見知らぬ世界で秘密結社

小松菜

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五三八

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 タタタタタタタタタタっ

 小柄な女性らしい、軽い足取りだ。
だがその速さは、性別など関係無く速い。
いや、もはや人間の速さでは無かった。
むしろ動物と比べた方が良いだろう。

「ふふ、待てよ。どこまで行く気だ?」

 それをオオムカデンダルが追い掛ける。
彼の速さはもう知っている。
とんでも無く速いのは想像通りだが、それが今一つ追い付けていないのはオオムカデンダルが手を抜いているからだ。
それは間違いない。

 二人はニーズヘッグの上を、上へ下へと移動しながら走り回った。
だが女は何故逃げるのか。
予知が可能なら逃げる必要は無いのではないか。
俺は二人の追い掛けっこを眺めながらそう思った。

「……来るな」

 女が言う。

「ふふふ。そう言うなよ、まだ何もしていない」

 オオムカデンダルが付きまとい男のような事を言っている。
ここだけ見ると、悪者が乙女を追い回しているようにしか見えないな。
ま、間違ってはいないが。

『まだ何もしてない』か。
まるで今からするみたいな言い方だな。
俺はそう思って気が付いた。

 今からする予知が女に見えているんじゃないか。
でも逃げる程の事なのか。
かわせない攻撃?
そんな攻撃あるのか。

 俺は少し考えて、オオムカデンダルなら出来るなと思った。
女の身体能力自体は、普通の人間とさほど変わらないように見える。
魔法か何かで強化されている事は当然だとしても、あの身のこなしは肉体を使う事に慣れている動きでは無い。

 だったらオオムカデンダルにとって何ら脅威は無い筈だ。
スピードで、パワーで、火力で、攻撃手段で、全てで圧倒出来る。
どんなに策を労しても、通用しないなら逃げるしかない。
たぶん、相当残酷にやられる事が判ってしまったのだろう。
結局、オオムカデンダルの完封勝利は間違いないのだ。

「もうやめろ!」

 女は追い詰められてそう言った。

「さっきから言っている。まだ何もしていない」

 オオムカデンダルが女を追い詰めてそう言った。
サディストめ。

「殺すのか?私を……あんな残酷な方法で殺すのか?」

「さあ。俺はそうしようかと考えただけだが、お前が走って逃げ出すから追い掛けたのだ」

 意地悪なヤツだ。
やはり、女には恐ろしい何かが見えていたのだ。
なまじ見えてしまうだけに、知らない方が良かった事まで知ってしまう。

「最初に言っただろ。茶でも飲みながら話さないかと。招待するぜ、良い茶葉がある」

 オオムカデンダルは女を招待した。
なるほど。
最初の、話を聞こうと言う姿勢は本当だったのか。

「……」

 女は迷っているように見えた。
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