見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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六二八

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 屋敷に入ってすぐは、エントランスになっている。
かなり広く両脇から階段が二階へと続いていた。
一階はエントランスを突っ切ってそのまま真っ直ぐ進む道もある。

「さて、どっちだ……?」

 俺はマンモンへと続く最短ルートを探した。
余計な労力はピンチの回数に直結する。
面倒事は少ない方が良いに決まっている。

 視界の端に映されるレーダーを見るが、特に反応は無い。
だが相手はマンモンだ。
レーダーを過信するのは止めよう。

「迷った時は真っ直ぐ行けよ」

 オオムカデンダルが言う。
他人事だと思っているのか、本当にそうだと思っているのか。
俺はオオムカデンダルの言葉に乗って、そのままエントランスを突っ切った。

 廊下に繋がっている。
奥へ進むほど陰気な雰囲気が強くなっていく。
辺りはすっかり陽が落ちていた。
俺は暗闇でも問題ないが、みんなにとっては暗くて見通しが悪い。

「オレコ、灯りを」

 俺はオレコに灯りを灯すように言った。

「ライト」

 オレコが唱えると辺りがぼんやりと明るくなった。
だいたい十メートル前後は見えるだろうか。

「ライト」

 ルガもライトを唱える。
これで光源は二つになった。
だいぶ見通しは利くが、それでも廊下の先は暗闇のままだった。

「お前らも戦闘態勢をとっておけ」

「ちっ……判ってるよ」

 ガイは舌打ちをしてマスクをかぶった。他の三人もそれにならう。

「トラゴスは列の真ん中だ。最後尾はカルタスで良いな」

「おう。任せておけ」

 相変わらずカルタスの返事は頼もしい。
こんな雰囲気では、それだけでもずいぶんと違ってくるもんだ。

「……何か聞こえる」

 ルガが尖った耳をピクピクと動かしながら言った。
ダークエルフは人間よりも感覚器が鋭敏だ。
俺が聞こえる物はルガにも聞こえる。

 居るな。
確かに俺の耳にも、うめき声のような物が届いている。
そのまま慎重に歩き続ける。

 少しずつ視界に何かが入ってくる。
何だあれは。

「うううぅぅ……うあああぁぁぁ」

 廊下に人が倒れている。
うめき声の主はコイツか。

「誰か倒れています」

 トラゴスが近寄ろうとした。

「止まれトラゴス。うかつに近付くな」

 俺はトラゴスを制止した。

「え……でも」

 トラゴスが困惑したように俺を見た。

「こんな所にまともな人間が居るかよ。正体不明は全て排除する」

「でも、拐われて来た人だったら……」

「拐われて来たならもう死んでる。諦めろ」

「そんな……」

 俺は構わずズカズカと人影に近付いた。

「うあああああっ!」

 その瞬間、男が顔を上げた。

「!!」

 みんなが息を呑むのが聞こえた。

「シッ!」

 俺は短く息を吐きながら、迷い無く男の顔面を蹴飛ばした。

 ぐしゃっ!

 見た目とは裏腹に軽快な音がした。
男の首は胴体から離れて暗闇の中へと消えていった。

「……ナイスキック」

 ディーレが言った。

 ごん……ごろごろ

 通路の奥で頭が壁にぶつかった音がした。

「痛えぇぇよ……」

 暗闇の中から男の声がした。

「な?まともな人間じゃ無い」

 俺はそれ見た事かと肩をすくめた。

「ふふ。良い判断だ」

 オオムカデンダルが手を叩いた。
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