見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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七五二

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 俺は少年を抱き起こす。

「おい、しっかりしろ。おい!」

 ぐったりしている。
少年と言うにもまだ幼く見える。
まだ十歳にも届いていまい。

 抱き起こした左手に、ヌルリとした物を感じる。

 血だ。
体を返して背中を見た。
大きな切り傷がある。
それだけではない。
矢が……矢が折れ刺さっている。
こんな小さな子供に矢を射かけるだと。
どこの外道がそんな真似をするのだ。

 ここで下手には抜けない。
ただでも消耗が激しいのに、死んでしまう。
何をしでかして逃げているかは判らないが、このままには出来ん。

「か……神さま……みんなを……助けて」

 うわごとか。
こんな子供が神に祈る。
だが、神は人間の願いなど聞き届けてはくれない。
神は人間など愛していないのだ。

 ザザザッ

 人の気配が目の前に到着した。
明かりが俺と少年を照らした。

「なんだ!?なぜ人が居る!」

「だが、ガキも居るぜ」

「けどよ、死にかけてるじゃねえか。もう連れて帰る意味無えよ。だから撃つなって言ったんだ!」

「そう言うな、代わりに丈夫そうな兄ちゃんが手に入りそうだぜ」

 男たちはそう言って笑った。
何が可笑しい。
何が面白い。

 俺はちっとも面白くないぞ。

 俺は少年をゆっくりと横向きに寝かせた。
あまり動かさない方が良いだろう。

「お前たちが撃ったのか?」

 俺は尋ねた。

「ああん?そのガキか?だったらどうだと言うんだ」

「そうか。お前らか」

「なんだ。やろうってのか。お前一人で何が出来るんだよ!」

 そう言って、げひゃひゃひゃひゃ、と下卑た笑い声を上げた。
悪党しかしない笑い方だな。

「そんな事はどうでも良いだろうが。それよりガキをとっとと渡せ。ついでにお前も逃がさないぜ」

 ふん。
俺は鼻で笑った。

「お、こいつ、自信ありますって感じだな」

「まあ、まあ。時々居るんだよ。別に珍しくはねえ。そしてそのあと這いつくばって詫び入れるんだ。それも珍しくねえ」

 うひゃひゃひゃひゃ。

「子供にここまでする必要があるか?大人が数人掛かりで子供を斬りつけて矢で射る?モンスターでもここまではしない」

「るせえ!大事な労働力なんだよ!ガキと言えども逃がしはしない。一人死んだらまたさらって来ねえといけないだろうが!」

「おっと、お前さんも仲間入りするんだぜ?もう帰れねえからな。おうちの人に、ちゃんと出掛けに挨拶してきたか?」

 労働力?
奴隷商か何かか?
いや、奴隷商が労働力とは言わない。
せいぜい商品と呼ぶ筈だ。
どう言う事だ。
働かせていると言うのか。

「さあ、無駄話はこのぐらいにしよう。そのガキをよこしな」

 男が一歩前に出た。
装備を見る限り、冒険者と盗賊の間くらいだな。
冒険者崩れの盗賊団とか、そんな感じか。

「……なぜ緑の谷に人が居る?」

 俺は男に尋ねた。

「なに?」

「人間を受け入れぬが緑の谷。なぜ貴様らはここに居る。人間如きが軽々しく足を踏み入れて良いとでも思っているのか」

「コイツ。何を言ってやがる。貴様だって一人で……」

 そこまで言って男はハッとした。

「お前……ホントに、人間なのか……?」

 俺は静かに男に歩み寄った。
男が二歩、三歩と後ずさる。

「お、俺たちは泣く子も黙る『フェンリル団』だ!モンスターよりも恐ろしいと言われているのよ」

「ほう。お前たちが?モンスターよりも恐ろしいだと?どれ、本当にフェンリルを名乗れるか見てみよう」

 俺はそう言って静かに拳を突き出した。
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