見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
629 / 826

六二九

しおりを挟む
「怯むな。どんどん行け」

 オオムカデンダルが言う。
俺は警戒しながら躊躇無く前へと進んだ。
廊下の左右には部屋があり、その全ての部屋から気配がする。

「そこかしこに何か居るぞ」

 カルタスが部屋の扉を見ながら言った。

「放っておけ。どうせ雑魚だ」

 俺は構わず進む。

「無視して良いの?」

 ルガが不安そうに言う。

「無視して良い」

 俺は振り向きもせずにそう言って、どんどんと歩いた。
コイツらそんなバトルスーツを身に付けていながら、怖いのか?

「だってマンモンだよ?悪魔だよ?悪魔って殴れるのかな……」

 ルガが声を震わせながら言った。
どうやら本当に怖いらしい。

「いきなり呪われたりしたらどうしよう……」

 もはや半ベソになっている。
よくそれでオオムカデンダルに挑んだもんだ。

「殴れるヤツは怖くないもん」

 お前たちは誤解している。
俺は悪魔や幽霊なんかよりも、オオムカデンダルの方が怖いんだが。

「開けてぇぇ……」

「ここを開けてぇぇ……」

「誰かあぁぁ……」

 扉の向こうから様々な声がする。
怖がらせているのか、誘っているのか。
どちらにせよ構う意味は無い。
俺は無視して先へと進む。

 やがて廊下の突き当たりに来た。
足元にはさっき蹴飛ばした頭が転がっている。

「痛ぇ……痛いぃ……」

 まだしゃべれるのか。
俺は一瞥すると、その頭を踏み潰した。

 ぐしゃっ!

「ひぃ!」

 ルガがディーレにしがみつく。

「……なかなかエグいな」

 ガイが言った。

「こんなものはまやかしだ。たいした攻撃力も持っていない。いちいちビビるな」

「な……俺はビビって無い!」

 ガイは声を荒らげたが、俺は構わず扉を開く。
次の部屋へと足を踏み入れる。

「……」

 床や壁に血飛沫の後がシミとなって残っている。
悪趣味もここまで来るとアートだな。
バラバラになった人骨も、さっきから辺りに散らばっているが、かなり時間が経っている所からすると、ずいぶん昔からこの屋敷はあったのだろう。

 そして知ってか知らずか時々人が入り込み、この屋敷の餌食になっているのだろう。
誰も居ないが何者かがうごめく気配は、どんどんと強くなってくる。

「何なんだよこの屋敷は。何の為にこんな物を建てる意味があるんだ?」

 ガイが気味悪そうに部屋の中を見回して言った。

「恐らくそこはもう、マンモンの腹の中じゃ。簡単に言えば屋敷に食われたんじゃろうな」

 サルバスの声が聞こえる。
全員で観戦中か。
俺はため息を吐いた。

「なあに。ニーズヘッグの腹の中に比べりゃ、たいした事無いだろ?」

 オオムカデンダルが鼻で笑う。
簡単に言ってくれるなよ。

 どうやらこの部屋は台所へと繋がるようだ。
俺は次の部屋へと扉を開く。

「ねえ……さっきからたくさんの話し声が聞こえるんだけど」

 ディーレが訴えた。
確かに気配の原因はこの話し声だ。
誰も居ないのに聞き取れないような声でザワザワと何かしら言っている。

「……恨み言かしら」

「そうかもな」

 俺はディーレの言葉に返事を返した。

「きゃああああああ!」

 俺が扉を開けた瞬間、女の絶叫が聞こえて来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

ヒューストン家の惨劇とその後の顛末

よもぎ
恋愛
照れ隠しで婚約者を罵倒しまくるクソ野郎が実際結婚までいった、その後のお話。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...