見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六七二

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「さあ、掛かって来なさい」

 そりゃ、俺のセリフだろ。
俺から掛かって行ったらそれで終わってしまうんだぞ。
判ってるのか。

 いや、判ってないな。
判っていたらこんな茶番は必要ない。
この女は俺たちの事は知っているが、どんな物かは知らないのだ。
まったく、何しに来たんだ。

「……じゃあ、遠慮無く」

 俺はそう言うと、素早く踏み込んで平手打ちを繰り出した。

 ぱあんっ!

 乾いた音が響き渡る。
これでもずいぶん優しく打ったんだが。

 どさっ

 女は軽く吹っ飛んで地面に倒れた。
やれやれ。

「く……っ!」

「どうした。終わりか?」

「ま、まだまだ!」

 女は立ち上がると正面に剣を構えた。

「やああーっ!」

 気合いと共に剣を突き出す。

 ガキィッ!

 その切っ先は、俺の胸で受け止められた。

「な、馬鹿なっ!?」

「通らんな」

 ぱあんっ!

 俺は再び彼女の頬を打った。

 どさっ

 女はさっきと同じく地面に倒れ込む。

「降参か?」

「……まだよ!」

 やはり、根性はあるな。
それだけだが。

「はああっ!」

 今度は二度突きを放ってから、脇腹目掛けて切り払ってくる。

 ガキィッ!

 だが、やはり俺の装甲を傷付ける事は出来なかった。
防御の必要さえない。
端っから勝負になっていない。
ホンの少もダメージを与えられないなら、戦う意味さえ無い。

「無駄だ。お前では一ミリも俺に痛みを感じさせる事など出来ん」

 傷も付けられないのだから仕方がない。

「これほどとは……!」

 どう言う情報を元に来たんだコイツら。
相手の事もロクに知らないのに、気軽に攻めて来やがって。

「……もう良い。変われ」

 なに?
女が突然そう言った。
声音も変わっている。

「いや、まだ……」

「無理だ。お前に敵う相手では無い」

 一人で会話しているのか。
おかしくなったか。

「……判った。任せます」

 女がそう言ったかと思うと、突如雰囲気が一変した。
顔を上げると、その表情は凛とした物になっていた。
良く判らんが、訳ありか。

「行くぞ」

「ああ」

 俺が返事をすると、今までとは別人の動きで女が襲い掛かる。

「!?」

 あまりの変化に俺は一瞬面食らった。

 ひゅばっ!

 目の前を剣の先が通り過ぎる。
俺は間一髪、紙一重でこれをかわした。
今の攻撃は危険だ。
同じ剣だが、明らかに威力が違う。
まともに食らっては、無傷と言う訳にはいくまい。

「今のをかわすか……」

「……誰だお前」

 お互いに相手の問いには答えない。
頭の中はそれどころでは無かった。
相手の正体は後回しだ。
さて、どうするか。

 とにかく叩きのめしてから聞けば良い。
今は戦闘が優先だ。
幸い、勝てないような相手では無い。
かなりの腕だが、強化された今の俺の敵では無い。
以前なら互角か、相手の方が有利だったろう。

「サフィリナックスブレード」

 俺は右手を剣に変えた。
相手の様子を観る必要も無い。
戦闘を引き伸ばす意味も無い。
一撃で決める。

「その腕は……」

 女が気付いた。
警戒されているな。
しかし、警戒しても防ぐ事は出来ん。

 ざっ!

 俺は滑るように飛び出すと、そのまま女を通り抜けた。

 ひゅあ……

 風が遅れて巻き起こる。
女の髪が風に揺れた。
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