見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
744 / 826

七四三

しおりを挟む
「くっ……知った風な事を。貴様らなど井の中の蛙だと言う事を思い知れ!」

「思い知ってるよ。だから人間は試行錯誤を繰り返す。神様にはそう言う経験は無いんだろうねえ」

 オオムカデンダルがヴァルキリーに向かってそう言った。
そんな事、考えた事も無い。
神が失敗を重ねて試行錯誤をするなんて、想像もしない。

 神は生まれながらにして完全で完璧な存在な筈。
故に正しいのだ。
試行錯誤などする余地は初めから無い。
生まれながらにして。

 生まれながらにして?

 神も生まれた時があるのか。
どうやって生まれたんだ。
誰かが神を産んだのだとすれば、その者こそが神なんじゃないのか。

 考えれば考えるほど混乱する。
いったいどう言う事なのだ。
そもそも神とはどんな存在なのか。

「……貴様如きが、神の何を知っていると言うのか」

「いーや、全然知らんね。想像はするが、別に興味無い」

 オオムカデンダルはバッサリと斬り捨てた。

「神に対して興味が無いだと。やはり貴様らは悪魔の類、このままにはしておけん」

「はっはっはっはっ。だってお前には何も出来ないじゃん。捕まってるし。それにな、悪魔だったら神には興味持ってるだろ。あんなに敵視してるんだから」

 オオムカデンダルの言葉に俺は納得した。
確かにそうだ。
つまり、オオムカデンダルは悪魔なんかと一緒にするなと言っているのだ。
彼らからすれば、神も悪魔も同じくらいの扱いだ。
邪魔するならば排除する対象である。
そう言われている事に、ヴァルキリーは気付いているのか。
俺は少し噴き出した。

 ヴァルキリーが俺を一瞥する。
いかん。
俺は顔を逸らして知らん顔をした。
本当は笑い事では無い。
オオムカデンダルの言っている事は不敬過ぎて、教会関係者にでも聞かれようものならその全てを敵に回してしまう。

 それでも笑ってしまうのは、俺がもう神を信用していないという事なのか。
神よりもネオジョルトの方に、オオムカデンダルの言う事に、より深く納得しているからなのかもしれない。

「私をどうしようと言うのか」

 ヴァルキリーがあくまで反抗的に言った。

「さてねぇ。どうしたもんかね」

 オオムカデンダルは無責任にも首を捻った。
殺さないだろうとは思ったが、やはり殺さないのか。
まさか、この期に及んで仲間にするなんて言わないだろうと思うが。

「困るんだよなあ、こう言う中途半端なの」

「な、ちゅ……中途半端だと!?」

 言われてヴァルキリーが憤慨した。
そりゃそうだろう。
相手は女神だぞ。

「要らないんだよなあ。かと言って殺す意味も無いしよ。どうする蜻蛉洲?」

 オオムカデンダルがオニヤンマイザーに意見を求めた。

「どうするって……必要無いならとっとと処分しろ。邪魔だ」

「やっぱ殺すのか。そうだよなあ、どう考えても使い道無いもんなあ」

 オオムカデンダルがため息を吐いた。
殺す意味が無いと、殺す事さえ面倒なのか。
この男の気分は未だに読めない。

「……じゃあ、レオ君。やっといてくれる?」

 突然お鉢が回ってきた。
俺か?
俺が女神を殺すのか?

 女神殺し。
そんな名前が脳裏に浮かぶ。
今更正義の味方面するつもりも無いが、かと言って女神を殺すのにはやはり抵抗がある。
俺はこの世界の人間だ。
価値観がオオムカデンダルたちとは違い過ぎる。
殺すのは仕方が無いとしても、せめてそっちでやってくれよ。

 俺は内心慌てていた。
ヴァルキリーの顔をチラリと見た。
目が合う。

「わ、私を殺す気か!」

 ヴァルキリーが狼狽えた。
いや、ただ見ただけだ。
そんなに動揺されると、余計にやりづらい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

穢れた救世主は復讐する

大沢 雅紀
ファンタジー
吾平正志はクラスメイトたちから虐められ、家族からも無視されていた。追い詰められた彼は自殺を計るが、死の寸前に現れた大魔王サタンと契約を結び、新人類となる。復活した正志は仲間を増やし、家族、学校、そして社会全体を破壊していく。すべては人類の救済のために

余命宣告を受けた僕が、異世界の記憶を持つ人達に救われるまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
剣と魔法の世界にて。余命宣告を受けたリインは、幼馴染に突き放され、仲間には裏切られて自暴自棄になりかけていたが、心優しい老婆と不思議な男に出会い、自らの余命と向き合う。リインの幼馴染はリインの病を治すために、己の全てを駆使して異世界の記憶を持つものたちを集めていた。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

組長様のお嫁さん

ヨモギ丸
BL
いい所出身の外に憧れを抱くオメガのお坊ちゃん 雨宮 優 は家出をする。 持ち物に強めの薬を持っていたのだが、うっかりバックごと全ロスしてしまった。 公園のベンチで死にかけていた優を助けたのはたまたまお散歩していた世界規模の組を締め上げる組長 一ノ瀬 拓真 猫を飼う感覚で優を飼うことにした拓真だったが、だんだんその感情が恋愛感情に変化していく。 『へ?拓真さん俺でいいの?』

ある王妃の末路

どら焼き
ホラー
要望が多かったホラーの試作品です。怖くないかもしれません。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【完結】契約結婚は閃きの宝庫

つくも茄子
恋愛
アリックス・リードは二十三歳になる子爵令嬢。若い頃、婚約に失敗して行き遅れになった彼女は、王妃付きの女官をしていた。結婚願望ゼロの彼女にとある人物との結婚話が舞い込む。そのお相手とは、社交界きっての貴公子であるオエル・ブリトニー伯爵。両親を早くに亡くし、爵位を若くして継いだ彼は、超有望物件。ただし遊び人として有名だった。だからと言う訳ではないが伯爵は未だに独身。結婚する気配すらなかった。それもそのはず、伯爵本人が結婚する気が全くないのだから。 そんな伯爵との結婚に疑問を感じるアリックス。実はこの結婚は彼女の兄が持ってきたもの。実は、兄と伯爵は学友。色々な思惑アリの結婚話。一見、アリックスには全くメリットのない結婚と思われた。だが、彼女はこの結婚を承諾する。契約結婚として・・・。 何故、彼女は契約結婚を承諾したのか?

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...