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五七五
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「話が進まない。別に人間一人ここに来たからと言って、何も出来やしない。蜻蛉洲、落ち着いて」
フィエステリアームが抑揚の無い声で蜻蛉洲に言った。
相変わらずその表情からは、感情が読み取れない。
「ち……」
蜻蛉洲は舌打ちをして腕を組んだ。
確かに、如何に帝国の皇子と言えども、この場で出来る事など何も無い。
仮に帝国軍が攻めてきた所で、彼らにとっては何の問題でも無いのだ。
「……面倒事はなるべく避けるべきだ」
蜻蛉洲はそう言ったきり黙った。
俺は蜻蛉洲の考えに基本的に賛成だ。
問題があるとか無いとかでは無く、わざわざ問題の種になりそうな事を、自ら招かなくても良かろうと言うだけなのだ。
「で、来てみた感想はどうだい?」
ソル皇子に椅子を勧めながら、オオムカデンダルが尋ねた。
「ふむ。不思議な所だの、見た事もない材質や装飾品ばかりじゃ」
ここには基本的に装飾品など無い。
ソル皇子が言っているのは壁に掛かった巨大なモニターや、扉の脇に設置されたセンサー類の事を言っているのだ。
「いささか拍子抜けの感もあるかの。もっと厳めしい雰囲気を想像しておった」
「はっはっはっ。そりゃそうかもな。秘密結社のアジトと聞けば、巨大な洞窟にアジトを構えてるのを想像しそうだもんな」
「そうじゃ。余もそう思っておったのだが、ずいぶんと文明的な感じがするのだな」
そう話すソル皇子がキョロキョロするうちに、
賢者サルバスの姿を見付けた。
「おお!サルバス殿!息災であったか!」
「ほっほっほっほっ。殿下もお変わり無く何よりですな」
「報告を受けた時はまさかと思うたのじゃが、本当にここへ居ったのだな」
「はい。何しろここは知的な好奇心を刺激する事ばかりでして。賢者としてチヤホヤされていたのが恥ずかしく思えるほどですじゃ」
「なるほどの。賢者にそこまで言わしめるとは、やはりここは常識外の場所であったか」
ソル皇子とサルバスは、互いの意見が同じである事を喜んでいるように見えた。
「ふふふ。やはり余の目に狂いは無かった」
「へえ。殿下の目には、どんな風に映ってるんだ?」
オオムカデンダルがそう尋ねた時、扉から小さな台が広間へと入って来た。
上にはお茶とケーキが乗っている。
「おおっ!?何じゃこれは!?」
ソル皇子が甲高い声で叫んだ。
無理もない。
俺も初めて見た時は、腰を抜かした。
「これは、この屋敷の管理人……の一部だ」
「管理人……の一部?」
ソル皇子は意味が理解できていない。
子犬のように首をかしげた。
「ようこそおいで下さいました。お初にお目にかかります。管理人でございます。どうぞお見知りおきを」
天井からスピーカーを通して管理人の声が聞こえた。
「な、何奴……?」
さすがのソル皇子も目を白黒させている。
理解しようとする様はさすがソル皇子だと感じるが、そう簡単には理解出来ない所がこの屋敷だ。
フィエステリアームが抑揚の無い声で蜻蛉洲に言った。
相変わらずその表情からは、感情が読み取れない。
「ち……」
蜻蛉洲は舌打ちをして腕を組んだ。
確かに、如何に帝国の皇子と言えども、この場で出来る事など何も無い。
仮に帝国軍が攻めてきた所で、彼らにとっては何の問題でも無いのだ。
「……面倒事はなるべく避けるべきだ」
蜻蛉洲はそう言ったきり黙った。
俺は蜻蛉洲の考えに基本的に賛成だ。
問題があるとか無いとかでは無く、わざわざ問題の種になりそうな事を、自ら招かなくても良かろうと言うだけなのだ。
「で、来てみた感想はどうだい?」
ソル皇子に椅子を勧めながら、オオムカデンダルが尋ねた。
「ふむ。不思議な所だの、見た事もない材質や装飾品ばかりじゃ」
ここには基本的に装飾品など無い。
ソル皇子が言っているのは壁に掛かった巨大なモニターや、扉の脇に設置されたセンサー類の事を言っているのだ。
「いささか拍子抜けの感もあるかの。もっと厳めしい雰囲気を想像しておった」
「はっはっはっ。そりゃそうかもな。秘密結社のアジトと聞けば、巨大な洞窟にアジトを構えてるのを想像しそうだもんな」
「そうじゃ。余もそう思っておったのだが、ずいぶんと文明的な感じがするのだな」
そう話すソル皇子がキョロキョロするうちに、
賢者サルバスの姿を見付けた。
「おお!サルバス殿!息災であったか!」
「ほっほっほっほっ。殿下もお変わり無く何よりですな」
「報告を受けた時はまさかと思うたのじゃが、本当にここへ居ったのだな」
「はい。何しろここは知的な好奇心を刺激する事ばかりでして。賢者としてチヤホヤされていたのが恥ずかしく思えるほどですじゃ」
「なるほどの。賢者にそこまで言わしめるとは、やはりここは常識外の場所であったか」
ソル皇子とサルバスは、互いの意見が同じである事を喜んでいるように見えた。
「ふふふ。やはり余の目に狂いは無かった」
「へえ。殿下の目には、どんな風に映ってるんだ?」
オオムカデンダルがそう尋ねた時、扉から小さな台が広間へと入って来た。
上にはお茶とケーキが乗っている。
「おおっ!?何じゃこれは!?」
ソル皇子が甲高い声で叫んだ。
無理もない。
俺も初めて見た時は、腰を抜かした。
「これは、この屋敷の管理人……の一部だ」
「管理人……の一部?」
ソル皇子は意味が理解できていない。
子犬のように首をかしげた。
「ようこそおいで下さいました。お初にお目にかかります。管理人でございます。どうぞお見知りおきを」
天井からスピーカーを通して管理人の声が聞こえた。
「な、何奴……?」
さすがのソル皇子も目を白黒させている。
理解しようとする様はさすがソル皇子だと感じるが、そう簡単には理解出来ない所がこの屋敷だ。
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