見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六九九

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 勝手に他国の中に領地を作っておいて、その言い方は無いだろう。

「な、き……貴様……!」

「じゃあ聞くが将軍。アンタは西の繁華街が帝国にとってどんな役目を果たしているか知っているか?」

「なに?」

「西の繁華街は貧民街とセットだ。スリ、窃盗団、地下組織、ギャング何でもござれの暗黒街だ。そいつらがしのぎを削っていた町が、帝国にとってどれ程の価値があるのか。どの程度重要な位置にあるのか。アンタは説明できるかい?」

「む……」

 ライエルは言葉を呑み込んだ。

「繁華街なら帝国内に幾つかあるが、その中で西の繁華街は中間層よりもやや下に位置する人々の繁華街だ。身も蓋も無い言い方をすれば下品な街だ。犯罪組織の温床になっているこの街が、本当に帝国にとって必要か?俺はそうは思わんね。実際、帝国は富裕層重視、富裕層優遇の政策しか執っていない。経済的に見て、東や中央の繁華街の方が帝国にとっては大事だろ?富裕層様の憩いの街だからな」

 確かにそうだ。
西の繁華街は帝国の中でもうらぶれた街だ。
たいして目にも掛けてもらえず、都落ちした人たちも少なくない。
言ってみれば、追いやられた貧しい者たちの街だ。

 そのくせ圧政の対象になっており、帝国内の様々な鬱憤を晴らす為にスケープゴートにされている節もある。

「要らんだろ?西の繁華街など帝国にとってはただのゴミ溜めだ」

 ライエルは言葉を返せない。
全て事実だからだ。
帝国にとって西の繁華街などあっても無くてもどっちでも良い。
存在するが使い道が無いから、帝国国民の憂さ晴らしにいたぶられているだけの存在だ。

「だったら俺たちに売った方が良かろう?しかも言い値で買うんだ。ゴミを言い値で売れるんだぜ?精々吹っ掛ければ良い。それでも買おうじゃないか」

 本気か。
力で奪う事も容易いのに、それをしかも言い値で買うだなどと。
いや、金で済むならその方が安いと考えているのだ。
オオムカデンダルとはそう言う男だ。
金の価値は彼にとってたいした事では無い。

 もっと価値の在る物を、むしろ安く買っている。
そう言う感覚なのだ。

「……言い値とな。本気かの?後悔するかもしれぬぞ?」

「しないね。遠慮するな。どーんと吹っ掛けてみろ」

 蚊帳の外とは言え、そばで聞いててドキドキしてきた。
顔を見るに、ライエル将軍も同じ様子だ。

「……なるほどのう」

 ソル皇子が微笑みながら目を閉じた。
何かしら考えを巡らせているようだ。

「そうじゃの。では……金貨十万枚でなら売ってやっても良いぞ」

 ソル皇子が涼しげな顔で言った。
ライエル将軍が思わず噴き出す。

「はっはっはっはっはっ!なるほど、それは良い考えでございますな!はっはっはっはっはっ!」

 金貨十万枚だと。
帝国に流通する全ての金貨をかき集めても、十万枚枚は無い。
帝国の国家財政を軽く上回る金額だ。
吹っ掛けろとは言ったが限度があるだろう。
まさか、ソル皇子もさすがに領地を売りたくは無いのか。

 そりゃあ、そうかもしれないが。
俺は呆然とソル皇子とオオムカデンダルの顔を見比べた。

「なるほど。良い線行ってるな」

 オオムカデンダルも涼しげな顔で答えた。
良い線行っている?

「壱千億円か。ま、妥当な所だな。俺たちによって、今後もっと価値は上がっていくが、現状はそんなもんだろう」

 壱千億エン?
良く判らんがオオムカデンダルは想定内の金額提示と見たのか。
もう俺には訳が判らなかった。

「じゃあ決まりだな」

「待て、こちらも要求がある」

 ソル皇子が笑みを絶やさず続ける。

「なんだ?」

 オオムカデンダルが首をかしげる。

「全てジョルターでの支払いにしてたもれ」

 俺は更に驚いた。
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