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七四七
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俺は屋敷へと歩み寄る。
がちゃ
取っ手を引くと、扉はゆっくりと開いた。
開きっぱなしだったのか、不用心だな。
俺はおずおずと中へ足を踏み入れる。
そんなに昔と言う訳でも無いのに、とても懐かしい気分になる。
俺は広間に足を運んだ。
きぃ……
当たり前だがここにも誰も居ない。
来て早々何だが、やる事が無い。
特に命令もされていない。
『行け』と言われたから来ただけなのだ。
いったいここで何をしろと言うのか。
俺はオオムカデンダルがいつも座っていた場所へ腰掛けた。
居ないのだから別に構わんだろう。
彼よろしく、くるくると椅子を回してみる。
さて、これからどうしたものか。
「管理人。済まないが何か飲み物をくれないか。冷たい物が良い」
俺は管理人に声を掛けた。
昔は飲み物と言えば水か果実酒かミルクと決まっていたが、ネオジョルトのせいで舌が贅沢になっていた。
飲み物が冷たいだなどと言うのは、ネオジョルトでしか通用しない。
普通は温かいか常温だ。
冷たいのに慣れると生ぬるい牛乳など、とても飲めた物では無い。
「おーい、管理人」
俺はもう一度呼び掛けた。
返事がない。
管理人はミスリル銀山と繫がっているんじゃ無かったのか。
両方兼任だったと思うが。
「おーい、管理人。聞こえないのかい?」
俺は不思議に思ってもう一度声を掛けた。
きぃ……
ドアが開く音がした。
振り返るとそこには飲み物を手にした女が立っている。
誰だ。
俺は少し身構えた。
女はそのまま、静々と歩いてくる。
かたっ
テーブルの上にゆっくりと飲み物を置いた。
よく冷えたフルーツジュースだ。
中々値の張る高級な嗜好品だが、俺の好物でもある。
よく知っていたな、さすがは管理人だ。
だが、管理人に好物の話をした事は無かったと思うが。
いや、その前にこの女は誰だ。
まさか、部外者が出入りしている訳ではあるまい。
知らない奴が飲み物を出してくれるのも変な話だ。
「君は誰だ」
俺は尋ねた瞬間、思い出した。
ナイーダだ。
確か緑の谷で親元を離れて暮らしていると聞いていた。
勉強しながら蜻蛉洲の手伝いもしていると言っていたが、そうか。
だが、それにしては雰囲気が違い過ぎる。
何と言うか、急に大人になった印象だ。
こんなに変わる物なのか。
女性というのは判らないな。
俺は思わず立ち上がっていたのを、再び座り直した。
それにしても一言もしゃべらないな。
機嫌でも悪いのだろうか。
俺は手を伸ばして飲み物を一口飲んだ。
旨い。
ネオジョルトが作る物は何だって旨い。
フルーツジュースであっても、それは変わらない。
冷たい。
とても、良く冷えたフルーツジュースだ。
「旨いな」
俺は思わず言葉を漏らした。
無意識に口に出てしまうほど旨かった。
「良かった。口にあって」
女が言った。
ナイーダじゃない。
俺はギクッとして女の顔を見た。
よく見れば素顔では無い。
良く出来た仮面のような物をかぶっている。
いや、マジで誰なんだ!?
俺は内心飛び上がるほどに驚いた。
態度に出なかったのはたまたまだ。
俺だって大抵の事には驚かない。
だが、絶対に敵など居ない筈の場所で、正体不明の人間に出会ったら、誰でもこのくらいは驚く筈だ。
女が小首をかしげた。
俺の顔を見ているのか。
「君は……」
俺は小さく尋ねた。
くすくす……
女が小さく笑った。
がちゃ
取っ手を引くと、扉はゆっくりと開いた。
開きっぱなしだったのか、不用心だな。
俺はおずおずと中へ足を踏み入れる。
そんなに昔と言う訳でも無いのに、とても懐かしい気分になる。
俺は広間に足を運んだ。
きぃ……
当たり前だがここにも誰も居ない。
来て早々何だが、やる事が無い。
特に命令もされていない。
『行け』と言われたから来ただけなのだ。
いったいここで何をしろと言うのか。
俺はオオムカデンダルがいつも座っていた場所へ腰掛けた。
居ないのだから別に構わんだろう。
彼よろしく、くるくると椅子を回してみる。
さて、これからどうしたものか。
「管理人。済まないが何か飲み物をくれないか。冷たい物が良い」
俺は管理人に声を掛けた。
昔は飲み物と言えば水か果実酒かミルクと決まっていたが、ネオジョルトのせいで舌が贅沢になっていた。
飲み物が冷たいだなどと言うのは、ネオジョルトでしか通用しない。
普通は温かいか常温だ。
冷たいのに慣れると生ぬるい牛乳など、とても飲めた物では無い。
「おーい、管理人」
俺はもう一度呼び掛けた。
返事がない。
管理人はミスリル銀山と繫がっているんじゃ無かったのか。
両方兼任だったと思うが。
「おーい、管理人。聞こえないのかい?」
俺は不思議に思ってもう一度声を掛けた。
きぃ……
ドアが開く音がした。
振り返るとそこには飲み物を手にした女が立っている。
誰だ。
俺は少し身構えた。
女はそのまま、静々と歩いてくる。
かたっ
テーブルの上にゆっくりと飲み物を置いた。
よく冷えたフルーツジュースだ。
中々値の張る高級な嗜好品だが、俺の好物でもある。
よく知っていたな、さすがは管理人だ。
だが、管理人に好物の話をした事は無かったと思うが。
いや、その前にこの女は誰だ。
まさか、部外者が出入りしている訳ではあるまい。
知らない奴が飲み物を出してくれるのも変な話だ。
「君は誰だ」
俺は尋ねた瞬間、思い出した。
ナイーダだ。
確か緑の谷で親元を離れて暮らしていると聞いていた。
勉強しながら蜻蛉洲の手伝いもしていると言っていたが、そうか。
だが、それにしては雰囲気が違い過ぎる。
何と言うか、急に大人になった印象だ。
こんなに変わる物なのか。
女性というのは判らないな。
俺は思わず立ち上がっていたのを、再び座り直した。
それにしても一言もしゃべらないな。
機嫌でも悪いのだろうか。
俺は手を伸ばして飲み物を一口飲んだ。
旨い。
ネオジョルトが作る物は何だって旨い。
フルーツジュースであっても、それは変わらない。
冷たい。
とても、良く冷えたフルーツジュースだ。
「旨いな」
俺は思わず言葉を漏らした。
無意識に口に出てしまうほど旨かった。
「良かった。口にあって」
女が言った。
ナイーダじゃない。
俺はギクッとして女の顔を見た。
よく見れば素顔では無い。
良く出来た仮面のような物をかぶっている。
いや、マジで誰なんだ!?
俺は内心飛び上がるほどに驚いた。
態度に出なかったのはたまたまだ。
俺だって大抵の事には驚かない。
だが、絶対に敵など居ない筈の場所で、正体不明の人間に出会ったら、誰でもこのくらいは驚く筈だ。
女が小首をかしげた。
俺の顔を見ているのか。
「君は……」
俺は小さく尋ねた。
くすくす……
女が小さく笑った。
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