトを突き止めたい。しばらく船に潜んだまま居よう」

「判ったわ。レオの事はこちらで追っているから心配しないで」

 アニーはそう言うと通信を終えた。
一人だけど実質二人だな。
アニーがフォローしてくれるなら心強い。

 しかし。
そう言えば管理人は全く気配を感じない。
呼べば答える管理人なのに。
まあ、今はアニーが居てくれるからそこまで不便を感じない。

 帰ったら後でオオムカデンダルにでも聞いてみよう。

 そうしている間にも、船は王国から離れていく。
湾の外側に停泊している船の存在には、王国側も中々気付けまい。
それに、さっきの男の判断と退き際は見事だった。
連絡も無しにあそこまで躊躇なく撤退の判断を下せるとは、いったいどこのどいつなのか。

 俺は気配を消しながら船内へと脚を踏み入れた。
夜の闇に紛れて船は進む。
月明かりと星の明かりだけが頼りの世界だ。
そんな中で、俺は暗闇の中を歩いた。
所々にランプがぶら下がっている。
節約の為か数は少なく、光量も弱い。
岸や他の船から目立たないように偽装しているのかもしれない。

 船室を通り過ぎ、更に下へと進む。
船倉は貨物室と相場が決まっている。
外に居ないなら子供たちは、ほぼ船倉だろう。

 もし居たとしても、今すぐ助け出す事は出来ない。
ただ、とりあえず無事と居場所だけは確認しておきたい。
俺は抜き足差し足で階段を降りた。

 船倉は更に薄暗い。
天井は吹き抜けで、直接荷下ろしが出来るように穴が開いている。
あそこから滑車で積み荷を降ろすのだ。

 そこだけ月明かりが差し込んで、少し明るくなっていた。

 居た。

 鉄の檻が積み上げられ、やはりロープで固定してある。
思ったよりも静かな事に驚いた。
もっと泣き声や話し声が聞こえてくるかと思ったのだが、船倉はシーンと静まり返っていた。

 絶望感か。
ここまで来たら帰れないと子供たちにも判るのだろう。
泣いてもどうにもならないと。
子供たちのその心中を察すると、俺はいたたまれなくなった。
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