見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七八六

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「ハッタリで僕たちをやり込めようとしたのか……」

 ケンが複雑な顔で言う。
そうは言っても、これまでそれで上手く行っていたのだろう。
全くのハッタリと言う訳でも無い。

 これだけ大掛かりな罠なら、突破できなくても仕方が無いと言う物だ。
並の実力ならヴァンパイアまでも辿り着けまい。
下手をすればゴースト辺りで力尽きても何ら不思議は無いだろう。

「く……!」

 男がこの期に及んで逃走を試みる。

「逃げられると思っているのか?」

 俺が迫る。

「何者だ……貴様」

「質問するのはこっちだ」

 俺は男の質問を無視した。

「上の子供たち以外はどこだ」

「知らんと言った筈だ。俺はこのエリアの責任者だ。他は知らん」

 あくまで知らんと言い張るのか。

「プロテクションがある限り、直接ダメージを与える事は出来ん。援軍が来るまで時間稼ぎに付き合ってもらうぞ」

 男が引きつった顔で言う。
ビビりながら言うセリフじゃ無いな。

「時間稼ぎなどさせないよ。僕がそのプロテクションを剥がしてやる」

 いつの間にかケンが立っている。
ちゃんと休めたのか。

「僕には自己回復のスキルがあるからね。じっとしていれば数十倍の速度で回復する。そんな事よりお前には全部吐いてもらうぞ。こんな詐欺師に担がれたと思うと腹が立つ」

 ケンがいつになく真面目な表情で言う。
結構、根に持ってるんじゃないのか。

「そうだ。冷静になればこんなペテンに引っ掛かる筈が無いんだ。下手にヴァンパイアなんかと接戦してしまったばかりに、余裕が無かった」

 ケンが剣を振りかざす。

「スー……ハー……、魔神力ッ!」

 深呼吸したかと思うとケンはカッと目を見開いた。
見る間に上腕が膨れ上がり、ケンの服ははち切れた。
これは。

 強化魔法の一種か。
だが魔法が働いた気配は無かった。
もしかすると、勇者の固有スキルなのかもしれない。
魔神力なんて、一般には聞かない名前だ。

「さあ試してみようか。お前のプロテクションがどのレベルなのか、すぐに判る」

 ケンはそう言うと、気合もろとも剣を振り下ろした。

「えいやあああっ!」

 がきいいんっ!

 振り下ろされた剣がプロテクションに弾き返される。

「ふ……ふふふ……!ど、どうだ。破れまい。ひ、ひひひ」

 男が強がりを口にする。

「では、もう少し力を込めてみよう」

 ケンがそう言うと更に腕が太くなる。
もう、ケンの体格と全く合っていない。
腕だけが別人の物のようにケンの体から生えている。

「チェストオオオッ!」

 ぶおんっ!

 ガッキイン!
バリイインッ!

 プロテクションが砕ける音がする。
一瞬だけガラスのようにキラキラと砕ける姿が見えた。
そしてそれはすぐに、消えていった。

「ひいいいい!」

「ふふふ。割れたね」

 ケンが怪しく笑う。

 がっ!

 そしてそのまま手を伸ばして、男の腕を掴まえた。

「……あった。やっぱりね」

 なんだ。
何があったんだ。

 ケンが男の手を掴んで俺に見せた。
ローブに隠れていたが、男の指には大きな指輪があった。
これがなんだ?

「これは召喚士の指輪だ」

 これが召喚士の指輪。
初めて見るな。

 この世には様々な職種に合わせて指輪が存在する。
その職能を伸ばす為。
あるいは、全く別の職種がその職能を使う為に用いる指輪。
いわゆる魔導具の一種だ。

 かなり稀少で高価な為に、市場にもほとんど出回らない。
なぜ稀少かと言えば、例に漏れずドワーフが造った物だからだ。
稀少なドワーフの稀少な魔導具。
出回らないのは当然だ。

「こんなレアな物を持っているとは思わないよな。けど、お前程度の実力でも、勇者を苦しめる程には強力だよ」

 ケンが忌々しそうに言う。

「レオがあの鐘に気付いてくれたお陰で召喚を阻止できたんだ。そうで無ければ今も延々と続いていた筈だ。全く恐ろしい」

 ケンがそう言って男のフードを剥ぎ取る。
男は慌てて顔を背けるが、無駄な抵抗だった。
顔を覆う布まで剥ぎ取られ、ケンに顔を掴まれた。

「お!?お前……!」

 ケンが驚いた。
並の驚き方じゃないな。
誰なんだ。

「……第一騎士団の隊長だよ」

 ケンが力無く言った。
身内か。

 俺は特に驚かない。
王国内に関係者が居ると知った時点で、こう言う事は想定済みだ。
だがケンにとっては、さすがに自分の部下だとは思いも寄らなかったようだ。
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