見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
652 / 826

六五二

しおりを挟む
 長く続くと思われた時間だったが、意外と会話があった為、思いの外早く過ぎた。

「待たせたな諸君」

 不意にオオムカデンダルが戻ってきた。
早いな。

「もう終わったのか」

 俺はオオムカデンダルに尋ねた。

「ああ」

「で、アキラは?アキラはどうなった」

 ガイがオオムカデンダルに詰め寄る。

「成功したに決まっているだろう。まだ眠っているが……そうだな、一週間は安静だな」

「一週間も……」

「馬鹿たれ。普通は半月は安静だし、普通の生活に戻れるまで半年くらいだ。それでも以前の水準まで戻らない事だってある。それを完璧な状態まで回復させるのに一週間だ。目茶苦茶早いんだぞ」

 珍しくオオムカデンダルが結果を誇った。
まあ、この世界では凄すぎて誰も正確に評価を下せないんだから仕方が無い。
自分で言わないと伝わらないんだから、さぞやもどかしい事だろう。

「そうなのか……」

 ガイは少し冷静さを取り戻した。
科学が何なのか、俺でさえ今一つピンと来ていない。
ましてやガイたちにとっては尚更だ。
何か凄い魔法のような物で、すぐに回復すると思っていたのかもしれない。

 それを差し引いても、死んだ人間に悪魔の心臓を埋め込んで、神の呪縛を避けながら生き返らせるなど、そんな訳の判らない事はオオムカデンダルにしか出来ないであろう事は理解できる。

「それまで好きに過ごせば良い。ここに居ても良いし、西の繁華街に居るのも良いだろう」

「俺たちをアジトで過ごさせて良いのか?」

 ガイが意味ありげに言った。
挑発のつもりか。

「別に構わん。ここには誰も来れないし、出ていく事も不可能だからな。お前ら全員が暴れても制圧するのに五分も掛からん」

 オオムカデンダルは事も無げにそう言うと、運ばれてきたフルーツに手を伸ばす。

「ケーキも良いが俺は果物の方が好きだな。だが、この世界の果物は今一つだ。今度は果樹園でも作るか」

 オオムカデンダルはそう言って、綺麗に剥かれたオレンジを口に放り込んだ。
そんなに不味くも無いと思うがな。

「いいや、俺たちが食べてた物と比べると五段階以上劣るな。ま、品種改良なんてされていないから仕方が無いが」

 また訳の判らない事を。

「ふふ。俺たちが食べていた果物を食ったら腰を抜かすぞ」

 まさか。
たかがオレンジが旨いからと言って大袈裟な。
オレンジはオレンジだろう。

「ま、食った事の無いものを評価する事は出来んから仕方が無いな。お前たちは可哀想だな」

 何を果物一つで偉そうに。

「食は文化だぞ。不味いものを食って栄えた文明など無い。俺たちの国民には是非とも旨いものを食わせよう」

 オオムカデンダルはそう言ってまた一つオレンジを頬張った。

「……俺たちは街で過ごさせてもらう。噂の西の繁華街がどんな物か、見させてもらうとしよう」

「ああ、良いとも。一週間経ったら迎えをやる」

 その迎えは俺なんだろうな。

「レオ。送ってってやれ」

 迎えどころか見送りも俺だったか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

穢れた救世主は復讐する

大沢 雅紀
ファンタジー
吾平正志はクラスメイトたちから虐められ、家族からも無視されていた。追い詰められた彼は自殺を計るが、死の寸前に現れた大魔王サタンと契約を結び、新人類となる。復活した正志は仲間を増やし、家族、学校、そして社会全体を破壊していく。すべては人類の救済のために

余命宣告を受けた僕が、異世界の記憶を持つ人達に救われるまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
剣と魔法の世界にて。余命宣告を受けたリインは、幼馴染に突き放され、仲間には裏切られて自暴自棄になりかけていたが、心優しい老婆と不思議な男に出会い、自らの余命と向き合う。リインの幼馴染はリインの病を治すために、己の全てを駆使して異世界の記憶を持つものたちを集めていた。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

組長様のお嫁さん

ヨモギ丸
BL
いい所出身の外に憧れを抱くオメガのお坊ちゃん 雨宮 優 は家出をする。 持ち物に強めの薬を持っていたのだが、うっかりバックごと全ロスしてしまった。 公園のベンチで死にかけていた優を助けたのはたまたまお散歩していた世界規模の組を締め上げる組長 一ノ瀬 拓真 猫を飼う感覚で優を飼うことにした拓真だったが、だんだんその感情が恋愛感情に変化していく。 『へ?拓真さん俺でいいの?』

ある王妃の末路

どら焼き
ホラー
要望が多かったホラーの試作品です。怖くないかもしれません。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

【完結】契約結婚は閃きの宝庫

つくも茄子
恋愛
アリックス・リードは二十三歳になる子爵令嬢。若い頃、婚約に失敗して行き遅れになった彼女は、王妃付きの女官をしていた。結婚願望ゼロの彼女にとある人物との結婚話が舞い込む。そのお相手とは、社交界きっての貴公子であるオエル・ブリトニー伯爵。両親を早くに亡くし、爵位を若くして継いだ彼は、超有望物件。ただし遊び人として有名だった。だからと言う訳ではないが伯爵は未だに独身。結婚する気配すらなかった。それもそのはず、伯爵本人が結婚する気が全くないのだから。 そんな伯爵との結婚に疑問を感じるアリックス。実はこの結婚は彼女の兄が持ってきたもの。実は、兄と伯爵は学友。色々な思惑アリの結婚話。一見、アリックスには全くメリットのない結婚と思われた。だが、彼女はこの結婚を承諾する。契約結婚として・・・。 何故、彼女は契約結婚を承諾したのか?

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

処理中です...