見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
752 / 826

七五一

しおりを挟む
 軽く駆け足で表に出ると、俺はボードを呼び出した。
ヒラリと足下に滑り込んでくるボードに、俺は自然に飛び乗った。
全く止まる事無く、ボードはそのまま空へと滑り出す。

 ぐんぐんと高度を上げて視界の端に映し出された光の点へと向かう。

 そこまで遠くは無い。
と言っても、緑の谷は人の進入を拒絶する。
そう簡単に先へ進めるような場所では無い筈だ。
それでも光点は先へ先へと進んでいた。

 小さな光点はあまり速くないが、止まる事無く真っ直ぐにこちらへと向かっている。
追っ手とみられる光点は、それなりに速さはあるが時折ウロウロと時間をロスしている。

 これは追っ手が獲物を見失っているな。
それでも正確に追跡出来ているのは、中にレンジャーの類が居るのだろう。
しかも中々優秀だ。

 俺は高度を落として下を凝視する。
暗闇の中でも俺の目は利く。
離れた所に光が見える。
あれが追っ手か。

 ならば逃げているとすれば、この辺りに居そうだな。
俺は耳も澄まして対象を探した。

 はっ
はっ
はっ
はっ

 息遣いが聞こえる。
居るな。
俺はボードから飛び降りた。

 ざんっ

 森の中へと舞い降りる。

「!?」

 今走ってきたばかりの呼吸が、驚いて息を吞むのが聞こえた。

「誰だ。お前」

 俺はその人物の顔を見た。

 子供?
俺は小柄な逃走者に面食らった。
子供がこんな時間に緑の谷を走るなど、ちょっと考えられない。
しかも追われているだと。

 遠くを見ると光源が近付いて来るのが見える。
どうも冒険者のようには見えない。
だとすれば夜盗か盗賊か。

 こんな状況で逃げる子供を追い掛けるのは中々難しいだろう。
小さくてすばしっこくて、考え無しにどんどん森に入っていく子供は、大人が追うには骨が折れる。

 ここまで逃げてきた事には感心するが、良くもこんな深くまで来れたものだ。
もっと早い段階で死んでいても、何の不思議も無い。
何と言ってもここは緑の谷だ。
この少年は、ただただ幸運だったとしか言いようが無い。

「おいお前。何をしでかしたんだ?」

 俺は半ば呆れながら少年に尋ねた。

「……!」

 それには答えず、少年は再び走り出す。
おっと、そうは行かない。
方向を転換した少年の前に俺は回り込んだ。

「!?」

「こんな所でお前なんか一日も保たんぞ。送ってやるから帰れ」

「……!」

 無言のまま少年は再び方向を転換する。
やれやれ。

 ザザザッ

 再び回り込んで行く手を塞ぐ。

 しかし。
長い年月閉ざされて来たこの谷に、こうも人が進入している事に俺は違和感を覚える。
偶然とは言え、ここまで大人数が進入して来れるものなのか。

「……けて」

 なに?

「助けて……神さま」

 どさっ

 そう呟いたきり、少年は力尽きて倒れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...