見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
766 / 826

七六五

しおりを挟む
「な、何を言っていやが……」

「麻薬の流通経路はどうなっている?行き着く先はどこだ?」

 俺は男の反応を無視して質問した。

「ふざけるなっ!貴様、こんな真似をしてタダで済むとお……!」

「残念、時間切れだ」

 俺は冷たくそう言うと、男の耳を一気に引きちぎる。

 びぎっ!

「ああああああっ!」

 男が床を転げ回る。
大男のくせに敏感な野郎だ。
床に鮮血が滴り落ちる。

「ぐあ……こ、この野郎……!」

 俺は再び男に質問した。

「第二問。お前、ラッキーだな。なんと二問目も同じ質問だ。麻薬の流通経路はどうなっている?行き着く先はどこだ?」

「ぐ!ぐぐぐぅぅー!」

 男は怒りと恐怖が混ざった複雑な顔をした。
俺への怒りと、俺から逃げたい気持ちがぶつかって、足をバタつかせている。

「残念、時間切……」

「待てぇ!言う、言うから待て!」

 大男はそう言って、後ろへ逃げるように後ずさった。

「仕方が無いな。サービスだ。答えて良いぞ」

「く……お、俺たちは全部知っている訳じゃ無えんだ!役目ごとに知らされる範囲は決まっていて、全貌を知る者はホンの数名だ。ここに居る連中は、麻薬の栽培と運搬、それに労働力の確保、それだけだ!直接流通経路に入っている訳じゃ無え!」

 大男は一気にそこまでを吐き出した。
デカい図体して、そこまで痛みに弱いか。
だらしのないヤツめ。

 しかし、今の内容はジョンビアで俺が見て来た内容だ。
あそこに居た連中は、ここから来ていたのか。
とは言え、運んできたならそれを受け渡す筈だ。
渡した麻薬を精製すると言っていた。
純度を上げるのだと。
どこかで精製して、それを小分け、売り捌いている奴を突き止める。

 首謀者は誰だ。
勝手に薬をばら撒いて、民衆を苦しめ駄目にするなど、ネオジョルトの理念にも反する。
民衆は搾取する対象では無いのだ。

 もしも国王だったら……

 俺はふとその可能性を考えた。
その時は容赦しない。
オオムカデンダルもきっとそう言う筈だ。
支配者の風上にも置けぬと。

「俺が聞きたい内容は入っていないな」

 俺は大男にそう告げた。

「そ!そんなっ……!?」

「運んだ麻薬をどうやって他の担当者に受け渡す?」

「あ、そ、それは、マスターが知っている!麻薬はこの店の地下に保管してある。それを一ヶ月ごとに渡している筈だ!俺はそれで全部だ!それしか知らん!」

 そう言うと男は、声を出して泣き始めた。
よしよし。

 しかし面倒だな。
取りに来るまで待たなければならんのか。
この騒ぎが知れたら警戒して取りに来ない可能性もある。

 その時だった。

 ガシャアンッ!

 店で何やら大きな音がした。

 ガシャアンッ!
どんがらがしゃこーん!
バリイーンッ!
バリバリーンッ!

 同時に複数の怒声が飛び交う。
なんだ。
俺は立ち上がると、大男を無視して部屋から出た。

 細い通路から店の方を見ると、椅子やテーブルが宙を舞っているのが見える。
乱闘か?
こんな店では乱闘も珍しくは無かろうが、悪事に揃って手を染めている仲間同士だとすればこれは珍しい。
共同の利害が一致しているのに揉めるのは、損しか無いからだ。

 俺はゆっくりと店の方へと近付いた。
掛かっているカーテンに手を掛ける。
ゆっくりとそれをどけていく。

 店の中には客とおぼしき男たちと、兵士の姿が見える。

 兵士だと。

 なんだ。
何かやらかしてガサ入れでも入ったのか。
それともまさか、王国側でも麻薬を嗅ぎ付けたのか。

 これはあまり良くないな。
せっかくここまで来たのに、話が見えなくなってしまいかねない。
このまま王国側に任せても良いが。
どうするか。

 幸い俺はこの程度なら難なく突破する事は出来るが、そのまま手を引いて雲隠れするならそれも良いだろう。

 よし、後は王国側に任せよう。
俺はジョンビアに戻り、王国が助けに来ると伝えてから屋敷に戻る。

 そう決めると、長居は無用とばかりに俺は店内に足を踏み入れる。
乱闘に巻き込まれないように端っこを進んで、店の外へと飛び出した。

 ざっ!

「おや、どこへ行くんです?」

 当然、店の外にも兵士は居る。
この店丸ごと包囲されている。
そんな事は百も承知だ。

 俺は黙ってその場から立ち去るべく一気に駆けだした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

穢れた救世主は復讐する

大沢 雅紀
ファンタジー
吾平正志はクラスメイトたちから虐められ、家族からも無視されていた。追い詰められた彼は自殺を計るが、死の寸前に現れた大魔王サタンと契約を結び、新人類となる。復活した正志は仲間を増やし、家族、学校、そして社会全体を破壊していく。すべては人類の救済のために

余命宣告を受けた僕が、異世界の記憶を持つ人達に救われるまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
剣と魔法の世界にて。余命宣告を受けたリインは、幼馴染に突き放され、仲間には裏切られて自暴自棄になりかけていたが、心優しい老婆と不思議な男に出会い、自らの余命と向き合う。リインの幼馴染はリインの病を治すために、己の全てを駆使して異世界の記憶を持つものたちを集めていた。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

組長様のお嫁さん

ヨモギ丸
BL
いい所出身の外に憧れを抱くオメガのお坊ちゃん 雨宮 優 は家出をする。 持ち物に強めの薬を持っていたのだが、うっかりバックごと全ロスしてしまった。 公園のベンチで死にかけていた優を助けたのはたまたまお散歩していた世界規模の組を締め上げる組長 一ノ瀬 拓真 猫を飼う感覚で優を飼うことにした拓真だったが、だんだんその感情が恋愛感情に変化していく。 『へ?拓真さん俺でいいの?』

ある王妃の末路

どら焼き
ホラー
要望が多かったホラーの試作品です。怖くないかもしれません。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【完結】契約結婚は閃きの宝庫

つくも茄子
恋愛
アリックス・リードは二十三歳になる子爵令嬢。若い頃、婚約に失敗して行き遅れになった彼女は、王妃付きの女官をしていた。結婚願望ゼロの彼女にとある人物との結婚話が舞い込む。そのお相手とは、社交界きっての貴公子であるオエル・ブリトニー伯爵。両親を早くに亡くし、爵位を若くして継いだ彼は、超有望物件。ただし遊び人として有名だった。だからと言う訳ではないが伯爵は未だに独身。結婚する気配すらなかった。それもそのはず、伯爵本人が結婚する気が全くないのだから。 そんな伯爵との結婚に疑問を感じるアリックス。実はこの結婚は彼女の兄が持ってきたもの。実は、兄と伯爵は学友。色々な思惑アリの結婚話。一見、アリックスには全くメリットのない結婚と思われた。だが、彼女はこの結婚を承諾する。契約結婚として・・・。 何故、彼女は契約結婚を承諾したのか?

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...