見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

文字の大きさ
上 下
598 / 826

五九八

しおりを挟む
 さて、どこへ降ろすか。
城の真ん前だと、さすがに不味いか。
離れて降ろして手で運んだ方が無難かもしれない。

 どのみち冷蔵庫ごと運ぶ事には変わりが無い。
目立つ事は避けられないだろう。

 俺は悩みながら着地場所を探していた。

「ん?」

 城門前に誰か居る。
あれはソル皇子だ。
待ちきれずに殿下自らお出ましになったのか。

 悩む意味無かったな。

 俺は手を振る殿下の近くにメタルシェルを下ろした。

「待っておったぞ。さ、早う早う」

 まるで子供のようにケーキの到着を待っている。

「殿下。荷物が結構大きいのですが」

 俺はどうするか尋ねた。

「構わぬ。箱ごと持って参れ」

 冷蔵庫ごとか。
ならば人手が要るな。
これは城の人間に任せて、早速俺は消えるとしよう。

「何を言うておる。そちが運ぶのじゃ」

 俺が?
運ぶのは簡単だが良いのか。
あまり人目に付きたくは無いが。

「良い。余が一緒だ、誰も文句は言わぬ」

 問題点の認識にズレがあるようだが、殿下が良いと言うならそうしよう。

「なら僕が持って行ってやろう」

 フィエステリアームが鼻を鳴らしてメタルシェルへと引き返す。
ソル皇子が不思議そうにその後ろ姿を眺める。

 たぶんフィエステリアームは自分がやってみたいのだ。
俺がやろうとしても自分でやるだろう。
俺はそう思ってフィエステリアームが戻ってくるのを黙って待った。

「のう。お主が運んでやらんで良いのかえ?」

「大丈夫です」

 しばらくすると、メタルシェルから巨大冷蔵庫を担いだフィエステリアームが出てきた。

「……なんと」

 ソル皇子が感嘆の声を漏らす。
無理もない。
フィエステリアームの見た目はまだ子供だ。

「余はお主たちとだけは、敵対したくないのう」

 ソル皇子は目を輝かせながら大笑いした。
殿下は好奇心旺盛だな。
恐れるよりも興味が勝っている。
どっかのムカデに似ている。

「さ、こっちじゃ。着いてまいれ」

 そう言うと、ソル皇子は意気揚々と先頭を歩いた。
さて、俺はここらで消えておくとしよう。

「殿下。私は姿を消しておきます。ですが
いつでもお側におります故、ご安心を」

「そうか。判った」

 ソル皇子の返事を聞いて、俺は透明化した。
これで見た目には、ソル皇子とフィエステリアームの二人だけになった。

 門を潜るとき、門番たちが目を丸くする。
その前を何事も無いようにソル皇子が通り過ぎ、その後ろからフィエステリアームが冷蔵庫を頭に乗せて通過した。

 俺は門番の顔を見て、噴き出しそうになるのを必死に堪えた。
城門を潜ると入り口へは向かわず裏手に回る。
荷物の搬入口がある方だ。
以前潜入した際に一度経験済みだ。
そこから城内に入って荷物置き場へ辿り着いた。

「殿下。冷蔵庫はここへ置いておくのですか?」

「レイゾウコ?」

 おっと。
その呼び名では通じないな。

「この箱の事です。食料を低温で冷やして保管する為の箱です」

「ほお、そんな事が可能なのか。ならば余の部屋へ運ぼう」

 冷蔵庫をか?
本気か。
この大きさだぞ。
部屋に入るのだろうか。

「問題ない」

 ソル皇子は嬉しそうにそう言うと、再び先頭を歩きだした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...