見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七五七

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 ビュッ

 ドッ!

 矢は男の目に命中した。

「ああああああっ!痛え!痛ってええ!」

 チビ男が地面を転げ回る。
そりゃ痛いだろうな。
運の悪い奴だ。
死ねたら楽だった物を、どうやら急所は外れたらしい。

 男たちが色めき立つ。
顔つきがさっきまでとは違った。
本気になったか。
だが、本気になってもどうにもならん事はある。

 例えば、あの子供たちの絶望を貴様らは知っているか。
今の貴様らと同じだ。
それをお前たちにも味わってもらおう。

「テメエ……冒険者か?」

「気を付けろ。中々やるぞコイツ」

 男たちが次第に左右に開いていく。
馬鹿め。
自分たちの武器が何か忘れたのか、ニワトリめ。

 一人を多勢で取り囲む。
これは正解だ。
だが、飛び道具で取り囲むのは間違いだ。
互いに誤射する可能性がある。
正解は十字に矢を射掛けるだが、さて。

 左右の展開が甘いな。
開ききっていない。
両者の間隔が狭いのは、さっき言った誤射を恐れてか。
だったら。

 俺は前へと進む。
男たちが慌てて下がるが、それよりも早く前へ出た。

「む!コイツ!?」

 男が口走る。
遅い。
俺は未だに転げ回るチビ男を蹴飛ばして、片方の男にぶつけた。

 どかっ

「くっ!何しやが……」

 問答無用で接近して、貫手を胸元へと突き立てる。

 どっ!

「んぐっ!?」

 俺の右手が貫通して、男の背中から突き出た。

「んがああっ!?」

 男が自分の意思とは関係なく、口から血を噴き出す。
心臓を貫いている。
即死だ。

 ばたっ

 男はそのまま絶命して倒れた。
まず一人。
いや二人か。
更に進んで男たちの間へと割り込む。

「こ、この野郎!?」

 これでもう互いに弓は射る事は難しい。
お互いの向こう正面に仲間が位置する。
しかも距離が近いと来た。
これだけでもう王手だ。

「弓は駄目だ!抜け!」

 誰かが叫んだ。
まあ、誰でも良いさ。
関係ない。

 男たちはすぐさま弓を捨てて、腰から刃物を抜く。
全員ショートソードか。
しかも盾は無い。
軽装だな。
何者かが攻めて来た時の事は想定していないらしい。

 つまり、ずっとこんな環境が続けられてきたと言う事か。
それまでに、いったい何人の子供たちが犠牲になったのだろうか。
おそらく、泣きながらたくさんの子供たちが死んでいった筈だ。
そう思うと、俺の怒りのブレーキはいとも簡単に弾け飛ぶ。

「死にやがれえっ!」

 男が一人、ショートソードをふりあげて躍り掛かる。
その勇気は買ってやる。
だが、許さんがな。
俺はそいつの剣を素手で払いのけた。

「な……!?」

 ドンッ!

 握った拳を振り下ろす。
まるでテーブルでも叩くかの如く、俺は容赦なく男の頭頂部を叩いた。
男は地面に顔面から突っ込む。

 グシャッ!

「……!」

 全員が息を吞んだ。
次々と波状的に襲い掛かってくるつもりだったんだろう?
そんな事は知っている。
だからこそ最初の一人は勇気がいる。
やられ役の可能性も高い。
それでも、その後が続いて獲物を仕留める事が出来るなら、作戦としては意味がある。

 最悪、最初の一撃で死ぬ事を避けられなければ意味は無いが。

 これで三人。
あと二人。
呆気ないな。
男たちは尻込みした。
たった二人では作戦らしい作戦も立てられない。
そしてその程度では俺には勝てない事を悟ってしまった。

「ここへ逃げ帰った奴らが居るだろう。そいつらはどうした。もうチビ男も死んだぞ。早く次のボスを呼んで来いよ」

 俺は全く無表情のまま、鼻で笑った。
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