見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七八二

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 とは言え。
今のままではケンの勝ち目は薄い。
何か打開策は無いのか。

 俺は辺りを見回して、少しでも情報を集めようとした。
床には特に何も無い。
魔方陣も無ければ、あからさまに怪しい物体も無い。
これがトラップだとすれば、何かしら仕掛けがある筈だ。

 俺は天井も見る。
やはり何も無い。
いや、あった。
なんだあれは。

 高い天井には沢山の岩が剥き出しで並んでいる。
その中に、鐘がぶら下がっているのが見えた。
この部屋に入った瞬間に、天井が急に高くなっていた。
そのせいで、高い天井だなと言う印象を持って、それ以外上を見なくなっていた。
丁度岩場の窪みに隠れるように、鐘が吊されている。

「あれか……」

 さっきから、りんごーんりんごーんうるさく鳴っていたのは。
だが。

 届かない。
手持ちのショートソードでは、投げ付けた所で鐘を落とす事は出来まい。
他には何も無い。
せいぜい積み上げられた麻袋くらいの物だった。

 どうする。

 俺はケンを見た。
あのままではいずれ致命的なミスをする可能性がある。
ケンの成長を待てるほど悠長な事は言っていられない。

 変身するか。
変身すればいくらでも鐘を破壊する手段はある。
跳んでだって届く。

 いよいよとなれば変身するしかない。
だが、ケンがやると断言したのだ。
もう少しだけ、ケンの奮闘を見守ろう。

「フハハハハッ!」

 ヴァンパイアがマントを翻してケンを翻弄する。
ケンは今一つ近付けない。
恐怖を克服して踏み込まなければ、ヴァンパイアに致命傷を与える機会は訪れない。

「ケン!」

 俺はケンを呼んだ。

「良く聞け。もしお前がチャームに掛かったら、俺が責任を持ってお前を倒してやる。だから安心して踏み込め!怖がるな!」

 ケンは驚いて俺を見た。

「……僕を倒すだって?」

 シャアアアアッ!

 ケンはヴァンパイアの攻撃を紙一重でかわした。

「……そうか。ふふふふ」

 ケンが笑う。

「ふふっはっはっはっはっ!まさか君がそんな事を言い出すなんてね。そうか。じゃあ、もしもの時は君に介錯を頼むとしよう!」

 ケンは覚悟を決めた。
姿勢が変わる。
踏み込むために必要な体重移動。
前傾姿勢になって、重心は前足に置かれた。

 いつでも飛び込む気持ちの表れだ。

「フハハハハハハッ!」

 ヴァンパイアが躍り掛かった。
ケンを完全になめているな。

「はあっ!」

 ケンが衝撃波突きの構えを取る。
またか。

 だが、今度は違った。

 ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!

 五連続。
いや。

 五つの衝撃波を胸に受けても、ヴァンパイアはもはや意に介さない。
そのままケンに襲い掛かる。

 ケンの衝撃波突きは段々と正確になってきていた。
全弾命中。
しかし、それでも心臓で無ければ意味が無い。

 ヴァンパイアの爪が、今まさにケンの顔面へと振り下ろされる。

「チェストオオオォッ!」

 気合一閃。
鋭く踏み込んだケンの突きが、ヴァンパイアの心臓に突き刺さる。

「ギャアアアアアアッ!」

 六連。
最初の五連続はこの為の布石か。
五連続撃を食らって、ヴァンパイアはわずかに怯んだ。
この一瞬が、最後の突きに必要な溜めを作ったのか。

 ヴァンパイアが剣を引き抜こうと刀身を素手で掴まえる。
だが上から飛び掛かったせいで、抜く事が出来なかった。
足が地面に着いていない。
自重でどんどん深く刺さっていく。

 やがて根元まで深々と刺さり、ヴァンパイアとケンは顔が付く程の距離で睨み合う。

「グ……グググ……!」

「滅せよ!魔王!」

 次の瞬間、ヴァンパイアの体が青い炎へと変わった。
轟々と音を発てて激しく燃え上がると、ヴァンパイアをなめ尽くしてやがて消えた。

 やったな。
まさか、ここまで薬が効くとは。
俺はケンの実力を、少し甘く見ていたかもしれない。

「ふあー」

 ケンが膝に手をついた。

「中々刺激的だったよ」

 そう言ってケンが笑った。

「ケン。あの鐘を見ろ。アレを破壊出来ないか?」

 時間は無い。
すぐに新手が現れる。
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