見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七九四

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 俺は水中を進んだ。
川から海へ出る。
この辺りは入り江になっている。
この先を出れば湾に出る。

 船が居るとすれば、そのもっと先。
ずっと沖合いだと思うが。
そのまま先へと泳いでいく。

 水中での活動は楽だが、泳ぎ自体はそこまでの能力は無い。
なんせクラゲなのだ。
基本的には海の中を漂う存在だ。
どちらかと言えば近付いて来た敵を攻撃したり捕食する生き物だから、あまり行動的では無い。

 それでも人間に比べれば、十分に水中が得意と言える。

 船を曳航していたモンスターは、もう沖の船へと辿り着いたのだろうか。

 突然、ソナーに感がある。
耳に聞こえないような特殊な音を発して、周囲を探る能力だ。
原理など俺には良く判らないが、とても便利な能力だ。

 この先ニキロの所に、海上に巨大な物体がある。
これは間違いなく船だ。
このサイズは交易船か。
何かあるな、と俺は感じた。
速度を上げて俺は船へと向かった。

 慎重に辺りを窺う。
例の水棲モンスターがこの辺りに居る可能性がある。
まさか船へと上がったとは考えにくい。

 敵の正体が判らない以上、用心に越した事は無い。
だが、予想に反して敵は現れない。
どう言う事だ。
俺は何度もソナーを確認した。
しかし、周囲には特にこれと言った反応は無かった。

 やがて船へと近付いた。
後一〇〇メートル弱か。
船へ上がる準備を始める。
船尾から上がる為に俺は船の後ろへと回る。

 ゴボゴボゴボゴボ

 突然、ソナーに感が表れる。
なんだと。

 真下だ。

 俺は下を見た。
何かが真っ直ぐこちらへ向かって上昇して来る。
早いぞ。

 どかっ

 その何かが俺にぶつかった。

「くっ!」

 俺は慌てて体勢を立て直す。
悟られないように、ジッとしていたのか。
ソナーには引っ掛からない訳だ。
夜目が利く俺の目も、さすがに夜の水中は遠くまでは見渡せない。
水中は光が阻害される為、赤外線でも外ほどは威力を発揮できない。

 それでも俺は全てのセンサー類を総動員した。
ソナー、赤外線センサー、温度探知、水圧センサー。

 テクノセクトがあれば、もっと楽に敵を感知出来たのだが。
いや、あれには水中型は無かったな。
俺は思い直す。

 ゴボゴボゴボゴボ

 再び音が旋回して近付いて来る。
動きからすると、かなり自在に動いているのが判る。
鮫のような大型魚の動きでは無い。
速度と大きさの割に、小回りが利いて上下左右に自在に動いている。

 なんだ。
こんな生き物知らないぞ。
俺は注意深く身構える。
遠くから一瞬で、その影が接近してくる。

「!」

 馬だ。
いや、上半身だけ馬なのか。
下半身は魚のようになっていた。

「ケルピーだと!?」

 俺はガードの体勢を取ったが、ケルピーはお構いなしに体当たりを仕掛けて来る。

 どかっ

 巨体でありながら、水中をこの速度で泳ぎ回る。
人間ならば体当たり一発で即死だ。
普通の馬に陸上でぶつかられても死ぬ。
ケルピーはそれよりもまだ大きく、もっと速い。
マグロの巡航速度以上だ。
まるで水中を泳ぐ砲弾である。
ケルピーは全身が鱗にびっしりと覆われていた。
モンスターの鱗だ。
魚の鱗とは訳が違う。
戦士の鎧よりも防御力は上だ。

「これは厄介なのが……」

 俺は舌打ちした。
サフィリナックスヒューイットの刺胞は、あの鱗を貫通出来ない。
つまり毒は使えない。
アシッドバルカンもサフィリナックスフレイムも、水中での威力は半減以下だ。

 水生生物の改造人間なのに、何故地上での戦闘力の方が高いのか。
理解に苦しむが、今はそんな事を言っている場合では無い。

 良く見ると、馬車を引く為の馬具が装着されている。
そうか、アレで船を曳航していたのだな。
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