見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七六二

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 上には上か。

 そんな事は俺が一番良く判っている。
こんな常人離れした力をもってしても、俺の上には四人も幹部が居るのだ。
おそらく、戦闘に最も興味の無いウロコフネタマイトにさえ俺は勝てない。

 どかっ!

 肩口に衝撃を感じる。
見れば男がナイフを突き立てていた。
またか。

「は、はははは!や、やってやったぜ!ザマアミロ!お前がいけないんだぜ!よそ見しやがってよ!俺をなめるからだ!」

 男が引きつりながら捲したてる。
確かに、やってやったぜ!と言う顔をしているな。
喜び過ぎだろ。

「あ!テメエ!人に助けを求めておいて、何勝手に殺してやがる!それなりの謝礼は寄越してもらうからな!」

 ヒゲ面が吼える。

「へ、へへ。まあ、良いぜ。お前のお陰で仕留められたんだからよ。一杯ぐらい奢ってやるよ」

「ち……っ!ふざけやがって」

 俺を無視して何を勝手に話を進めているのか。
面白いからしばらく見ておこう。

「……」

「……」

「……」

俺が黙って立っているのを、刺した男とヒゲ面が黙って見ている。
なんだ、倒れるのを待っているのか?
倒れないぞ。
何のダメージも無いんだからな。

「……おい」

 男が俺に呼び掛けた。

「……なんだ?」

「!?」

 自分で話し掛けておいて、その驚きようは何だ。

「て、てめ、てめ、てめ、てめ……テメエ!」

 テメエの一言に噛み過ぎだ。

「ちっ、そんな至近で仕留め損なってんじゃねえよ!このヘボが!」

「そ、そんな馬鹿な!貴様!何か着込んでやがるな!?」

 何を勝手な事を。
俺は肩口に刺さったナイフを見てから、ゆっくりとそれを引き抜いた。 
表面は生身だが中身は機械だからな。
当然痛みもダメージも無い。
見ろ。
刃先が機械に当たって欠けている。

 俺は抜いたナイフを一目見てから足下に捨てた。

 カランカラン

「た、助けてくれえ!」

 男が再びわめき出す。
忙しい奴だ。

「結局助けて欲しいのか、欲しくないのか。どっちなんだ!?」

 ヒゲ面が呆れ顔で言う。

「た、助けろよ!謝礼ならやる!」

「どうせエールの一杯だろ?釣り合わねえよ」

「ちゃ、ちゃんと金で払う!銅貨一〇〇枚!いや、銀貨一枚だ!」

「ひゅー。銀貨一枚か。お前にしては思い切りが良いな。良いだろう。助けてやる。後で値切るなよ」

 確かに銀貨一枚とは思い切りが良い。
銅貨一〇〇〇枚と同じだ。
一般市民の二ヶ月分の収入に当たる。

「運良く助かったようだが諦めな。二度も幸運は続かないぜ」

「運が良いのも冒険者には必要な要素だ。お前はどうだ、運を使い果たして廃業したのか」

「うるせえ!俺はまだ現役冒険者だ!」

 ヒゲ面と赤ヒゲ面が二人揃って手を後ろに回す。
武器か。

 ひゅっ!

 ヒゲ面が前に出る。
その横をかすめるように小さな手斧が追い抜いた。

 ぱしっ

 俺は難なく手斧をキャッチする。

「!?」

 走っていたヒゲ面が慌てて急停止する。

 ずざざざざっ

「な!なんだと!?」

「どうした。こんな物が取って置きじゃあるまい」

「く、くくくぅ……!」

 悔しがる顔を見ると、どうやらこれが必殺の戦法だったようだな。
つまらん。

「お前の運はどうかな?」

 俺は手斧を振りかぶった。

「ま!待て……待ってくれぇ!」

 ひゅん!

 俺は無視してヒゲ面に手斧を投げ返した。

 ドカッ!

「くあああ!?」

 ヒゲ面の胸に手斧が刺さる。

「ぐぐぐ……くっ……あれ?」

 胸に何か入れているな。
なんだ。

 ヒゲ面が自分でも不思議そうに懐に手を突っ込む。

「あ!乾し肉!」

 ヒゲ面が嬉しそうに羊皮紙に包んだ塊を取り出した。
俺は思わずズッコケそうになる。
そんなラッキーもあるのか。

「危っぶねえ」

 ヒゲ面が額の汗を拭う。

「運が良かったな。だが、二度も幸運は続かないんだっけ?」

 俺はそう言って足下に捨てたナイフを拾い上げた。
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