見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六六五

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 ヒポグリフ。
昼間は黒い馬の姿をしている。
だが、ただの馬でない事は一目見れば判る。

 燃えるような目、炎の息、鋭い牙。
そして背中の翼。

 一方、夜は変身してグリフォンの姿になる。
ただし、ライオンの後ろ足は馬の足に、頭は蛇に置き換わる。
全身は鱗で覆われ、とてつもない速さで空を駆け抜け、鋭い鉤爪で敵を引き裂く。

 ヒポとは『馬』を指す。
つまり馬のグリフォン。
ピポグリフとはそう言う名前なのだ。

「ひ、ヒポグリフ……!」

 兵士たちは完全に腰が引けている。
まずいぞ。

「ブルルルアアッッ!ヒヒヒーンッ!」

 いなないて、ヒポグリフが再び突進してくる。

「キシャアアアア!」

 ジャバウォックが標的をヒポグリフに切り替えた。
人間などよりも危険と認知したか。
餌は後回しと言う訳だ。

 どごおっ! 

 ヒポグリフが頭からジャバウォックに突っ込む。
しかし、今度はジャバウォックも堪えた。
来ると判っていれば踏ん張れもする。

「ルロロロロロロ……!」

 ジャバウォックが呪文らしき物を唱える。

「なんだ!?」

 辺りが薄暗くなったかと思うと、暗雲が一気に拡がる。

 ゴロゴロゴロゴロ…… 

 遠くで雷鳴が聞こえたかと思った瞬間。

 ピシャアーンッ! 
ドゴロゴロガラララロローッ……! 

 空気をつん裂き、落雷が降り注ぐ。
同時に豪雨が横殴りの風と共に巻き起こった。

「嵐だと!?」

「ヒヒヒヒーンッ!」

 ヒポグリフが落ち続ける落雷の合間を縫って空を走る。
何と言う光景だ。
この世の終わりか。
俺はジャバウォックに振り回されながら、二体のモンスターの間を揺れ動く。

「くそ……せめて地上なら……!」

 俺は地に足が着かない状態で翻弄されるしか無かった。
何とかしてジャバウォックに近付かないと。
話はそれからだ。

 このままでは何も出来ない。
俺は必死に触手を引き戻す。

 ずる……

「!」

 触手がジャバウォックから外れそうになる。
雨のせいで滑っているのだ。
ただでさえ鱗に覆われたジャバウォックの表面は滑りやすい。

 どかっ!

 ヒポグリフがすれ違い様にジャバウォックの頭を踏みつけて蹴飛ばす。

 ずる!

「うおあ!?」

 完全に触手がジャバウォックから離れた。
俺は真っ逆さまに、数十メートル落下する。

 どさっ!

 大雨でぬかるんだ地面に叩き落とされて、俺の体は弾む事なく地面に突っ伏した。

「うう……」

 俺はすぐに空を見た。
もはや手出しも出来ない。
あんなモンスター同士の争いに、いったいどうせよと言うのか。

「アンタたちも今のうちに……」

 俺は振り向いて兵士たちに逃げるように促した。

「キシャアアアア!」

 振り向くと、空からジャバウォックがこちらを見ていた。
不味いぞ。

「キシャアアアア!キシャアアアア!」

 餌が逃げると思ったのか、ジャバウォックはヒポグリフを無視してこちらに突っ込んで来る。

「ブルルルアアッッ!」

 それを逃がすまいと、ヒポグリフも後ろを追って来た。

「ひいいいっ!!」

 兵士たちは慌てて退却しようとするも、雨に脚を取られて馬が上手く転進出来ない。

「……ちっ!」

 俺はとっさに間に入ると、ジャバウォックを正面から迎え撃つ。
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